瀬戸内の小さな島を舞台に始まる物語『汝、星のごとく』。
本屋大賞受賞作ということで読み始めました。
本記事では、あらすじや登場人物、感動を呼ぶ仕掛けを解説しながら、なぜこの作品が多くの読者を惹きつけるのかを掘り下げます。
あらすじ
物語は「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。」という衝撃的な冒頭から始まります。
舞台は瀬戸内の島。島育ちの井上暁海と、母に連れられて京都からやってきた青埜櫂が出会い、互いの壊れた家庭に共鳴しあうことで惹かれ合っていきます。
暁海は父の不倫と母の不調に翻弄される中で、刺繍という手仕事に生きる道を見出します。一方の櫂は恋愛依存の母に振り回されながらも、創作活動に情熱を傾けます。
二人は離れたり戻ったりを繰り返しながら、大人へと成長し、約15年の時間をかけて「依存から自立」へ歩んでいきます。
登場人物
- 井上暁海:島育ち。刺繍を通じて生き方を見つける。強さと弱さを併せ持つ。
- 青埜櫂:転校生。母の依存に苦しみながらも創作を続ける。
- 井上志穂:暁海の母。家庭の崩壊で心身が不安定になり、娘をヤングケアラーにしてしまう。
- 青埜ほのか:櫂の母。恋愛依存の姿が息子に影を落とす。
- 林瞳子:刺繍作家。暁海にとって救いであり、同時に複雑な存在。
- 北原先生:二人を支える教師。スピンオフ『星を編む』で背景が深掘りされる。
感動を呼ぶ理由
1. 冒頭の衝撃と複線回収
「夫が恋人に会う」という一文から始まり、読み進めるうちにその意味が少しずつ回収されていく構造が読者を惹きつけます。
2. 悪役を作らない群像劇
加害者も被害者も一面的ではなく、それぞれの弱さや事情を描くことで「誰もが自分を重ねられる」物語になっています。
3. 依存から自立への成長
暁海は刺繍に、櫂は創作に未来を託し、それぞれが自由を得るまでに多くの代償を払います。この「自由のコスト」が深い共感を呼びます。
4. ケアする子どもの苦しみ
親を支えることが子ども自身を縛ってしまう。ヤングケアラーの現実をリアルに描くことで、読む者の胸を強く打ちます。
豆知識: 本作は2023年「本屋大賞」を受賞。さらに2025年に文庫化、2026年に横浜流星×広瀬すず主演で映画化が予定されています。長期的に注目される一冊です。
作品の広がり
- スピンオフ短編集『星を編む』が刊行され、登場人物の別の視点が描かれている。
- Kiss誌でコミカライズが進行中。若い世代にも広がりを見せている。
- 2026年公開予定の実写映画は藤井道人監督、脚本は安達奈緒子という豪華布陣。
単なる恋愛小説ではなかった
『汝、星のごとく』は単なる恋愛小説ではありません。家庭の崩壊、依存、ヤングケアラー、自立といった、現代社会の課題を真正面から描いた現代文学の傑作です。読者は「正しい答えのない問い」に直面し、自分自身の選択や人生を振り返らずにはいられません。
重くも温かい読後感を残す本作は、2025年の今もなお多くの人に読み継がれています。
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