北野武監督の最新作『BROKEN RAGE』が、2025年2月14日よりAmazonプライムビデオで世界同時配信された。
本作は62分という短編ながら、前半と後半で全く異なるアプローチが取られた実験的な映画だ。
実際に視聴してみると、前半はサクサク進むクライムアクションで非常に見やすく、後半はまさかのセルフパロディ展開。
これは賛否が分かれそうな作品だが、北野映画の魅力が詰まった一本だった。
あらすじ:殺し屋「ねずみ」の狂騒
本作の主人公は、貧乏な殺し屋「ねずみ」(北野武)。彼はヤクザや警察に翻弄されながらも、与えられた仕事をこなしていく。
銃声が響く静かな街、裏切りが渦巻く組織、淡々とした会話の中で突如訪れる暴力——まさに北野作品らしい緊張感が漂う。
しかし、本作はただのクライムアクションでは終わらない。物語の後半に待ち受ける衝撃的な展開に、観る者は戸惑うことになる。
前半:サクサク進むクライムアクション
前半は、無駄を削ぎ落としたテンポの良いクライムアクションが展開される。
セリフも最小限で、登場人物たちは淡々と任務をこなしていく。
この部分はまさに「北野映画」の王道といった印象で、余計な説明を省いたストーリーテリングが冴え渡る。
シリアスな世界観に引き込まれ、緊張感のある演出と突然の暴力シーンが心地よい。
特に、銃撃戦のシーンは無駄なカットがなく、シンプルながらも迫力がある。
余韻を持たせる静寂、突如として訪れる死——まさに北野武の真骨頂といえる。
後半:セルフパロディ
しかし、物語は後半に突入すると大きく雰囲気が変わる。
前半と同じストーリーをセルフパロディとして再構成し、キャストがボケ倒すコメディに変貌するのだ。
前半ではクールに決めていた登場人物たちが、後半では明らかにふざけた演技を始め、セリフ回しも妙に軽妙になる。
突然のギャグシーン、ありえないほど大げさなアクション、そして監督自身によるセルフツッコミ……。
まるで『その男、凶暴につき』や『アウトレイジ』の世界に『全員集合』のようなドタバタ感が混ざったような奇妙な仕上がりになっている。
北野武の「笑い」と「暴力」
この構成には賛否が分かれる。
「クライムアクションを期待していたのに、なんで後半でふざけるんだ?」と思う人もいるかもしれない。
しかし、これこそが北野武の映画作りの本質なのかもしれない。
彼の作品には常に「暴力」と「笑い」の二面性があり、それを大胆に一つの映画に落とし込んだのが本作だ。
監督自身もかつて「暴力映画ばかり撮っていると飽きるし、笑いの要素も入れたくなる」と語っている。
まさにその思想を極限まで突き詰めた作品といえる。
『BROKEN RAGE』は見るべきか?
本作をおすすめできるのは、以下のような人だ。
- 北野映画の「暴力」と「笑い」の二面性を楽しみたい人
- シリアスなクライムアクションをサクッと観たい人
- 映画の常識にとらわれない実験的な作品を求めている人
逆に、「シリアスな北野映画しか受け付けない」という人には、後半の展開が受け入れられない可能性が高い。
まとめ
『BROKEN RAGE』は、前半のサクサク進むクライムアクションと、後半のセルフパロディという大胆な構成が特徴の異色作だった。
・前半はテンポの良いクライムアクションで、北野作品らしい緊張感がある
・後半はまさかのコメディ展開で、監督自身のセルフパロディ満載
・「暴力」と「笑い」の両方を極限まで突き詰めた、まさに北野武ならではの映画
観る人によって評価が分かれる。
間違いなく「他では観られない短編映画」であることは確かでした。