フジクラ(5803)は、電力ケーブルや通信ケーブル、電子部品などを手がける重電系メーカーです。最近3期の数字だけを見ると、売上・利益ともに急拡大しており、EPSは2年で約2.2倍になっています。一方で、株価は18,395円、予想PERは約44倍、PBRは約12倍です。
フジクラの現状をざっくり把握する
まずは、最近の業績です。単位は、百万円です。
| 期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS(円) | 配当(円) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023.3 | 806,453 | 70,163 | 40,891 | 148.3 | 30 |
| 2024.3 | 799,760 | 69,483 | 51,011 | 185.0 | 55 |
| 2025.3 | 979,375 | 135,519 | 91,123 | 330.3 | 100 |
| 2026.3予 | 1,020,000 | 160,000 | 116,000 | 420.4 | 150〜168 |
2023.3から2025.3の2年間で、売上は約21パーセント増、営業利益は約1.9倍、純利益は約2.2倍、EPSは約2.2倍です。数字だけ見ると「かなり強い成長局面」に見えますが、2023.3→2024.3は横ばい、2024.3→2025.3で一気に跳ねている構造なので、これをそのまま3〜5年続くペースと解釈するのは現実的ではありません。
一方で、バランスシートはどうか。2025.3期末の総資産は830,307、自己資本は435,329、自己資本比率は約52.4パーセント。現金及び預金は184,991、有利子負債は147,136で、ネットキャッシュは▲37,855(=ネットキャッシュ)です。つまり、財務はかなり健全で、むしろ現金超過の状態にあります。
財務の安全性 ネットキャッシュ+自己資本比率50パーセント超
1 自己資本比率とネットキャッシュ
まず安全性の軸から。
- 自己資本比率(2025.3):435,329 ÷ 830,307 ≒ 52.4%
- 自己資本比率(2025.6):約52.5%
製造業で自己資本比率50パーセント超は、かなり厚い部類です。レバレッジを効かせまくっている会社ではありません。
次にネット有利子負債。
- 有利子負債:147,136
- 現金等:184,991
- ネット有利子負債 = 147,136 − 184,991 = ▲37,855(ネットキャッシュ)
実質的には「借入より現金の方が多い」状態で、財務リスクは低いと判断できます。ここで不安を感じているなら、それは数字ではなく感情ベースです。
2 営業キャッシュフローと純利益
次にフローの質です。単位は百万円です。
- 2024.3 営業CF:94,400 / 純利益:51,011 → 営業CF > 純利益
- 2025.3 営業CF:115,900 / 純利益:91,123 → 営業CF > 純利益
直近2期だけ見ると、営業キャッシュフローが純利益を上回っており、利益の現金化は悪くありません。
収益性 営業利益率のステップアップは本物か
1 営業利益率の推移
営業利益率の変化を見ます。
- 2023.3:70,163 ÷ 806,453 ≒ 8.7%
- 2024.3:69,483 ÷ 799,760 ≒ 8.7%
- 2025.3:135,519 ÷ 979,375 ≒ 13.8%
2023.3と2024.3はほぼ同じ利益率ですが、2025.3で一段階上の水準にジャンプしています。
2 ROEと資本効率
自己資本利益率(ROE)は2025.3で約24.4パーセントとされています。日本の製造業としてはかなり高い水準です。営業利益率の上昇とネットキャッシュ体質を考えると、「売上をあまり増やさずとも、利益を伸ばせている会社」という性格が強いです。
成長性 EPSは2年で約2.2倍 しかし持続性は不明
1 売上と利益のCAGR
2023.3→2025.3の2年間(2区間)で、ざっくり年率を計算します。
- 売上高CAGR ≒(979,375 ÷ 806,453)^(1/2) − 1 ≒ 約10.2%/年
- 営業利益CAGR ≒(135,519 ÷ 70,163)^(1/2) − 1 ≒ 約39.0%/年
- 純利益CAGR ≒(91,123 ÷ 40,891)^(1/2) − 1 ≒ 約44%/年
- EPSCAGR ≒(330.3 ÷ 148.3)^(1/2) − 1 ≒ 約49.2%/年
数字だけ見れば、EPSは年率約5割というバカみたいな成長になっています。ただし、これは2023.3→2024.3がほぼ横ばい、2024.3→2025.3で一気に伸びた結果です。
2 会社予想とその先
2026.3期の会社予想は、売上1,020,000、営業利益160,000、純利益116,000、EPS420.4です。2025.3から2026.3にかけての増加率はおおよそ次の通りです。
- 売上:+約4.1%
- 営業利益:+約18.1%
- 純利益:+約27.3%
- EPS:+約27.3%
さすがに2023.3→2025.3ほどの伸び方ではありませんが、それでもEPSで年率2割強の成長想定と見られます。
豆知識 CAGRの罠: 特定の1年だけ利益がジャンプしたケースで2〜3年CAGRを計算すると、実力以上に高く見えます。構造的な成長か、一度きりのステップアップかを分けて考えないと、過度な期待を作り上げることになります。
割安性 PER・PBR・PSRを冷静に並べる
1 現在のバリュエーション
株価は18,395円、発行株数は295,863千株、時価総額は34,542億円とされています。2026.3期会社予想EPSは420.4円、2026.3期売上予想は1,020,000です。BPS(2025.6)は1,514円です。
ここから主な指標を計算します。
- PER(2026予想)= 18,395 ÷ 420.4 ≒ 約43.8倍
- PBR = 18,395 ÷ 1,514 ≒ 約12.1倍
2 高バリュエーションのリスク
この水準だと、3〜5年の間にEPSやBPSがかなり増えたとしても、PERやPBRが縮小すれば株価リターンが簡単に潰されます。
- 仮にBPSが3年で年率10%成長した場合、3年後BPSは約2,002円。
- その時点のPBRが例えば4倍まで落ちると、株価は約8,000円レベル。
- 今の18,395円から見ると、おおよそ▲56%。
強気と慎重のシナリオで考える
強気シナリオ
- AIインフラ投資需要は今後も続くはずだから、売上と利益は中期でも伸びる。
- 営業利益率の改善は構造的で、二桁台を維持できる。
- 高い利益成長が続けば、PER40倍台でも3〜5年後には割安に見えてくる。
この前提に立つなら、「今の水準であっても、成長にベットするグロース枠」として少額を入れる、という選択は理屈としては成立します。
慎重シナリオ
中期3〜5年で見るなら、
- 営業利益率のステップアップが一段落した後
- 成長率が落ち着き、PERが20〜25倍、PBRが3〜4倍レンジまで縮小した後
その時点で、まだEPSが伸びているなら「中期での再評価候補」として検討する余地があります。

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