味の素の作り方を調べてみると、石油から作っている廃棄物みたいな素材が原料、昔は危険な製法だったといった情報がわんさか出てきます。一体どれが本当で、どれが誤解なのか。
味の素の製造方法の歴史と現在の実態を、公式情報や文献をもとに整理しました。
味の素の正体とは
まず基本から確認しておきましょう。味の素の主成分はL-グルタミン酸ナトリウム(MSG)というアミノ酸の一種です。グルタミン酸は昆布、トマト、チーズ、みそ、しょうゆなど、私たちが日常的に食べている食品に自然に含まれているうま味成分です。
1908年、東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布だしの中にこの成分を発見し、うま味と名付けました。翌年には鈴木商店(現・味の素株式会社)が商品化し、味の素として発売されました。つまり味の素とは、自然界にもともと存在するうま味成分を取り出して使いやすくしたものです。
豆知識: うま味は第5の基本味
甘味・塩味・酸味・苦味に続く第5の基本味としてうま味が科学的に認められたのは比較的最近のことです。グルタミン酸ナトリウムは、昆布100gあたり約2,240mgもの量が含まれており、私たちは普段から昆布だしを通じてこの成分を自然に摂取しています。
製造方法は時代によって3段階で変わってきた
味の素の製造方法は、発売から現在まで大きく3つの段階を経ています。ここをきちんと整理すると、ネットで流れている情報の何が古い話で、何が今の話かがはっきりします。
第1段階: 小麦グルテンを分解していた時代(1908年〜)
発売当初は、小麦のたんぱく質(グルテン)を塩酸で分解してグルタミン酸を取り出す抽出法が使われていました。天然由来の原料ではあるものの、コストが非常に高く、大量生産には向かない方法でした。
第2段階: 石油由来の化学合成法(1963年〜1973年)
コスト削減を求めて、石油化学原料を使う合成法が導入されました。具体的には、石油を精製して得られるプロピレンを原料にアクリロニトリルを合成し、それをさらに化学処理してグルタミン酸ナトリウムを作るという方法です。四日市の東海工場で1963年から本格生産が始まりました。
ここが味の素は石油から作っているという話の根拠です。ただし、この方法は1973年に完全に廃止されています。廃止の理由は複数ありましたが、当時の経営トップが消費者が石油由来という点に対して感覚的な抵抗感を持っていることも理由の一つとして明確に言及しています。
なお、1969年の国会審議では、石油製法について製品に発がん性のタールが残留するかは当時検査されていなかったという指摘が野党からなされており、当時の味の素側の幹部は安全性確認には多世代にわたる長期試験が必要で、一企業での実施は困難と答弁していました。この点は、当時の製法に対する疑問が公的な場でも提起されていた事実として知っておく価値があります。
第3段階: 現在の発酵法(1973年〜現在)
現在の製法は、みそやしょうゆの製造と同じ発酵法です。味の素の公式説明によると、日本向け製品ではさとうきびの糖蜜を原料に、グルタミン酸生産菌を使って発酵させ、グルタミン酸ナトリウムを取り出すという工程をとっています。具体的な流れは以下の通りです。
| 工程 | 内容 |
|---|---|
| 発酵 | さとうきびの糖蜜にグルタミン酸生産菌を加えて培養し、糖をグルタミン酸に変換する |
| 精製 | フィルターや活性炭を使ってグルタミン酸の純度を高める |
| 結晶化 | 水に溶けやすいグルタミン酸ナトリウムの結晶にする |
| 完成 | 濃縮・乾燥して製品化。イノシン酸・グアニル酸ナトリウムを加えてうま味を調整 |
サトウキビの残りカスから作っている?
サトウキビの砂糖を取った後の残りかすを使っているのでは?という声をよく見かけます。
糖蜜とは、砂糖の製造過程で砂糖の結晶を取り除いた後に残る、糖分を含む濃い液体のことです。砂糖製造の副産物であることは事実ですが、副産物イコール廃棄物ではありません。糖蜜はそれ自体がさまざまな食品や飼料の原料として利用されており、発酵に使える糖源として十分な価値を持つ素材です。
また、糖蜜はあくまで発酵の栄養源であり、微生物がその糖を消費してグルタミン酸を作り出します。最終製品となるグルタミン酸ナトリウムは、その後フィルターと活性炭で精製された結晶です。原料の見た目と最終製品は全くの別物です。
豆知識: さとうきび以外の原料も使われる
日本向けの製品は主にさとうきびの糖蜜が原料ですが、製造国や工場によってはキャッサバ芋(タピオカ)やとうもろこしのでんぷんが使われることもあります。これは味の素の公式案内でも明記されています。世界各地に工場を持つグローバル企業ならではの原料の多様性です。
現在の発酵法の安全性はどう評価されているか
現在の発酵法で作られたグルタミン酸ナトリウム(MSG)の安全性については、世界の主要な食品安全機関が評価を行っています。その結果を整理すると次の通りです。
| 機関 | 評価内容 |
|---|---|
| JECFA(国連FAO/WHO合同委員会) | 1987年、通常の経口摂取では幼児を含めヒトへの毒性はないと評価。一日許容摂取量を特定しないと結論 |
| FDA(米国食品医薬品局) | GRASに分類。食酢・食塩と同じ安全性カテゴリに位置づけ |
| EFSA(欧州食品安全機関) | 2017年に再評価を実施。一日摂取許容量を30mg/kg体重/日と設定 |
| ハーバード大学医学部 | 2024年、グルタミン酸ナトリウム自体が人体に悪影響を及ぼす可能性は低いと発表 |
一方で、EFSAの評価では摂取量の上限目安が設定されていることも事実です。安全が確認されているとはどれだけ食べても問題ないという意味ではなく、通常の調味料として使う範囲であれば問題ないという意味です。
また、グルタミン酸ナトリウムには過剰摂取に気づきにくいという特徴があります。塩辛すぎると感じれば自然と使う量を抑えるのと違い、グルタミン酸ナトリウムはある程度の量を超えると味覚の感受性が飽和し、気づかないうちに多くの量を摂取してしまう可能性があります。料理の中での使いすぎには注意が必要です。
化学調味料という呼び名の誤解
味の素は化学調味料だから体に悪いという声も根強く残っています。しかし、この化学調味料という名称の由来を知ると、少し見方が変わります。
この呼び方は1950年代にNHKの料理番組が生んだ言葉です。公共放送の立場上、特定の商品名味の素を使えなかったため、一般名称として化学調味料と呼ぶようになったのが始まりです。その後この呼称が広まり、化学物質のイメージが定着してしまいました。現在は行政も業界もうま味調味料という名称に統一しており、化学調味料という言葉自体が時代の産物であることを知っておくと、フラットに情報を見やすくなります。
私たちはどう判断すればいいか
味の素は、さとうきびの糖蜜を発酵させて作るみそ・しょうゆと同様の製法で製造されています。石油由来の合成法は1973年に廃止されており、50年以上前の話です。現行の発酵法による製品の安全性は、世界の主要機関で評価されています。
ただし、完全に何も心配いらないと言い切るのも正確ではありません。過剰摂取のリスクについては注意が必要ですし、個人の体質や感受性によっては影響を感じる方もいます。昔の石油合成法の時代に当時の検査体制が十分だったかという疑問も、歴史的事実として存在します。
大切なのは、なんとなく怖いでもメーカーが安全と言っているから問題ないでもなく、事実を整理した上で自分の使い方を決めることです。調味料として通常の量を使う分には、現時点で問題があるとする科学的根拠はありません。一方で、料理の味を育てる楽しみも大切にしながら、使いすぎない工夫をするのが賢い向き合い方だと思います。
知っておきたい: 昆布だしとの違いはあるか
昆布のグルタミン酸と、味の素のグルタミン酸は体の中で違う働きをするのか?という疑問も多く聞かれます。食品安全の資料によると、添加されたグルタミン酸と天然のグルタミン酸の間に化学的な差はないとされています。同じ分子構造のものを、体は区別せず処理します。天然だから安全、人工だから危険という単純な図式は、少なくとも現在の科学的理解とは一致しません。

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