ここ数年でよい動きを繰り返している、内海造船(証券コード 7018)。
公開されている一次資料(決算短信・IR・適時開示など)をもとに、業績・受注・ポジション・リスクを整理し、私なりに評価してみました。
投資判断はあくまで参考としてご覧ください。
① 直近の主なアップデート
・通期業績の大幅上方修正(2025年10月10日発表)
- 「業績予想の修正に関するお知らせ」として公表。
- 修正内容:営業利益 700 → 2,600 百万円、純利益 500 → 2,000 百万円、EPS 295 → 1,180 円、売上高 45,500 → 46,500 百万円。
- 修正理由:円安による外貨建て工事の上振れ、資機材価格見直し、生産性改善・経費削減。
この修正は非常にインパクトが大きく、「低水準からの業績回復シナリオ」を市場に提示した内容です。
・第1四半期(4–6月)実績
- 売上高:101.9 億円(前年比 ▲24.3 %)。
- 営業利益:4.26 億円(前年比 +66 %)。
- 売上営業利益率は前年同期 1.9 % → 今回 4.2 % に改善。
- 通期配当計画は 40円据え置き(本時点)。
売上は落ち込んでいるものの、利益率の改善が目立ち、構造改革の効果が少しずつ現れているように見えます。
② 受注と受注残・需給動向
・受注残高の状況
- 2025年3月期末の受注残高:1,005 億円(前年同期比 +4.0 %)。
- 修正後売上高(約465億円)比で約2.2年分のボリューム。
・年間受注額と構成比変化
- 受注額:485 億円(前年比 ▲24.9 %)。
- 輸出比率:57.8 % → 35.1 %に低下。
- 価格・納期の見合いで中小船主が慎重化。資機材・人件費上昇も背景。
受注残は厚いものの、毎期の新規受注の勢いが鈍化しており、「受注の谷間」が課題として浮上しています。
③ 事業ポジションと競争優位性
内海造船は、中型・小型フェリー、RO-RO船、一般貨物船、自動車運搬船、タンカーなど、多様な船種を製造しています。特に中・小型フェリー分野では業界トップクラスの実績を持ち、国内フェリー事業者からの信頼が厚いとされます。
また、防衛関連の輸送艦や特殊船も一部手掛けており、公共・防衛領域にも進出しています。ただし、造船業全体としては中国・韓国の量産体制が圧倒的で、スケール面での劣位は否めません。
④ マクロ・政策・環境トレンド
・追い風要因
- 政府の「海事クラスター強靭化」や「国立ドック構想」など、造船業再興に向けた政策支援が進行中。
- 円安基調が外貨建て契約・輸出案件にプラス。
・逆風要因
- 中国・韓国が量で優位。国際競争の激化。
- 円高転換リスク(今回の上方修正は円安寄与が大きい)。
- 鋼材・人件費高騰、技能者不足などの構造的課題。
- 過去に訴訟和解金4.55億円の特損計上(2024年2月)。案件リスク常在。
マクロ的には追い風と逆風が拮抗していますが、政策支援と円安トレンドが当面の業績を下支えしています。
⑤ 財務・配当スナップショット
- 2025年3月期:売上高446億円、営業利益14.1億円、EPS600.56円、BPS6,406.35円。
- 配当:前期40円、今期も40円(上方修正後も据え置き)。
- 増配方針は未言及。
利益は増減が大きいものの、財務基盤は安定しており、自己資本比率も高水準を維持しています。ただし配当利回りは約0.4%と控えめです。
⑥ バリュエーション概算(2025年10月10日時点)
- 株価:9,220円。
- 今期EPS(会社計画・修正後):1,180円。
- 予想PER:約7.8倍。
- PBR:約1.44倍(BPS6,406円基準)。
- 配当利回り:約0.4%。
低PER×受注残厚め×円安追い風で、「モメンタム寄りの割安銘柄」として注目されます。ただしインカム投資としての魅力は乏しく、値動きと業績改善を重視したトレード型の投資対象といえます。
⑦ 主なリスク要因
- 受注の谷間:新規受注減速で、2年後以降の稼働率・売上がブレる可能性。
- 為替反転:円高化で外貨建て案件の利益が減少。
- コスト・人材:鋼材価格や人件費の上昇、技能者不足が続く。
- 案件リスク:長期契約によるコスト増、訴訟リスクなど。
⑧ 投資判断(私見)
結論:短期(6〜12か月)は「押し目買い〜やや強気」、長期(3〜5年)は「中立」。
買い材料
- 通期上方修正によるモメンタム改善。
- 受注残2.2年分という安定性。
- PER約7.8倍の割安感。
- 政策支援と円安が追い風。
留意点
- 配当妙味はない
- 受注の先細り懸念
- 為替に敏感
投資戦略(シンプル版)
- エントリー:8,600〜9,000円レンジの押し目で分割購入。
- ベースシナリオ:会社計画達成 → PER8〜9倍で横ばい〜上昇。
- ブルシナリオ:円安継続+新燃料船案件でPBR1.6倍上限トライ。
- ベアシナリオ:円高+コスト再上昇でPER7倍台に調整。
- 損切りライン:直近高値から▲12〜15%。
豆知識:造船業界では「受注残 ÷ 年間売上高」で安定度を測ります。3年分以上あれば安定、1年未満だとリスク高。内海造船は約2.2年分で“中庸”の安定感です。
追い風下で割安期待も、波乱リスクを見逃すな
内海造船(7018)は、通期上方修正で業績改善の期待を強く印象づけました。受注残の厚みと円安という追い風を背景に短期的な評価見直しが進む可能性があります。一方で、受注減速や為替反転リスク、コスト上昇といった課題も明確です。
配当狙いより「モメンタムと利益回復」を重視する銘柄として位置づけるのが妥当でしょう。押し目買いを意識しつつ、決算・受注動向を見極めながら柔軟にポジションを調整することが肝要です。
最終的なカギは、「市場がこの上方修正をどれだけ織り込むか」と「為替と受注の持続性」。トレンドを見誤らない観察眼が問われる銘柄です。
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