2026年3月、中東情勢の緊迫化でブレント原油が1バレル100ドルを超え、INPEXの株価は上場来高値を更新しました。でも今の株価は「割安なのか、もう織り込み済みなのか」、判断に迷う方も多いはずです。
INPEXが2026年2月に発表した決算短信・会社予想の感応度と、現在の原油価格・為替レートを組み合わせて、利益・EPS・適正株価を機械的に試算します。
マトリクス表を使って「油価何ドル×ドル円何円なら適正株価はいくらか」を一目でわかるように整理しました。
そもそもINPEXってどんな会社?
INPEXは日本最大の石油・天然ガスの開発・生産会社で、東証プライムに上場する鉱業セクターの代表銘柄(コード:1605)です。オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトを筆頭に、アジア・中東・ヨーロッパなど世界各地で油田・ガス田を運営しています。
収益の柱は原油・天然ガスの販売です。そのため、原油価格が上がれば利益が膨らみ、円安になればさらに上乗せされるという構造を持っています。逆に言えば、原油安や急激な円高には弱い。このシンプルな収益モデルが、株価と原油価格・為替レートの連動性を高めています。
INPEXの基本データ(2026年3月16日時点):
東証プライム上場、コード1605。2025年12月期の売上収益は約2兆113億円、親会社帰属当期利益は3,938億円。2026年3月13日に上場来高値4,435円を更新。時価総額は約5.5兆円規模まで拡大しています。
会社予想の感応度とは何か
INPEXは毎期の決算短信で、「原油価格や為替が1単位動くと利益がどれだけ変わるか」という感応度を開示しています。これは非常に便利な数字で、投資家がシナリオ別の利益を自分で計算できるようにする目的で公開されています。
2026年12月期の会社予想における感応度は次のとおりです。
会社予想の基準値:ブレント原油63ドル、ドル円151円、親会社帰属当期利益3,300億円
この基準に対して、原油価格が1ドル上昇するごとに当期利益が約55億円増加し、ドル円が1円円安になるごとに当期利益が約30億円増加します。逆方向も同様に効きます。この感応度を使えば、さまざまな油価・為替シナリオで利益を計算できます。
なお、EPSの計算には2025年実績の平均発行済株式数である約11.90億株を使用しています。
試算式(計算方法):
想定当期利益(億円)= 3,300 + 55 × (ブレント油価 – 63) + 30 × (ドル円 – 151)
想定EPS(円)= 想定当期利益 ÷ 11.90億株
利益マトリクス:油価×為替で利益はどう変わるか
上記の計算式を使って、ブレント原油価格が80ドル・90ドル・100ドル・120ドルの4段階、ドル円が150円・155円・158円・165円の4段階で組み合わせた16通りの想定当期利益をまとめました。
| ブレント \ ドル円 | 150円 | 155円 | 158円 | 165円 |
|---|---|---|---|---|
| 80ドル | 4,205億円 | 4,355億円 | 4,445億円 | 4,655億円 |
| 90ドル | 4,755億円 | 4,905億円 | 4,995億円 | 5,205億円 |
| 100ドル | 5,305億円 | 5,455億円 | 5,545億円 | 5,755億円 |
| 120ドル | 6,405億円 | 6,555億円 | 6,645億円 | 6,855億円 |
たとえばブレント100ドル・ドル円158円という現在の市場環境に近いシナリオでは、想定利益は約5,545億円になります。これは会社予想3,300億円のほぼ1.7倍です。いかに原油高・円安が業績に大きく効くかがわかります。
EPSマトリクス:1株あたり利益で適正株価の土台を作る
利益をそのまま眺めても株価との比較がしにくいので、1株あたり利益(EPS)に換算します。利益を約11.90億株で割った数値が以下です。
| ブレント \ ドル円 | 150円 | 155円 | 158円 | 165円 |
|---|---|---|---|---|
| 80ドル | 353円 | 366円 | 373円 | 391円 |
| 90ドル | 400円 | 412円 | 420円 | 437円 |
| 100ドル | 446円 | 458円 | 466円 | 484円 |
| 120ドル | 538円 | 551円 | 558円 | 576円 |
100ドル・158円シナリオのEPSは約466円です。このEPSに適切なPER(株価収益率)を掛けることで、「理論上の適正株価」を導き出せます。
適正株価はいくら?PER法で試算する
INPEXのような資源株には、テクノロジー株のような高いPERは通常つきません。事業の特性上、利益が商品市況に左右される「シクリカル(景気循環型)」銘柄として扱われるため、市場は保守的なPERで評価することが多いです。
ここでは資源株として妥当なPER8倍・9倍・10倍の3段階で適正株価を計算します。中心値はPER9倍です。
PER9倍での適正株価(円)
各シナリオのEPSにPER9倍を掛けた数値が目安の適正株価です。
| ブレント \ ドル円 | 150円 | 155円 | 158円 | 165円 |
|---|---|---|---|---|
| 80ドル | 3,179円 | 3,293円 | 3,361円 | 3,519円 |
| 90ドル | 3,595円 | 3,708円 | 3,777円 | 3,935円 |
| 100ドル | 4,011円 | 4,124円 | 4,192円 | 4,351円 |
| 120ドル | 4,843円 | 4,956円 | 5,024円 | 5,183円 |
たとえば100ドル・158円のシナリオならPER9倍での適正株価は約4,192円、PER10倍なら約4,658円、PER8倍なら約3,726円という計算になります。
総還元利回り法でもチェックする
INPEXは2025年から2027年の株主還元方針として「総還元性向50%以上」を掲げています。100ドル・158円シナリオの想定利益5,545億円の50%は約2,773億円。これを11.90億株で割ると、1株あたり総還元余力は約233円になります。
この金額を市場が要求する総還元利回りで割り返すと、総還元利回り6%なら約3,882円、5.5%なら約4,236円、5%なら約4,660円という水準が導かれます。PER法の結果と大きく矛盾しないことが確認できます。
2026年予想配当について:
INPEXの2026年12月期の会社予想配当は1株108円(会社予想ベース)です。仮に100ドル・158円シナリオで総還元性向50%が維持され、増配・自社株買いが上積みされると、株主への還元額はさらに膨らむ可能性があります。
今の株価は何を織り込んでいるのか
2026年3月13日にINPEXは上場来高値となる4,435円を記録しました。同じタイミングでブレント原油は終値で100ドルを超え、2022年8月以来の高水準に達しています。中東の紛争激化によるホルムズ海峡の輸送障害が主な要因です。
今の株価4,400円前後をPER法の適正株価表に照らし合わせると、ブレント100ドル前後・ドル円155〜158円のシナリオをかなり織り込んだ水準に見えます。
アナリストの平均目標株価は2026年3月時点で約3,514円と報じられており、現在の株価を下回っています。これはアナリストの多くが、今の原油高は一時的なものと見て、会社予想に近い保守的な油価(63ドル前後)をベースに目標株価を設定しているためと考えられます。
つまり市場(現在の株価)とアナリスト(目標株価)の間には大きなギャップがあります。このギャップを埋めるのが、あなた自身の原油価格見通しです。
今後の株価を左右する3つのシナリオ
シナリオA:原油高が長期化するケース
中東紛争が長期化し、ホルムズ海峡の輸送制限が続く場合、ブレントが100〜120ドルで推移する可能性があります。この場合、適正株価の中心値は4,200〜5,000円台になり、現在の株価水準をさらに上回る余地が生まれます。増配や自社株買いの拡充が加われば、さらなる上昇要因となるでしょう。
シナリオB:紛争が収束し原油が80〜90ドル台に落ち着くケース
中東情勢が落ち着き、OPECプラスの増産も再開されれば、ブレントは80〜90ドル台に収束することが考えられます。その場合の適正株価の中心値はPER9倍で3,200〜3,900円程度となり、現在の株価は割高に見えてきます。
シナリオC:原油が63ドル以下に下落するケース
会社予想ベースの63ドルを下回ると、利益は3,300億円を割り込みます。世界景気後退やOPECの大幅増産が重なった場合、ブレントが60ドル以下になるシナリオも排除できません。このとき会社予想を大幅に下回る水準での業績修正が起こりうる点は注意が必要です。
感応度計算の注意点:
INPEXが開示する感応度(油価1ドルあたり+55億円)は、期初時点の参考値です。会社自身が「生産量・設備投資・コスト回収・税金によって実際の影響は変わり、線形ではない」と明示しています。また感応度は四半期が進むほど小さくなります(1Q:55億円、2Q:36億円、3Q:19億円、4Q:8億円)。年の途中から油価が上昇しただけでは、上の試算ほど利益は伸びません。
INPEXの適正株価の考え方
「ブレント100ドル・ドル円158円が通期平均で続くなら、PER9倍ベースの適正株価は約4,200円前後。8〜10倍のレンジで見ると3,700〜4,700円」ということになります。
2026年3月16日時点の株価4,300〜4,400円台は、100ドル・158円シナリオをほぼ反映した水準です。さらに大きく上昇するには、油価の120ドル接近か、追加の株主還元施策の発表が必要になるとみられます。
一方で、中東情勢が収束に向かい原油が80ドル台に戻れば、3,200〜3,900円台が「適正」という見方も十分成立します。結局のところ、INPEXへの投資は原油価格と為替の見通しに対する自分なりの仮説を持つことが出発点です。


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