イラン攻撃で株価・金・銀はどう動く?日米市場への短期・長期影響をわかりすく

株式

2026年2月28日、世界を揺るがすニュースが飛び込んできました。米国とイスラエルによるイランへの大規模軍事作戦をトランプ大統領がSNSで発表しました。イスラエル軍は戦闘機約200機が参加する「史上最大規模」の作戦と説明し、イランは7カ国以上の米軍基地に向けて報復ミサイルを発射するなど、中東情勢は一気に激化しています。

こうした地政学リスクが高まるとき、日米の株価・金・銀の相場にどのような影響を与えるか、短期・長期の両面から整理してみました。

今回の中東情勢の特殊性

今回の攻撃は、2003年のイラク戦争以来、米軍が直接参戦した中東における大規模軍事行動です。イスラエルだけでなく米国が共同作戦として参加している点が、過去の事例と大きく異なります。

攻撃の規模は前例のないレベルです。イスラエル軍によれば、防空システムやミサイル発射装置など約500の標的が攻撃され、イランの報道では全31州のうち24州が何らかの被害を受けたとされています。ハメネイ師という体制の頂点を担う人物が死亡したことで、イランの政治体制そのものが大きく揺らぐ可能性があります。

米CIAはハメネイ師の除去後もイランの革命防衛隊が権力を維持する可能性があると警告しており、体制の混乱が長引くかどうかは現時点では見通しが立ちません。この「不確実性」こそが、金融市場にとって最も厄介な要素です。

ホルムズ海峡とは?

ペルシャ湾と外洋をつなぐ幅わずか33kmの海峡で、世界の石油供給の約20%が通過します。イランはこの海峡の片側に国土を接しており、封鎖や妨害行為が発生した場合、日本を含む多くの国のエネルギー供給に深刻な影響が出ます。日本の原油輸入の93.5%(2025年実績)は中東に依存しており、タンカーの約8割がこの海峡を通過しています。

ホルムズ海峡

日米の株価への影響:短期(数日〜2週間)

最初の数日は「リスクオフ」で売りが先行しやすい

地政学リスクが高まる局面では、投資家は株式などリスクのある資産を売って、安全資産に資金を移す動きをとります。これを「リスクオフ」と呼びます。今回のような大規模な有事のニュースが週末をまたいで発表された場合、週明けの株式市場では大きな下落から始まる可能性が高いです。

日本株(日経平均)にとっては、二重のマイナス要因が重なっています。一つ目は、有事の際に「円買い」が進む傾向があるため、円高になりやすいことです。輸出企業が多い日本株にとって円高は逆風で、企業の収益予想が下がりやすくなります。二つ目は、原油価格の上昇です。日本はエネルギーの多くを輸入に頼っているため、原油高はコストアップを意味し、企業収益の圧迫につながります。

ある市場関係者の見立てでは、週明けの日経平均は500〜1,000円規模の下落も想定内とされています。ただし、これはあくまで短期的な反応であり、相場が落ち着くにつれて回復するケースが過去には多くあります。

米国株(S&P500・ダウ)は防衛株中心に強含みの可能性も

米国株は、過去の中東有事の事例を見ると、意外にも底堅い動きを見せることが多いです。その理由の一つは、軍需・防衛関連銘柄の上昇です。今回の作戦で使用されたミサイルシステムを製造する大手防衛企業には、買いが集中することが予想されます。

また、「開戦前の不確実性が最も市場を圧迫し、実際に攻撃が始まると悪材料出尽くしで反転する」というパターンも過去の事例から観察されています。今回は攻撃がすでに始まっており、さらなる拡大がなければ、市場が「最悪期は過ぎた」と判断して回復に向かう可能性もあります。

過去の中東有事と米国株のパターン

第一生命経済研究所の分析によると、2001年アフガニスタン戦争、2003年イラク戦争、2025年6月のイラン核施設攻撃のいずれにおいても、米国株は開戦後に防衛銘柄を中心として上昇する傾向が見られました。また、1991年の湾岸戦争では、地上戦開始前に一時的に大きく下落したS&P500が、地上戦開始後に急反転し、その年は年間で約26%の上昇を記録しています。「開戦後の不透明感の解消」が買い材料になるケースは少なくありません。

日米の株価への影響:長期(数カ月単位)

シナリオ1:短期収束なら市場の混乱は限定的

過去の事例では、中東における軍事行動が実際の石油生産設備に深刻なダメージを与えない場合、原油価格は攻撃前をピークとして横ばいか低下することが多いとされています。仮にイランの体制転換が比較的スムーズに進み、核開発の脅威が取り除かれた形で情勢が安定化すれば、中東リスクの「不確実性のプレミアム」が縮小し、株式市場全体にとってはむしろプラスに働く可能性があります。

シナリオ2:長期化・拡大なら世界経済に深刻な打撃

一方で、革命防衛隊が体制を維持し、ホルムズ海峡への妨害やさらなる報復攻撃が継続する場合は話が変わります。世界の石油供給の約5分の1が通過するホルムズ海峡が混乱した場合、原油価格は1バレル90ドルを超える可能性があり、世界的なインフレ再燃と景気減速を招くリスクがあります。その場合、日本株・米国株ともに中期的な下落トレンドに入る可能性が高まります。

日本株に関しては、長期的に注目が集まるセクターもあります。防衛費の増額方針が続く日本では、防衛関連株への資金流入が見込まれます。また、中東情勢の不安定化はエネルギー安全保障の観点から再生可能エネルギーや原子力関連への関心を高める要因にもなりえます。

シナリオ 日本株(日経平均) 米国株(S&P500)
短期収束・情勢安定化 一時下落後、回復。防衛株が牽引 底堅い展開。防衛株・エネルギー株が上昇
長期化・ホルムズ混乱 原油高・円高のダブルパンチで中期下落リスク インフレ再燃で利上げ圧力。調整局面入りの懸念

金(ゴールド)の相場はどうなる?

短期:「有事の金買い」で価格は上昇しやすい

「有事の金」という言葉をご存知でしょうか。世界が不安定になるとき、投資家は価値が変わりにくい金に資金を移す傾向があります。今回のハメネイ師死亡・米軍参戦というニュースは、まさに金にとって強力な買い材料です。

今回の攻撃が始まる前の2月末時点で、金のスポット価格はすでに4,380〜4,400ドル台付近で推移していました。攻撃が本格化した週明けには、さらなる上昇が見込まれます。なお、2025年6月にイスラエルが単独でイランの核施設を攻撃した際には、金価格が2カ月ぶりの高値に迫る動きを見せた事例があります。

長期:構造的な上昇トレンドは継続か

金価格の長期的な上昇を支える要因は、地政学リスクだけではありません。各国の中央銀行が外貨準備として金の保有を増やしている動き、FRBによる利下げ観測、ドル安傾向という複数の強力な買い材料が重なっています。長期的な上昇トレンドは、今回の事態によってさらに強化される可能性があります。

ただし、注意点もあります。地政学リスクが和らいだタイミングで利益確定売りが集中し、急落することもあります。有事が一段落した後に高値掴みにならないよう、タイミングには注意が必要です。

円建て金価格の視点も大切!

日本に住んでいる私たちにとっては、ドル建ての金価格だけでなく「円建ての金価格」が重要です。有事の際は円高になる傾向がありますが、円高になると同じドル建て金価格でも円換算した金額は下がります。一方で、長期的に円安傾向が続けば円建て金価格は押し上げられます。円建て金価格は1グラムあたりの国内金相場として確認でき、現在も高水準が続いています。

銀(シルバー)の相場はどうなる?

短期:金と連動して上昇しやすいが、振れ幅が大きい

銀は金と同じく「貴金属」として有事の買いが入りやすい資産です。しかし、銀には金にはない特徴があります。それは、銀が工業用途にも幅広く使われていること(太陽光パネル、電子機器など)です。そのため、世界景気が悪化する局面では工業需要の減少を嫌気した売りも入りやすく、金よりも価格変動が激しくなる傾向があります。

2026年1月時点での調査では、銀価格は年初から29%上昇して1トロイオンス90ドルを突破する場面もありました。今回の中東情勢の悪化は、短期的に銀への買いを誘う可能性が高いですが、情勢が落ち着いた後の反落リスクも大きいことは念頭に置く必要があります。

長期:金との連動性に注意、金ほどの安定感はない

野村證券のアナリストによると、金価格と銀価格の比率(ゴールド・シルバー・レシオ)は、長期的に見ると金のほうが銀より価値が上がりやすい傾向にあります。純粋に「有事の安全資産」として考えるなら、銀よりも金のほうが安定感は高いとされています。銀は値動きの大きさを利用したトレードには向いていますが、長期保有の安全資産としては金に一歩譲る評価です。

資産 短期(数日〜2週間) 長期(数カ月〜)
金(ゴールド) 上昇しやすい(有事の金買い)。ただし利確売りの急落リスクも 構造的な上昇トレンドが継続する可能性が高い
銀(シルバー) 金と連動して上昇しやすいが、振れ幅が大きい 景気動向にも左右される。金よりリスクが高め

日本の生活への影響:ガソリン・物価はどうなる?

「株や金の話は難しいけど、ガソリン代や食品の値段が上がるのは困る!」という方も多いと思います。率直に言うと、今回の事態は日本の物価にも影響を与えるリスクがあります。

日本の原油輸入の93.5%は中東に依存しており、そのほとんどがホルムズ海峡を通過するタンカーで運ばれています。備蓄は2025年12月末時点で約254日分とされており、短期的なショックに対しては一定の緩衝材があります。ただし、紛争が長期化したり、ホルムズ海峡の通行が妨害されるような事態になれば、数週間以内にガソリン代や食品など幅広い物価に影響が出る可能性があります。

短期的には、すでに攻撃前夜の段階でWTI原油先物が7カ月ぶり高値の67ドル台に達していました。ホルムズ封鎖のリスクが意識されると、金融機関は1バレル90〜110ドルの水準まで上昇する可能性を試算しています。ガソリン代の大幅な値上がりや、輸送コスト増加による食品価格の上昇は、家計への影響として十分に考えられるシナリオです。

今私たちにできることは?

専門家の多くは「ポートフォリオのうちわずかな比率(5〜10%程度)を金などの実物資産に分散しておくことが、地政学リスクへの備えとして有効」と指摘しています。一方で、地政学リスクは予測が難しく、高値での集中投資は避けたほうが無難です。資産形成は焦らず、長期・積立・分散という基本原則を守ることが大切です。投資に関する具体的な判断は、必ず専門家やご自身の状況を踏まえた上で行ってください。

「不確実性」の大きさを認識した上で冷静に

今回のハメネイ師死亡と米・イスラエルによるイラン軍事作戦は、2003年のイラク戦争以来で最も規模の大きい中東有事として、金融市場に大きなインパクトを与えることは間違いありません。

短期的には、日本株の下落・金価格の上昇・原油高というセットの動きが最もありうるシナリオです。しかし長期的な影響は、イランの体制がどうなるか、ホルムズ海峡の通行が確保されるかどうか、米軍の作戦がどこで終わるかという「現時点では誰にも分からない要素」に大きく依存します。

過去の歴史が教えてくれるのは、「有事のパニック売りが最大の損失につながることが多い」という事実です。世界がざわついているとき、落ち着いて状況を見極め、長期的な視点を保つことが、資産を守る上で最も重要なことかもしれません。今後の情勢を引き続き注視していきましょう。

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