2025年5月4日の原油価格動向で、国際的な原油価格は、世界的な景気減速への懸念や一部産油国の供給姿勢の変化などを背景に、軟調な展開を見せています。
特に主要な指標であるWTI原油先物価格やブレント原油先物価格は、58ドル近辺まで下落しており、今後の動向が注目されています。ここ3年で見ると最安値で、このまま下落が続くシナリオを想定しています。
この記事では、仮にこの原油価格の下落傾向が2025年中も続くと仮定して、日米の株式市場、債券市場、金価格にどのような影響が考えられるか、そして、どのような業種の株価にとって追い風となる可能性があるのかを、一次的・二次的な影響に分けてシナリオを考えています。
1. 各市場への影響
日米株式市場
原油価格の下落は、日米株式市場に対してプラス・マイナス両面の影響を与えます。
プラス要因
- コスト削減 エネルギーコストや輸送コストの低下は、多くの企業の利益率改善につながります。特に製造業、運輸業、化学工業などエネルギー消費量の多いセクターには追い風です。
- 個人消費の刺激 ガソリン価格の下落や物価上昇圧力の緩和は、消費者の可処分所得を実質的に増加させ、小売業やサービス業などの消費関連株にプラスの影響を与える可能性があります。
- 金融緩和期待 原油安によるインフレ圧力の低下は、中央銀行(日銀やFRB)が金融引き締めペースを緩めたり、利下げに転じたりする可能性を高めます。これは株式市場全体にとって支援材料となります。
マイナス要因
- 世界経済減速懸念 原油価格の下落が、世界的な需要の減退を反映している場合、景気減速懸念から株式市場全体の上値を抑える可能性があります。
- エネルギーセクターへの打撃 石油開発・生産企業や関連サービス企業の業績悪化は避けられず、これらの株価は下落圧力にさらされます。米国市場ではエネルギーセクターの比重が日本より大きいため、このマイナス影響はより顕著になる可能性があります。
日米株式市場まとめ
日本はエネルギー輸入国であるため、コスト削減や消費刺激の恩恵を受けやすく、相対的に米国市場よりも原油安のメリットが大きいと考えられます。ただし、世界経済の動向次第では、両市場ともに景気減速懸念が重しとなる可能性もあります。
日米 国債市場・国債金利
国債価格上昇・金利低下
原油価格の下落はインフレ期待を後退させます。インフレ懸念が和らぐと、将来の金融引き締めの必要性が低下するため、国債が買われやすくなります(価格上昇)。
その結果、国債利回り(金利)は低下する傾向にあります。日米ともに同様の傾向が見られると考えられます。特に、インフレ抑制を重視するFRBにとっては、利下げへのハードルが下がる可能性があります。
金価格
金価格への影響は、相反する要因が働くため複合的になります。
下落要因
金は伝統的にインフレヘッジ資産と見なされることがあります。原油安によるディスインフレ(インフレ率の低下)圧力は、インフレヘッジとしての金の魅力を低下させ、価格の下落要因となる可能性があります。
上昇要因
一方で、原油安が世界経済の減速懸念を伴う場合や、それに伴う金融緩和期待が高まる場合、「安全資産」としての金の需要が高まる可能性があります。また、国債金利の低下は、金利を生まない金の相対的な魅力を高める要因にもなります。
金価格のまとめ
影響は複合的であり、インフレ期待の後退と安全資産需要のどちらが強く意識されるかによって方向性が変わる可能性があります。
2. 原油価格下落でプラスの影響を受ける可能性のある株銘柄
原油価格の下落は、経済活動の中で段階的に影響を及ぼします。ここでは、直接的な恩恵を受ける「一次作用」と、間接的な恩恵を受ける「二次作用」に分けて、具体的な業種と企業例を挙げます。
一次作用(直接的なコスト削減による恩恵)
運輸セクター 燃料費がコストの大きな部分を占めるため、直接的な恩恵が大きいです。
- 航空 日本航空(JAL)、ANAホールディングス
- 海運 日本郵船、商船三井、川崎汽船
- 陸運 JR各社(JR東日本、JR東海、JR西日本など)、私鉄各社、日本通運などの物流企業
化学セクター 原油由来のナフサを原料とするため、コスト削減効果が期待できます。
- 例 三菱ケミカルグループ、住友化学、三井化学、信越化学工業など
電力・ガスセクター 燃料調達コストが低下します。(ただし、燃料費調整制度により利益への反映は限定的な場合もあります)
- 例 東京電力ホールディングスなどの大手電力会社、東京ガス、大阪ガスなど
その他製造業 工場の稼働や製品輸送にかかるエネルギーコストが低下します。
- 例 タイヤメーカー(ブリヂストン)、ガラスメーカー(AGC)、製紙会社(王子ホールディングス)など
二次作用(間接的な恩恵)
小売・サービスセクター ガソリン価格の下落や物価上昇圧力の緩和により、消費者の購買意欲が刺激される可能性があります。
- 小売 イオン、セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリング
- 外食 すかいらーくホールディングス、日本マクドナルドホールディングス
- 旅行・レジャー エイチ・アイ・エス、オリエンタルランド
自動車セクター ガソリン価格の下落は、自動車(特に大型車やSUV)の購入意欲や使用頻度を高める可能性があります。(ただし、世界経済減速懸念はマイナス要因にもなり得ます)
- 例 トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車など
金利低下が追い風となるセクター
- 不動産 住宅ローン金利の低下期待などから、三井不動産、三菱地所などの不動産デベロッパー
- 高PER成長株(グロース株) 金利低下は将来のキャッシュフローの割引価値を高めるため、相対的に有利になる可能性があります。
シナリオの留意点
最後に、いくつかの留意点を挙げます。
このシナリオに、AIとアメリカ関税を考慮したシナリオが最も考えるべきことか思います。
- 上記の分析は「原油価格の下落が続く」という仮定に基づいています。地政学的リスクの高まりなど、予期せぬ要因で原油価格が反発する可能性もあります。
- 原油価格下落の背景にある要因(供給増加なのか、需要減退なのか)によって、市場への影響は異なります。特に需要減退(景気悪化)が主因である場合は、株式市場全体にとってはマイナス要因が強まる可能性があります。
- 各企業の業績は、原油価格以外の様々な要因(為替、個別企業の経営戦略、規制動向など)にも影響されます。
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