2020年代に入り、金市場では「中央銀行による買い」と「ドルの希薄化(マネー供給の拡大)」という2つの構造要因が同時進行しています。
これらを定量的に整理し、金価格の上昇余地を数値で検証しました。
① 中央銀行による金買いの常態化
世界の中央銀行による金の純購入量は、過去3年間で年1,000トン超を維持しています。
- 2022年:1,082t(過去最高)
- 2023年:1,037t(過去2番目)
- 2024年:1,045t(3年連続で1,000t超)
- 2025年上期(H1):約415t(Q1: 248.6t、Q2: 166.5t)
特に中露や新興国を中心に、中央銀行の金保有増加は「恒常化した構造的需要」となっており、年1,000t規模が新たな常態となっています。

Central Bank Gold Reserves Survey
② ドルの流通総額とマネー供給
ドルの発行残高とマネー供給量(2025年9月時点)は以下の通りです。
| 指標 | 金額 |
|---|---|
| 米ドル現金(M0相当) | 約2.41兆ドル |
| 米国マネーサプライ(M2) | 約22.2兆ドル |
M2はコロナ以降の金融緩和を経て高水準で推移しており、ドルの実質的な希薄化が進行しています。
③ 金の時価総額をマネーと比較する
世界に存在する地上在庫は約216,265トン(2024年末時点)で、これをオンス換算すると約69.53億オンスとなります。
金価格が1オンス=3,900ドルの場合、全地上金の時価総額はおよそ27.1兆ドルに相当します。
ただし、実際にマネー代替資産として機能するのは、中央銀行と投資家が保有する部分(約86,389トン)に限定されます。
| 想定価格 | 実質マネー相当の金時価総額 |
|---|---|
| $3,900/oz | 約10.8兆ドル |
| $4,300/oz | 約11.9兆ドル |
| $5,000/oz | 約13.9兆ドル |
④ 金価格「上昇余地」を数量でみる
仮に、米国のマネーサプライ(M2)の一部が金に置き換わると仮定した場合、均衡価格の目安は次の通りです。
- M2全体(22.2兆ドル)と同規模に達するための価格:約8,000ドル/oz
- M0(2.41兆ドル)と同規模になるための価格:約870ドル/oz(既に超過済み)
このため、金価格が8,000ドルを目指すシナリオは、「ドルマネーの一部が金に置き換わる」ケースの上限シナリオとして合理的に説明可能です。
⑤ 総合的な解釈
現状の金市場を整理すると、次のように要約できます。
- 中銀の金買いは年1,000t超で定着し、需給の底堅さを形成。
- ドルの希薄化により、金の「マネーとしての相対価値」が上昇中。
- 金の実質的なマネー代替ストック(約10兆ドル)は、M2水準にまだ達していない。
このため、金価格が今後さらに上昇する余地は理論的に存在します。
単純化すれば、$8,000/oz付近は「米M2並みのマネー置換」を前提とする上限レンジとみなせます。

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