怪談話は人気だったようで、もう一つ私の体験談を書きます。
40代になってからは怪談めいた体験にあわなくなりましたが、30代までは引っ越すたびに、その家々で不思議な出来事がありました。今回お話するのは、39歳の夏、豊洲に住んでいたときのことです。
水辺の町・豊洲と小さな社
豊洲付近は川に囲まれ、水路も多い地域です。これまでにも、水が近くにある土地では怪談めいたことが起きやすいと感じていました。ある日、自転車で近所をぶらついていると、小さな社の前を通りました。京都周辺ではお地蔵さんの社はよく見かけますが、東京では珍しく、普段目にすることはほとんどありません。
その日はただ前を通り過ぎただけで、特に立ち寄ることもありませんでした。お地蔵さんか、珍しいなとは思いましたが。
家に帰り、深夜までパソコンで仕事をしていると、夜の静けさの中に「ぴしゃ…ぴしゃ…」と間をあけて響く音が聞こえてきました。
床に落ちた謎の水滴
エアコン以外に音を立てるものはない部屋で、「ぴしゃぴしゃ」という音。仕事の集中の邪魔になるなと思いながら、なんの音だろうかと思っていました。
トイレので席を立ち、歩くとリビングが濡れていました。
「えっ!濡れてる?」
30滴ほどの水滴が床に落ちており、水たまりになるほどではないものの、確かに濡れていたのです。
怖いというより不思議に感じました。ぴしゃぴしゃの音で濡れたのはわかったが、なぜ濡れたのだろう、なにか冷えすぎた部分から水滴でも付いたのかなと考えていました。
深夜2時、玄関からの「ドン!」
仕事も終わり、寝ることにしました。
寝室は玄関入って、すぐ右横。
寝始めて深夜2時過ぎ、突然「ドン!」と玄関の扉を叩く大きな音が響きました。
心臓が一気に高鳴ります。
外から誰かが玄関ドアを叩いたのかと思った次の瞬間、また「ドン!」。
耳を澄ますと、それは外ではなく、内側から響いているように感じられました。誰か玄関にいるのか?
そんなはずはありません。この部屋には私しか住んでいないのです。
数分間、恐怖で動けずにいました。やがて音は止みましたが、「止んだだけで、玄関の前にまだ何かいるのではないか」という不安が頭を離れません。
なぜ、内側からドアを強く叩く必要がある?
確かに内側から音がなり、いまはただ音が止んだだけだったのです。鳴らした本人が必ずいて、その気配がするのです。
玄関までのわずか2メートルが遠い
寝室と玄関は壁一枚を隔ててわずか2メートル。
そこに何かが立っているかもしれないと思うと、目を開けるのさえためらいました。もう玄関からとなりに来て、そばに立っているのではないか?
逡巡の末、意を決して立ち上がり、玄関に向かいます。電気をつけます。
なにもありません。いつもの静かな玄関でした。なにもなく整然としています。
安心した私は鍵がかかっていることを確認しました。恐怖は消えて、落ち着くことができます。その夜から玄関の電気を一度も消さなくなりました。以来、24時間365日、ずっと明かりを灯し続けています。
それからというもの、私は玄関の電気を消したことがありません。24時間365日、ずっとつけっぱなしです。電気代はLEDに変えたので、1ヶ月つけっぱなしでも100円ほどです。あの恐怖に支払う代金としては安いと感じます。
お地蔵さんの社にまつわる過去
後日、そのお地蔵さんの社の周辺の木場や東陽町には、80年以上前の出来事が関係していると知りました。
詳細は書きませんが、その出来事が今回の体験と関係あることを直感しました。ああ、これだと理解できました。1度だけしか起きなかった理由も。
豆知識: 日本の民間伝承では、水辺や古い社、特にお地蔵さんの祠は「境界」とされ、異界との接点になることが多いといわれます。豊洲のように水路が多い土地は、昔から不思議な話が残る傾向があります。
普通は怖さを感じない
この体験は一度きりでしたが、普段あまり怖さを感じない私が心底恐怖を覚えた出来事でした。
正体もわからない「ドン!」の音。
理由がわかったあと、私は安心をしています。
私の忘れられない体験の一つです。
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