【想定シミュレーション】ホルムズ海峡が3年止まったら日本はどうなるのか?

暇つぶし

ホルムズ海峡が3年間にわたって機能停止したとしたら、日本はいったいどうなるのでしょうか。なんとなく数ヶ月くらいで終わるのではないかと考えていますが、そうでなかったらどうなるのか。

ガソリンや電気代はもちろん、私たちの食卓やプラスチック製品、さらには医療や農業まで、想像を超えた絶望の連鎖が始まります。

最悪のシミュレーションを段階的に整理したうえで、日本政府と国民がとりうる現実的な立て直し策を考えています。

ホルムズ海峡とはどんな場所なのか

ホルムズ海峡はイランとオマーンに挟まれた、世界で最も重要なエネルギーの関所です。この33キロメートル幅の水路を、毎日およそ2,000万バレル(世界の石油消費量の約20パーセント)もの原油やLNG(液化天然ガス)が通過しています。特に日本にとってはこの海峡がエネルギーの生命線と呼んでも過言ではない存在で、日本が輸入する原油の約90パーセントがここを経由しています。

日本の中東依存率は現在93パーセントにのぼるとされており、これは先進国の中で最も高い水準です。石油ショック以降、政府は輸入先の多様化を目指しましたが東南アジアや南米、アフリカなど他の産油地域からの調達量を十分に増やすことができず、結果として中東への集中は解消されないままとなりました。

豆知識: ホルムズ海峡の地理的なリスク

海峡の水深は75メートルから100メートルと浅く、機雷を敷設しやすい地形です。イランは海峡北岸の島に軍事拠点を構えており、高速艇やドローン、地対艦ミサイルを使った非対称戦術で船舶を脅かすことができます。実際に通航できる航路幅はわずか約6キロメートルほどしかなく、タンカー1隻ごとに護衛艦が必要になるほど防衛が難しい場所です。

3年間封鎖の最悪シミュレーション、段階別に見る連鎖

第1段階(封鎖から約0〜8か月): 備蓄猶予の時間

日本は現在、国家備蓄と民間備蓄を合わせて約8か月分(254日分)の石油を蓄えています。これはIEAが義務付ける90日分を大幅に上回る水準です。したがって封鎖直後はすぐにガソリンが尽きるわけではありません。しかし、原油価格の急騰による影響は封鎖初日から始まります。

野村総合研究所の試算では、軍事衝突が長期化して原油輸送への支障が続いた場合、ガソリン価格は1リットルあたり200円を超えます。さらにホルムズ海峡が完全封鎖された状態が1年以上続くという見通しが立てば、ガソリン価格は1リットル328円にまで高騰するという試算も出ています。電気代やガス代もLNG価格の上昇に伴い数か月のタイムラグを経て跳ね上がり、家計への圧迫が急速に強まります。

この段階ではまだ高くて困るが何とかなるレベルです。政府はG7と協調して戦略備蓄の放出を行いますが、放出した分を再補充することは海峡が閉じている限り物理的に不可能です。時間が経つほど手持ちの備蓄は目減りしていきます。

第2段階(封鎖から約8か月〜1年半): 備蓄が枯渇し生活の前提が変わる

備蓄が残り数か月を切ると、日本社会は一気に局面が変わります。原油価格が1バレル140ドルを超えるような悪化シナリオでは、日本の実質GDPを1年目に0.6パーセント、2年目に1パーセント近く押し下げるという試算が出ています。これはトランプ関税が日本経済に与えた打撃を上回る水準です。

物流コストの上昇はほぼすべての商品価格に波及します。ビニールハウスの加温代が上がれば野菜が値上がりし、トラック燃料が高騰すれば宅配便の料金も上昇します。パンや麺の原料である小麦も輸送コストが乗って値上がりし、食卓への圧力は物価が高いというレベルを超えて食材を選ぶ余裕がなくなる段階へと移行します。

さらなる問題がナフサ不足です。ナフサは石油化学製品の基礎原料で、日本の製油所で生産できる量は国内需要の3割程度にとどまります。残り7割のうち中東産の輸入分はホルムズ海峡の封鎖で途絶えます。ナフサからはエチレンが生産され、そこからプラスチック、合成ゴム、合成繊維が作られます。ナフサが止まれば日本の製造業全体に深刻な打撃が及び、自動車部品や家電製品の生産ラインが次々と停止しかねません。

第3段階(封鎖から1年半〜3年): 農業崩壊と肥料ショックという見えない脅威

3年という長期に及べば、石油に直接関係がないように見える農業にも深刻な影響が及びます。現代農業は天然ガスを原料とした窒素肥料なしには成立しません。

中東産の天然ガスから作られるアンモニア系肥料の供給が絶たれると、世界中で農産物の生産量が落ち込みます。これが肥料ショックと呼ばれるリスクで、ガソリン価格の上昇より時間がかかるぶん可視化されにくく、発覚したときには農作物の収量が大幅に落ち込んでいるという怖さがあります。

肥料コストが急騰すれば農家の経営は行き詰まり、食料の国内生産量が減少します。日本はもともと食料自給率が低く、小麦や大豆など主要穀物は大半を輸入に頼っています。エネルギー危機と食料危機が同時に押し寄せる構図は、1970年代の石油ショックとは次元が異なる複合危機です。

フェーズ 期間の目安 主な影響 ガソリン価格の目安
第1段階 封鎖から0〜8か月 価格高騰・備蓄取り崩し開始 200〜330円/リットル
第2段階 8か月〜1年半 備蓄枯渇・製造業停滞・スタグフレーション 300〜400円以上
第3段階 1年半〜3年 農業崩壊・食料危機・産業の空洞化 価格統制・配給制度の可能性も

知っておきたい: ナフサ備蓄はガソリンより短命

ガソリンや軽油には約8か月分の備蓄がありますが、石油化学の原料となるナフサの備蓄はそれよりも短く、封鎖が長期化すれば早い段階でプラスチック製品や合成繊維の生産が止まります。ナフサ不足で最初に影響が出るのはペットボトルや食品の包装材、医療用のチューブや手袋など、日常生活に欠かせない物品です。

日本政府が打てる立て直しの一手とは

即効策: 備蓄放出と国際協調

まず政府が取り得る即効策は、IEAを通じたG7各国との協調備蓄放出です。2026年3月には日本政府が単独で過去最多規模となる約8,000万バレル(45日分相当)の放出を表明しました。しかしこれはあくまで時間を買う措置です。海峡が封鎖されている限り放出した分を補充できないため、放出を続けるほど手持ちは減り続けます。

同時に重要なのが、中東諸国が保有する迂回パイプラインの最大活用です。サウジアラビアは紅海側のヤンブー港へ、UAEはオマーン湾側のフジャイラ港へそれぞれパイプラインを持っており、ホルムズ海峡を経由せずに原油を輸出できます。ただし両ルートとも既に5〜6割が稼働中であり、追加できる量には限界があります。加えてクウェートやカタール、バーレーンなど迂回手段を持たない国々からの石油は完全に途絶えます。代替ルートで賄えるのは失われる輸送量のごく一部にすぎません。

中期策: 輸入先の緊急多様化と原子力の再稼働加速

中期的には輸入先の緊急多様化が不可欠です。米国、カナダ、ブラジル、ノルウェーといった非中東産油国からの原油調達を政府間交渉で早急に拡大します。LNGについては日本はすでにオーストラリアやマレーシア、米国からの調達が多く、LNG輸入全体に占めるホルムズ経由分は約6パーセント程度と低め(それでも市場価格への影響は避けられませんが)です。長期化する場合はスポット市場でのLNG買い増しを政府が主導する必要があります。

加えて現実的な対策として、安全確認が完了した原子力発電所の再稼働を加速させることも重要な柱になります。現在、石油火力が発電量に占める割合は約7パーセントにまで低下しており、1970年代の石油ショック時の60パーセントとは大きく異なります。石油が止まっても電力が完全に止まることはないものの、LNG価格の急騰は電気代を直撃するため、LNGに頼らない発電源の確保が急務です。

長期策: GX(グリーントランスフォーメーション)の前倒し加速

根本的な処方箋は、石油や天然ガスへの依存度そのものを社会全体で下げていくことです。政府が推進するGX戦略は再生可能エネルギーの拡大、水素・アンモニアへの燃料転換、そして原子力の活用を通じてエネルギー構造の転換を目指すものです。太陽光や洋上風力の設備を増やし、電気自動車(EV)の普及を後押しする方向は長期的に有効です。

ホルムズ海峡危機は、こうした10年から20年単位の変革を国家的な急務として前倒しするための歴史的な転機にもなりえます。再エネやEVは理想論だという声もありますが、原油の90パーセントを一本の水路に依存している現状を続ける限り、同じリスクは何度でも繰り返されます。

個人の今すぐできる5つの備え

政府の動きを待つだけでなく、私たちひとりひとりにも今すぐできることがあります。パニックになって買いだめに走ることは逆効果ですが、冷静に準備を進めることは賢明です。

1. ローリングストックで食料を1週間分備蓄する。 普段使いの食品を少し多めに買い、古いものから消費しながら補充するローリングストック方式が最もムダのない方法です。米、缶詰、乾麺、レトルト食品などを中心に揃えましょう。

2. 省エネの習慣を今から身につける。 暖房や冷房の設定を1度変えるだけで電気代は変わります。LED照明への切り替え、使わない電化製品のコンセントを抜く習慣、節水など、日常的な省エネが電気代の高騰を和らげます。

3. ガソリン車の利用を見直し、公共交通機関を活用する。 急発進や急加速を避けるエコドライブだけで燃費が1〜2割改善することが知られています。近距離は自転車や徒歩に切り替えるだけで家計防衛になります。

4. エネルギー価格の動きを定期的にチェックする。 ホルムズ海峡原油価格中東情勢のキーワードを毎日のニュースで追う習慣をつけましょう。価格上昇の予兆を早めに察知することで、給油のタイミングや節電の切り替えを先手で打つことができます。

5. 家計のエネルギーコスト1.5倍シナリオをシミュレーションしておく。 今のガソリン代と電気代を把握したうえで、それが1.5倍になった場合に家計にどれほどの影響があるかを試算しておくと、いざという時の対応が格段に速くなります。

1973年の石油ショックと今回の違い

1973年の石油ショックでは石油の輸入が実際に途絶えたわけではないにもかかわらず、日本中でパニックが起きてスーパーからトイレットペーパーが消えました。今回のホルムズ海峡封鎖では実際に石油の流れが止まっているにも関わらず、当時ほどのパニックにはなっていません。その理由は約8か月分の備蓄があること、そして石油火力発電の比率が当時の60パーセントから現在の7パーセントまで下がったことです。ただし3年という長期になれば話はまったく別であり、備蓄の枯渇とナフサ不足が重なる局面では1973年をはるかに上回る影響が出ます。

ホルムズ依存は今すぐ解決されないので行動を変える必要がある

ここまで最悪のシミュレーションをたどってきましたが、日本はすでに1970年代の教訓から石油備蓄制度を整備し、石油火力への依存を大幅に下げるという対策を着実に実行してきました。その成果は今回の封鎖初期に意外と社会が落ち着いているという形で現れています。

今後の課題は備蓄という防衛線を活用している間に、輸入先の多様化とエネルギー構造の転換を本気で加速させることです。再生可能エネルギーの普及やEVの拡大は、単なる環境対策ではなく国家安全保障の問題でもあります。電気を太陽や風から作れるようになれば、ホルムズ海峡の動向に毎回一喜一憂する必要がなくなります。

ホルムズ海峡が遠い中東の話ではなく来月の電気代の話であることを、今回の事態は改めて教えてくれています。

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