日本銀行は金融政策決定会合において、無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.75%へ引き上げました。マイナス金利解除から段階的に進んできた金融正常化が、はっきりとした形で可視化された決定です。この水準は1990年代半ば以来であり、日本の金融政策史の中でも明確な転換点に位置づけられます。
今回の利上げは、景気を冷やすための緊急対応というより、長年続いた異常な低金利環境を是正する過程の一部と捉えるほうが実態に近いです。一方で、実体経済や市場参加者にとっては無視できない変化であり、評価は単純ではありません。
なぜ0.75%まで引き上げたのか
最大の理由は、物価と賃金の関係です。日本のコアCPIは2023年以降、2%を上回る状態が定着し、2025年に入ってもおおむね3%前後で推移しています。日銀が掲げてきた「一時的ではない物価上昇」という条件は、データ上ほぼ満たされた状態にあります。
加えて、春闘を中心とした賃金改定が複数年にわたり確認され、名目賃金の上昇が継続しています。実質賃金についてはなお弱さが残るものの、企業側の価格転嫁行動は以前よりも定着しています。日銀が金融緩和を続ける合理性は、徐々に薄れていました。
補足: ロイター通信によるエコノミスト調査では、2025年12月時点で政策金利0.75%への引き上げは「想定の範囲内」とする回答が多数派でした。
市場への短期的な影響
債券市場では、日本国債利回りがすでに織り込みを進めており、発表直後の反応は限定的でした。これは、今回の利上げがサプライズではなかったことを示しています。一方で、金利のある世界が常態化するとの認識は、徐々に市場構造を変えていきます。
為替市場では、円高効果は限定的でした。日米金利差は依然として大きく、日銀の利上げ単独で円安トレンドが反転する状況にはありません。この点は、利上げ=円高という単純な図式が成り立たなくなっていることを示しています。
株式市場では、銀行や保険など金利上昇の恩恵を受けやすいセクターと、借入コスト上昇が逆風となるセクターで評価が分かれやすくなっています。指数全体よりも、業種間の差が意識される局面です。
今後の焦点
今後の焦点は、追加利上げの有無とペースです。0.75%がゴールなのか、1.00%程度まで進むのかで、経済への影響は大きく変わります。日銀は「データ次第」という姿勢を維持しており、賃金、消費、物価の組み合わせが判断材料になります。
もう一つの焦点は、海外との金融政策の相対関係です。米国や欧州が利下げ局面に入れば、日本の利上げは為替や資本移動に異なる影響を与えます。日本単体ではなく、グローバルな金利環境の中で評価する必要があります。
住宅ローンと預金金利はどう変わるのか。家計に起きる現実
政策金利0.75%という数字は、ニュースとしては地味ですが、家計には静かに効いてきます。まず影響が見えやすいのが住宅ローンです。変動型住宅ローンは、短期プライムレートや無担保コール翌日物金利と連動するため、今回の利上げは数か月遅れで返済額に反映されます。
例えば、借入残高3000万円、返済期間35年、変動金利0.5%で借りている場合、金利が0.75%へ上昇すると、年間利息は約7.5万円増えます。月額では約6000円です。劇的ではありませんが、電気代や食料品が上がっている状況では無視しにくい数字です。
一方、預金金利はどうかというと、ここが消費者にとっての違和感の源です。メガバンクの普通預金金利は、利上げ前でも0.02%前後にとどまっていました。仮に0.1%まで上がったとしても、100万円を1年預けて利息は1000円です。税引き後は約800円であり、物価上昇率にはまったく追いつきません。
つまり、借りる側の負担は増えるが、貯める側の恩恵は限定的という非対称な構造が続きます。これは銀行の怠慢というより、日本の金融システムが長年の低金利に最適化されすぎた結果です。預金で増やすという発想自体が、現実とズレ始めています。
普通くらいの金利になり始めている
日銀の政策金利0.75%への引き上げは、異常な金融環境からの脱却を象徴する出来事です。
過度に楽観も悲観もせず、金利が動く前提で企業や家計、市場がどう適応していくかを見る局面に入ったと言えます。

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