グリーンランドだの、ベネズエラだの、イランだの、関税だの、クレカ金利だの、事件単体ではなく、アメリカの方針の筋を先に置いてからニュースを見る必要があります。
いまのアメリカがやろうとしていることは、米国の勢力圏と産業基盤を作り直し、交渉のルールそのものを米国優位に再設計しようとしています。
対外は経済レバーと軍事力で相手と同盟国を交渉の場に引きずり出し、対内は生活コストの痛点だけを目立つ形で軽減して支持を固めるということをやっています。
まず公式文書で筋を押さえる 2025年国家安全保障戦略が示す優先順位
陰謀っぽいストーリーがたくさん出回っていて、そう見えるのも仕方ないとは思います。
が、そこで便利なのが公式文書です。
2025年の米国の国家安全保障戦略では、優先順位の絞り込みとPeace Through Strengthが明確に掲げられています。さらに地域の重点として、西半球での覇権回復と域外勢力の排除を強く打ち出し、貿易と関税を外交手段として前面に出しています。
要するに、アメリカの視点では「世界のどこでも良い話」に手を広げるより、自国の安全保障に直結する範囲に重心を戻す。そして抑止は善意ではなく強さで作ろうとしています。
西半球重視はニュース解読の鍵になる
2025年戦略では、西半球における米国の優越を条件とし、域外の競争相手が戦略資産を保有または支配することを否定する趣旨が書かれています。さらに、同地域の戦略資源を同盟国と共同開発し、供給網を近場で固める方向性も明記されています。
対外の道具箱は3つ 関税と資源と軍事
手段A 関税は棒であり交渉の入口でもある
相互主義を掲げる関税政策は、単なる景気策というより交渉の入口として機能します。2025年4月には、相互関税によって貿易慣行を是正する趣旨の大統領令が出ています。ここで重要なのは、関税そのものより、関税を起点に相手国の市場アクセスや安全保障負担を含めてディールを組み直す発想です。
そして、いわゆるミラン周辺の議論として、関税を通貨や資本フローの問題に接続して語る枠組みが取り沙汰されました。ただし、この手の構想は後半ほど実現難度が上がり、思惑が先行しやすい。市場が過剰反応しやすいのは、ここに理由があります。
豆知識:相互関税は仲良くするための制度ではなく、相手の制度や補助金や規制を交渉の俎上に載せるための装置として働きやすいです。
手段B 資源とエネルギーは内政と外交を同時に動かす
資源とエネルギーは便利です。国内ではインフレや生活コストの論点に直結し、外交では同盟国や周辺国の選択を縛れます。さらに供給網の話にも直結するので、産業基盤の作り直しと相性が良い。北極圏や西半球に対して関心が集まるのは、軍事だけでなく資源と航路と拠点が同時に手に入るからです。
手段C 軍事力は交渉の背景であり条件変更の圧力になる
2027年度の米国防予算を大幅に増やす構想が報じられ、関税収入を財源として挙げる発言も伝えられています。ポイントは、戦争をしたいかどうかではなく、交渉の背景としての軍事力を強化して条件変更を迫る姿勢です。強さを見せることで、ディールのテーブルに相手を戻す。まさにPeace Through Strengthの文脈です。
地域別に見ると意図がはっきりする 西半球 北極圏 中東
ベネズエラは西半球を米国主導で整理する動き
2026年1月には、ベネズエラの石油収入が米国内の口座にある資金として扱われ、それを差し押さえなどから守る趣旨の大統領令が報じられました。ここで起きているのは、善悪の裁きというより、資金の蛇口を米国側が握り、政治と資源を米国の外交目的に沿う形で整流化する動きです。西半球の主導権確立とエネルギー支配力の強化が同時に進むので、公式戦略とも噛み合います。
日本の感覚だと、国外の資金を守るのは相手のためにも見えますが、米国流だと違います。守ることで管理できる。管理できると交渉材料が増える。ここの発想に慣れると、ニュースが急に論理的に見えます。
グリーンランドは北極圏の拠点と資源と航路の固定
2026年1月にかけて、米国がグリーンランドを安全保障上の理由で必要とするという趣旨の報道や分析が複数出ています。ここは中露対抗という大義も乗りやすい一方で、実務的には北極圏の拠点確保と資源安全保障と航路という三点セットの価値が大きいです。つまり、世界のどこかを守るというより、米国が有利に動ける地図のピンを増やす動きと読むのが筋です。
イランは圧力と介入示唆で地域秩序を動かす
2026年1月、イランでは大規模抗議と通信遮断が報じられ、死者数や拘束者数の情報も出ています。米国の攻撃の可能性が取り沙汰され、イスラエル側が高警戒という文脈も報じられました。ここも中露を止めるというより、不安定化の局面をテコに主導権を取り直す方向が見えます。つまり、核やミサイルを含む地域秩序の条件を交渉で作り直すための圧力です。
対内政策が緩和っぽく見える理由 生活コストの痛点だけを狙う
対外で関税や国防費を動かすと、インフレや金利の痛みが出やすいです。そこで対内は、インフレを完封するというより、家計がいちばん刺さる部分だけを目立って軽減する設計になりがちです。
象徴例が、2026年1月10日に報じられたクレジットカード金利を1年間10パーセントに抑える提案です。実現方法の課題や業界の反発も指摘されていますが、政治的には分かりやすい。毎月の請求書という現実に直撃するからです。ここは支持固めとして非常に合理的です。
家計にとって嬉しいかどうかと、政策として無理がないかどうかは別問題です。ただ、筋としては一貫しています。
投資家が見るべき観測ポイント
- 相互関税が恒久ルール化するか。例外が増えるのか、原則が増えるのかで本気度が分かります。
- 国防費増が具体的な調達や生産能力投資に落ちるか。発言で終わるのか、契約で動くのかが分かれ目です。
- ベネズエラの資金と制裁運用がどう動くか。解除なのか、米国管理のまま目的を変えるのかで読みが変わります。
- イランへの圧力が追加制裁か軍事態勢か外交協議のどれに具体化するか。曖昧な示唆が、手続きと実務に落ちる瞬間が山場です。
そして副作用として、交渉が進むほど市場のボラティリティは上がりやすいです。商品や為替や株は、実体より先に思惑が走るからです。特に通貨協調のような大技は、成立が難しいほど観測が膨らみやすい。ここは振り回されないために、あえて淡々と見た方が得です。
アメリカは世界を説得しているのではなくルールを作っている
散発的なニュースの正体は、バラバラの事件ではなく、同じ設計思想の断片です。アメリカがやろうとしているのは、米国中心のブロックを安全保障と供給網と資源で再構築し、関税と軍事力で相手をその枠に従わせることです。公式戦略の文言を土台に置けば、グリーンランドもベネズエラもイランも、そしてクレカ金利の話まで、同じ土台で進んでいます。
トランプ政権だから目立つだけであって、これまでのアメリカ大統領であったなら静かに進めていただけの内容かもしれません。


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