ナフサ不足で食料品が買えない?米イラン戦争が招く影響と注目すべき日本株

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私たちの日常生活をもっと直接的に脅かす問題があります。それがナフサ不足です。

この物質が不足すると、スーパーで食品が買えなくなったり、シャンプーや洗剤が手に入らなくなったりする可能性があるのです。大げさではありません。ナフサがなければ、私たちは文字通り普通の生活を送ることができなくなります。

ナフサって何?私たちの生活とどう関係があるの

ナフサとは、原油を精製する際に得られる透明な液体で、ガソリンに似た性質を持つ石油製品です。キャンプ好きの方ならホワイトガソリンという名前で馴染みがあるかもしれません。

このナフサを高温で熱分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼンといった基礎化学品が生まれます。そしてこれらの基礎化学品から、プラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料、医薬品、農薬、半導体材料など、現代社会を支えるあらゆる製品が作られているのです。

つまり、ナフサは私たちの生活を支える根幹となる原料なのです。ガソリンがなくなれば車が動かなくなるように、ナフサがなくなれば私たちの生活そのものが成り立たなくなります。

日本のナフサ在庫はたった20日分しかない

日本国内のナフサ在庫は約20日分しかありません。原油の国家備蓄が約250日分あるのと比べると、その脆弱さが際立ちます。

さらに深刻なのは、日本がナフサの約6割を輸入に頼っており、その輸入分の約7割が中東からという状況です。ホルムズ海峡の封鎖により、日本のナフサ供給の生命線が断たれてしまったのです。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、日本はロシア産原油の輸入を事実上停止しました。その結果、原油の中東依存度は2025年に約94%まで高まっていました。エネルギー供給を中東に一極集中させてしまった構造的な脆弱性が、今回のイラン情勢で露呈したのです。

ナフサがないと具体的にどんな影響が出るのか

ナフサ不足が私たちの生活に与える影響は、想像以上に広範囲で深刻です。すでに三菱ケミカルや出光興産などの大手企業がエチレン製造装置の減産や停止を開始しており、影響は現実のものとなっています。

食品が買えなくなる可能性

スーパーやコンビニで当たり前のように使われている食品トレー、ラップフィルム、ペットボトル、納豆のパックなど、これらはすべてナフサから作られるプラスチック製品です。ナフサ不足により包装材が枯渇すれば、食品を陳列することも持ち帰ることもできなくなります。

特に生鮮食品は包装がなければ販売できません。肉や魚をトレーに乗せて販売することができなくなり、野菜を袋詰めすることもできなくなります。食品そのものはあっても、包装材がないために店頭に並ばないという事態が起こりうるのです。

日用品が手に入らなくなる

シャンプーや洗剤のボトル、化粧品の容器、歯ブラシ、スポンジなど、私たちが毎日使う日用品の大半もナフサから作られています。これらの生産が止まれば、清潔な生活を維持することすら難しくなります。

すでに出光興産はナフサから作られる合成樹脂原料の値上げを発表しており、日用品メーカーも製品価格の引き上げを検討しています。手に入らないだけでなく、手に入っても高額になる可能性が高いのです。

医療現場への深刻な打撃

点滴バッグ、注射器、医療用手袋、カテーテルなど、医療現場で欠かせない器具の多くもプラスチック製です。ナフサ不足が長期化すれば、医療の質にも影響が出かねません。

自動車産業への連鎖的影響

自動車の内装部品や外装パーツの多くにポリプロピレンという樹脂が使われています。ナフサ不足によりポリプロピレンの供給が滞れば、自動車生産にも大きな影響が出ます。タイヤの原料となる合成ゴムもナフサ由来のため、タイヤ不足も懸念されます。

衣類や繊維製品も不足

ポリエステルなどの合成繊維もナフサから作られます。衣類、カーテン、寝具、カーペットなど、私たちの身の回りの繊維製品の多くが影響を受ける可能性があります。

ナフサ不足のタイムライン

専門家の分析によると、ナフサ在庫が約20日分しかないため、ホルムズ海峡の封鎖が続けば4月以降に物流現場への影響が本格化すると見られています。最初に表面化するのは包装材や日用品の品薄で、次にエネルギー関連、そして自動車や電子機器など広範囲な製造業に波及していく見通しです。

政府も企業も対応を迫られている

この深刻な事態を受けて、日本企業は対策に乗り出しています。三菱ケミカルは茨城事業所のエチレン製造装置の稼働率を引き下げ、原料枯渇による突然の停止を避けようとしています。出光興産も山口県と千葉県のエチレン生産設備を停止する可能性を取引先に通知しました。

シンガポールでは住友化学グループがアクリル樹脂原料でフォースマジュール(不可抗力)を宣言し、契約上の供給義務を免除される措置を取っています。アジア全域で石化プラントの減産やフォースマジュール宣言が相次いでおり、グローバルなサプライチェーンが大きく揺らいでいます。

東海東京インテリジェンス・ラボのアナリストは、中東からのナフサ供給を代替するのは現実的ではないと指摘し、事態が長期化した場合、政府が優先順位を決めざるを得ないと警鐘を鳴らしています。ナフサをガソリンとして使うのか、化学原料として使うのか、政治判断が必要になる可能性もあるのです。

ナフサ不足で株価が上がる日本企業とは

この危機的状況の中で、逆に恩恵を受ける企業も存在します。投資の観点から注目すべき銘柄を見ていきましょう。

信越化学工業(4063)ナフサに依存しない強み

日本を代表する化学メーカーである信越化学工業は、ナフサ不足の影響をほとんど受けない特殊な立ち位置にあります。

同社の米国子会社シンテックは、中東のナフサではなく米国のシェールガス由来のエタンを原料として塩化ビニル樹脂を生産しています。ナフサ価格が高騰すればするほど、世界中のライバル企業がコスト増で苦しむ中、信越化学は逆に競争力を高める構造になっているのです。

さらに半導体シリコンウェハーで世界シェア1位(約40%超)を誇り、生成AIやデータセンター需要の拡大で半導体材料事業も好調です。ナフサ危機とは無縁の収益構造が、今回の中東情勢で改めて注目されています。

米国化学大手も恩恵を受ける

米国のダウ・インクやライオンデルバセル・インダストリーズといった化学大手も、安価な米国産エタンを原料としているため、アジアのナフサ依存企業に対して圧倒的なコスト競争力を持っています。

アジアの石化設備が次々と供給停止に追い込まれる中、これらの米国企業が生産するプラスチックの国際価格が跳ね上がり、利益率が極大化しています。イラン情勢の緊迫化が、米国の石油化学セクターにとって構造的な利益押し上げ要因になっているのです。

エタンクラッカーとは

エタンクラッカーとは、シェールガスから得られるエタンを原料としてエチレンを生産する装置のことです。従来のナフサクラッカーと比べて原料コストが大幅に安く、中東情勢の影響も受けにくいため、競争優位性が高いとされています。信越化学の米国子会社シンテックは、このエタンクラッカーを保有する数少ない日本関連企業です。

再生素材メーカーにも注目

ナフサ不足を背景に、廃プラスチックを化学的に分解して再び原料に戻すケミカルリサイクル技術を持つ企業にも関心が向かっています。リファインバースグループなど、再生素材関連企業の株価が逆行高となる場面も見られました。

中長期的には、ナフサ依存からの脱却を目指す企業の動きが加速すると予想され、バイオマス由来の化学品製造や廃プラスチックリサイクル技術を持つ企業への投資機会が広がる可能性があります。

この危機はいつまで続くのか

米国防総省は対イラン戦争の完了には4〜6週間かかると見ており、戦争は3週目に入ったばかりです。ホルムズ海峡の封鎖がいつ解除されるかは予断を許しません。

トランプ大統領は日本や英国などに対してホルムズ海峡に艦船を派遣するよう求めており、日米首脳会談でもこの問題が議題になる見通しです。しかし、海峡の通航再開には時間がかかると予想され、少なくとも4月中旬までは厳しい状況が続く可能性が高いとされています。

アジアのナフサ指標価格は3月11日時点で1トン856ドルを記録し、上昇圧力が顕著になっています。この価格高騰が合成樹脂の値上がりに波及すれば、プラスチック製品を使うあらゆる製造業のコスト構造が悪化するでしょう。

ナフサ不足への備えは何か

ナフサ不足の備えとしては、日用品や包装材料を使う製品の在庫を少し多めに持っておくことが考えられます。ただし、買い占めは混乱を招くため控えるべきです。

長期的には、プラスチック製品への依存度を下げ、紙製品やガラス製品など代替品の利用を増やすことも一つの選択肢です。また、使い捨てプラスチックを減らし、リユース可能な製品を選ぶことで、ナフサ需要を少しでも抑えることができます。

投資家の視点では、ナフサに依存しない企業や、再生素材技術を持つ企業への投資を検討する価値があるでしょう。信越化学工業のようにエタンクラッカーを持つ企業は、今後のエネルギー危機に対する強い耐性を持っています。

ナフサ不足は他人事ではない

米イラン戦争によるホルムズ海峡封鎖は、原油価格やガソリン代の値上がりだけでなく、私たちの日常生活を根底から揺るがすナフサ不足という深刻な問題を引き起こしています。

スーパーで食品が買えなくなる、シャンプーや洗剤が手に入らなくなる、医療現場が混乱する。これらは決して大げさな話ではなく、在庫20日分という現実の数字が示す切迫した危機なのです。

同時に、この危機は日本のエネルギー供給構造の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。中東への過度な依存から脱却し、供給源を多角化することの重要性が、これほど明確に示されたことはありません。

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