近年、世界中で所得格差の拡大が問題視されています。「働いても豊かになれない」社会構造の中で、ベーシックインカム(BI)という政策が注目されています。すべての人に一定の現金を無条件で支給することで、貧困をなくし、経済的不安から解放されるという考え方は、一見すると夢のようです。
しかし、本当にBIは格差を解消する万能薬なのでしょうか?私は違うと考えています。
本記事では、その理念と実際の課題を比較しながら、「BIは格差を是正しないばかりか、別の格差を生むリスクがある」という視点から考察していきます。
ベーシックインカムの基本理念とは
ベーシックインカムとは、政府がすべての国民に対して無条件で一定額の現金を定期的に支給する制度です。収入や就労状況にかかわらず一律に支給されることで、福祉の簡素化、労働意欲の柔軟化、生活の最低保障といった効果が期待されています。
特に以下のような期待が集まっています。
- 貧困の撲滅
- 生活保護のスティグマ(差別・偏見)の解消
- 福祉制度の簡略化による行政コスト削減
- 自分らしい働き方・生き方の実現
なぜBIでは格差は是正されないのか?
① BIは“最低限の保証”にとどまる
BIで支給される金額は、たとえば月5万円~10万円など「最低限の生活を支える程度」に設定されることが多く、富裕層と貧困層の所得格差そのものを縮めるには不十分です。格差の“底上げ”にはなっても、“格差の解消”ではないのです。
② 資産格差には無力
BIがいくら支給されても、土地や株、不動産などの資産を持つ富裕層との格差は埋まりません。
資本から得られる収益=不労所得のほうが、BIよりはるかに高いためです。結果として、BIの導入は消費の底上げにはなるかもしれませんが、富の集中を変えることはありません。
③ 物価上昇を引き起こす可能性
BIの財源が増税やインフレ的手段によって賄われた場合、物価の上昇が起きるリスクがあります。
特に家賃や生活必需品の価格が上がれば、BIの恩恵はすぐに打ち消されてしまいます。購買力の平準化どころか、逆に格差が広がる可能性もあります。
④ 労働意欲の低下と「相対的剥奪感」
人は“他人と比較して自分がどれだけ得しているか”を強く意識します。BIによって生活が楽になっても、「他の人がもっと得をしている」という感覚=相対的剥奪感があれば、不満は消えません。
また、働く意欲が減退し、社会の生産性が下がる可能性も指摘されています。
豆知識: カナダやフィンランドで実施されたBI実験では、心理的幸福感は上がったものの、格差そのものに大きな変化は見られませんでした。しかも、持続可能な制度設計が困難という結果も浮き彫りになりました。
むしろ新たな格差を生む?
BIによって「全員が一律の現金をもらえる」という状況は、一見平等に見えても、その使い方や環境によって結果に差が出ます。金融リテラシーが高い人と低い人の格差は、むしろ広がる可能性もあるのです。
また、富裕層も一律にBIを受け取る場合、「再分配機能」が働かず、むしろ不平等感が増すという矛盾も抱えています。税制による累進課税や、教育・医療への投資といった間接的な施策のほうが、よほど格差是正に寄与するという意見も根強く存在します。
BIは魔法の杖ではない
ベーシックインカムは、所得の底上げや生活の安定化には効果があるかもしれません。しかし、構造的な格差──とくに資産格差や教育格差、地域格差などを解消するには不十分であることが多くの実験結果から明らかになっています。
格差問題を本当に解決したいのであれば、BIに期待するのではなく、累進課税の強化、富裕層からの再分配、教育機会の平等化、医療・住居の保障といった総合的な社会制度改革が必要です。
いまのままでいいのですが、AIを使ったより効率的な運用が解決の糸口になると考えています。
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