ソフトバンクは莫大な資金を持ち、パークシャやプリファードネットワークスといったAI企業も存在していました。
しかし、それでもDeepSeekのような大規模言語モデル(LLM)を開発する企業は日本から生まれませんでした。
日本には技術力がありながら、なぜこのような状況になってしまったのでしょうか?
そして、「日本は変われない」ままでも、この状況を打開し、AI企業を生み出す方法はあるのでしょうか?
1. 日本は変われない——既存の構造的な問題
日本がAI分野で遅れを取っている要因として、以下のような構造的な問題が挙げられます。
① 資金の投じ方が間違っている
日本の投資環境では、短期的な収益を求める傾向が強く、「失敗を前提としたリスクマネー」がほとんど存在しないのが問題です。
例えば、ソフトバンクは多額の資金を持っていますが、日本国内のAIスタートアップにはほとんど投資せず、海外のOpenAIやAnthropicに資金を提供しました。
これは、日本国内にはDeepSeekのような企業を育てるだけのリスクマネーの仕組みがなかったことを示しています。
② 研究開発のスケールが小さすぎる
DeepSeekのようなLLMを開発するには、数百億〜数千億円規模の計算資源と継続的な資金投入が必要です。
しかし、日本ではAI研究に十分な資金が投じられず、多くの研究者が限られたリソースの中で「効率の良いモデル」開発にとどまってしまうのが現状です。
世界では「規模の経済」がAI競争を左右する中、日本は「効率重視」の戦略を取っており、結果としてグローバルな競争から取り残されています。
③ 優秀な研究者が海外に流出している
日本のAI研究者は世界でも評価が高いですが、待遇や研究環境の差により、優秀な人材が米国や中国へ流出しています。
例えば、OpenAIには日本人の研究者が複数在籍していますが、彼らが日本企業に残っていたら、果たして同じ成果を上げられたでしょうか?
日本の環境では、研究者が思う存分チャレンジできる土壌がないのが現実です。
④ 産業界と政府の連携不足、そして規制の壁
米国や中国では、政府がAI開発に積極的に関与し、民間企業との連携を強化しています。
一方、日本では政府の支援が限定的であり、特にデータ活用に関する規制が厳しく、AIの学習データを自由に集めることが難しい状況にあります。
AI開発において、「データの量」は決定的に重要です。日本は規制の影響で、そもそも競争のスタートラインに立てていない可能性が高いのです。
2. それでも、日本でDeepSeekのような企業を生み出す方法はあるのか?
「日本は変われない」という前提のもと、それでもAI企業を生み出す方法を考える必要があります。
① 海外資本を積極的に受け入れる
日本国内ではリスクマネーが不足しているため、海外資本を活用するのが現実的な選択肢です。
例えば、ソフトバンクのような企業が日本のAIスタートアップに直接投資するのではなく、海外資本と共同でファンドを設立し、日本の企業がそこから資金調達できる仕組みを作ることが考えられます。
また、海外のAI企業との共同研究やジョイントベンチャーを増やし、日本の技術を活かしながらグローバル市場にアクセスすることも重要です。
② 「規模の経済」ではなく「特化戦略」を取る
日本はLLMの開発競争では規模の面で勝てません。しかし、特定の分野に特化したAI開発なら可能性があります。
- 医療分野に特化したAI
- 製造業向けの高度なAIシステム
- 自動翻訳・自然言語処理に特化した技術
など、日本が強みを持つ分野に絞り込むことで、世界で戦える可能性が高まります。
③ 優秀な人材を海外から呼び込む
日本からの人材流出は止められないかもしれませんが、逆に海外の優秀な研究者を日本に呼び込む施策を進めることで、競争力を維持できます。
- AI研究者向けの特別ビザの導入
- 国際的なAI研究機関の設立
- 研究者が自由に活動できる環境の整備
といった施策が考えられます。
これは、シンガポールやUAEなどが既に実践している戦略であり、日本でも応用可能でしょう。
④ 既存の大企業ではなく、新興企業が主導する
日本の大企業はスピード感が遅く、リスクを取らない傾向があるため、AI開発を主導するのは難しいでしょう。
むしろ、スタートアップが中心となり、独自のアプローチで開発を進める方が現実的です。
このためには、
- 既存の枠組みにとらわれない新興企業を支援する
- 企業間連携を進め、スタートアップが大企業のリソースを活用できる仕組みを作る
- 日本市場だけでなく、最初からグローバル市場をターゲットにする
といった戦略が求められます。
3. 変われない日本でも、AI企業を生み出す道はある
日本は構造的な問題を抱えており、この先も変わらないままです。
しかし、それでも海外資本の活用、特化戦略、人材獲得、新興企業の支援といった方法を駆使すれば、DeepSeekのような企業を生み出すことは可能だったはずです。
日本が変われないことを前提に、どうすればその中で勝てるのかを考えると、国内ユーザーを増やして、育てることしかなさそうです。