欧米では、AIに奪われにくい高収入の技能職が脚光を浴び、ブルーカラービリオネアという言葉まで登場しています。
しかし、実際の賃金データや雇用動向を丁寧に調べると、一部は事実でも、かなり誇張された幻想も混ざっています。
米国で起きている構造変化
1. 若年大卒の失業率だけが悪化する異常な状況
米国の全体失業率は約4%と低水準を維持しているにもかかわらず、22歳から27歳の大卒者の失業率は約6%台に達し、過去10年以上で最悪レベルです。これは、若手ホワイトカラー向けの求人が選択的に減っていることを示します。
2. AIはどの職種を直撃しているのか
生成AIは、従来の機械化と異なる領域を侵食しています。過去の自動化は主に単純作業やルーチンワークを対象にしていましたが、生成AIは資料作成、文章処理、データ整理などホワイトカラーの非定型業務にも入り込んでいます。
同時に、低技能サービス職は依然として自動化リスクが高く、どちらか一方だけが危険という単純な話ではありません。
3. 若者が技能職に流れ始めている理由
Z世代の多くは「自動化されにくい仕事」を重視する傾向があります。電気工事士、配管工、大工などはAIに置き換えにくいと認識されており、職業訓練校の入学者数も増えています。ホワイトカラーの将来不安が背景にあるのは明らかです。
4. 賃金水準を数字で冷静に見る
米労働統計局のデータでは、2024年の年収中央値は以下の通りです。
豆知識 技能職の平均給与は比較的高いですが、地理的な需要に左右されやすく、都市部と地方で差が大きい傾向があります。
全体の年収中央値は49,500ドルほど。技能職は次の通りです。
電気工事士の年収中央値は62,000ドル台、配管工は62,000ドル後半。確かに全体より2割から3割高い水準ですが、上位10%でもおよそ100,000ドル前後が中心で、ビリオネアという言葉とはかけ離れています。実態としては、堅実なミドルクラスです。
欧州で見られる特徴
1. AIと自動化リスクの偏り
欧州でも、AIや自動化の影響は特定の層に集中しています。事務職や低賃金サービス職はリスクが高く、学歴が低いほど高リスク職の割合が増えています。英国の推計では、AIによって最大800万の雇用が代替されうる可能性も指摘されています。
2. 技能職不足と若者のミスマッチ
欧州は深刻な技能職不足に直面しています。建設、造船、機械工など、多くの分野で人手が足りず、海外から技能労働者を採用する国もあります。一方で、若年層の失業率は約14%前後と高く、見習い制度や職業訓練は不人気で枠が埋まらないという矛盾が続いています。
豆知識 欧州のアプレンティス制度は世界でも屈指の仕組みですが、大学進学志向が強まったことで応募者が減少し、技能職の供給が細っていることが課題です。
ブルーカラービリオネア論を賛否で整理する
賛成側が指摘する要素
生成AIが最初に置き換えているのはエントリーレベルのホワイトカラー業務です。一方、現場技能職は、
- 物理的な作業
- 対人対応
- 現場判断
といった要素を含み、現行技術では完全自動化が難しいとされています。技能職の賃金が全体平均より高いこと、人手不足で需要が強いこと、政府が訓練支援を拡大していることも追い風になっています。
反対側が指摘する要素
賃金水準について、上位10%でもおよそ100,000ドル前後が中心であり、「資産形成に圧倒的に有利な職」というわけではありません。
また、建設や製造は景気の波を強く受けるため、不況になれば需要が急減し、雇用が不安定になるリスクも大きい領域です。技能職もロボティクスや自動化の対象になり始めており、AIと完全に無縁ではありません。
押さえるべき重要点
1. データから言えること
AIの短期的な影響が大きいのは、事務職や若年ホワイトカラー、低技能サービス職です。技能ブルーカラーは現在のところ人手不足で賃金も強いですが、あくまでミドルクラスの範囲内であり、職種を変えるだけで資産家になれるような性質のものではありません。
さらに、若年ホワイトカラーの失業悪化がAIだけのせいかどうかは判断が難しく、景気影響など他要因も絡んでいます。
2. 起きやすい誤解や盲点
ブルーカラーとホワイトカラーを二項対立として捉えるのは危険です。本当に重要なのは、AIに置き換えられる領域か、AIに補完される領域かという点です。
また、技能職でも体力負荷や怪我リスク、地域需要の差などを無視すると判断を誤ります。どの職種でも、AIと補完関係にある技能を持つことが長期的な安定につながります。
豆知識 キャリアの価値を左右するのは肩書ではなく、AI時代に必要とされる「技能のポートフォリオ」です。
AI時代のキャリアにどう向き合うか
ブルーカラービリオネアという言葉は魅力的ですが、実態は技能職が安定したミドルクラス水準の収入を得ているというだけです。ホワイトカラーでもブルーカラーでも、AIによって影響を受ける部分と補完される部分が分かれています。
重要なのは、AIに置き換えられる仕事ではなく、AIと補完し合える領域を選び、計画的にスキルを積み上げることです。そのうえで、地域需要や健康リスクも含めた現実的な判断が必要になります。


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