中国が虎視眈々と狙う第一列島線と第二列島線とは。2027年台湾有事は本当に起こるのか

暇つぶし

第一列島線や第二列島線という言葉は、日常生活で聞くことはありませんでした。ニュースや本でたまに見るだけの言葉です。

この言葉は、実は中国の軍事戦略における重要な概念であり、日本の安全保障にも直接関係する問題です。さらに2027年に台湾有事が起きるのではないかという説も注目されていますが、本当にそんなことが起こるのでしょうか。

第一列島線と第二列島線の基本知識

第一列島線と第二列島線は、中国が自国の安全保障と海洋権益を守るために設定した架空の防衛ラインです。この概念は1982年に当時の最高指導者である鄧小平の意向を受けて、中国人民解放軍海軍司令員の劉華清が打ち出したものとされています。

第一列島線は、九州沖から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至る島々を結ぶラインのことです。このラインの内側には東シナ海や南シナ海が含まれており、中国にとっての近海防衛の範囲となっています。つまり台湾有事の際に、中国海軍がアメリカ海・空軍の侵入を阻止するための最低防衛ラインと位置づけられているのです。

一方で第二列島線は、伊豆諸島を起点に小笠原諸島、グアム・サイパンを含むマリアナ諸島、パプアニューギニアに至るラインを指します。これは台湾有事の際に、中国海軍がアメリカ海軍の増援を阻止・妨害するための海域と推定されています。中国は2020年までに第二列島線の戦力整備を完成させる計画を持っていたとされていますが、実際には達成できていません。

中国の海洋戦略の歴史的変化

もともと中国人民解放軍は広大な国境線を接していたソビエト連邦への備えから陸軍を中心として組織されていました。海軍は沿岸防備を行う程度の沿岸海軍でしかなかったのです。しかし冷戦が終結してソ連が崩壊し、ロシアが中国との関係改善に動いて国境問題が解決した結果、中国人民解放軍の課題は台湾問題となりました。

さらに1996年の台湾海峡危機では、海峡内に米空母2隻が侵入しても中国は何もできないという屈辱を味わいました。この経験が中国に列島線の概念を明確化させる動機となったと考えられています。1997年に海軍司令員に就任した石雲生は、沿岸海軍から近海海軍への変革を本格化させ、その中で第一列島線および第二列島線の概念が強調されるようになりました。

A2AD戦略とは

中国の海洋戦略は一般にA2AD(接近阻止・領域拒否)と呼ばれています。これは有事の際に第一列島線の内側にアメリカ軍を立ち入らせず、第二列島線の内側でその行動を規制することを目指したものです。対艦弾道ミサイルや攻撃型航空母艦、ステルス戦闘機などの整備を進めていますが、完成度はまだ低く、システムとしてはほとんど機能していないとの指摘もあります。

第一列島線の内側には日本も含まれている

第一列島線を地図で確認すると、日本の沖縄や南西諸島がこのライン上に位置していることが分かります。つまり日本は中国の軍事戦略において極めて重要な位置を占めているのです。特に宮古海峡は中国海軍が太平洋に出るためのチョークポイント(要衝)とされており、中国にとって軍事的に死活的に重要な場所となっています。

また第一列島線の区域内には、尖閣諸島問題や東シナ海ガス田問題、南沙諸島問題など、多くの領土問題が存在しています。中国はこの区域内の海域を海洋領土と呼称しており、海洋事業は国家発展戦略であるとしています。そのため1980年代から中国の海洋調査船により、第一列島線区域において海底の地形や水温などの緻密な海洋調査が行われてきました。

このような海洋調査の背景には海底資源調査だけでなく、海底地形や海水温分布、海水密度分布などのデータ蓄積が潜水艦戦を有利に進めるために必須であるという軍事的な目的があると考えられています。実際に中国は南西諸島や宮古海峡の確保なしには、第一列島線と第二列島線の間の海域で潜水艦を自由に行動させることができないため、この地域の重要性は極めて高いのです。

2027年台湾有事説の根拠と真相

ここ数年、2027年に台湾有事が起こる可能性があるという説が注目を集めています。この説の発端は2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が米上院軍事委員会の公聴会で、中国が6年以内に台湾に侵攻する可能性があると指摘したことでした。

なぜ2027年なのか

2027年という年が注目される理由はいくつかあります。まず2027年8月に人民解放軍が建軍100周年を迎えるという節目の年であることです。さらに同年秋の共産党大会では習近平氏が総書記として4期目入りする可能性があります。

習近平国家主席は建国の父である毛沢東や改革開放の総設計師と呼ばれる鄧小平と並ぶ偉大な指導者を目指していると指摘されています。そのため4期目を目指すには、台湾統一という大きな業績やレガシーをつくる必要があるのではないかという見方があるのです。

また米中央情報局(CIA)長官も、習近平国家主席が2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう人民解放軍に指示を出したとの見方を示しています。このような米国側の情報が2027年台湾有事説を後押ししてきました。

専門家の見解は分かれている

しかし専門家の間では、2027年に台湾有事が起きる可能性については意見が分かれています。東京大学の松田康博教授によれば、日米台が防衛対応を進めれば中国の目標は後倒しされるため、2027年に起こる蓋然性は極めて低いとのことです。

松田教授は、2027年は習国家主席の4期目がかかる党大会があるためうかつに動けないこと、2028年には台湾の総統選挙や米大統領選があることなどを理由に挙げています。つまり2027年に侵攻するというのは習近平が6年くらい前に作った準備完了のターゲットであり、相手が対応することによって動くものだというのです。

また中国の軍事力整備の進捗状況を見ても、準備不足であることが指摘されています。例えば多次元立体的上陸作戦の能力を保有する目標は2027年ですが、強襲揚陸艦は8隻作る予定のところ現在3隻しか完成していません。艦船を造るだけでは役に立たず、そこに載せるヘリ要員を養成して運用できるようになるには十年単位で時間がかかります。

今日はやめておこう理論

台湾有事の抑止を巡る議論で、not today theoryという言葉が使われています。これは中国を抑止し続けることで、習国家主席に今日はやめておこう、今年は無理だなと台湾侵攻を先送りさせ続けるという考え方です。現在72歳の習近平氏も老いが進めば気力が減じてくるため、政権末期には台湾統一という政治目標が単なるスローガンに変わってく可能性があります。

台湾有事が起きた場合の経済的損失

仮に台湾有事が発生した場合、その経済的影響は計り知れません。ブルームバーグの推計によれば、台湾有事のコストは約1440兆円に上り、世界のGDPのほぼ10パーセントに相当するとされています。これはウクライナでの戦争や新型コロナウイルスのパンデミック、世界金融危機による打撃など比べものにならない規模です。

日本への影響は甚大

地理的に台湾に近い日本への影響は特に大きくなると予想されています。まず中東から日本に運ばれる原油の95パーセントが台湾周辺を通っているため、中国が台湾周辺の海上封鎖に踏み切った場合、遠回りするルートに切り替える必要が生じます。これにより輸送コストが上昇し、ガソリン価格などが上がる可能性があります。有事が長引けば備蓄も底をついてエネルギー不足になる恐れもあります。

食料不足の懸念も深刻です。日本は小麦や肉など多くの食品を輸入に頼っているため、海上輸送が滞れば食料供給に大きな影響が出ます。政府与党内でもいまの備蓄が十分なのか点検すべきだという声が上がっています。

さらに中国には約9万8000人、台湾には約2万2000人の日本人が暮らしています。日本企業は中国に3万社超、台湾には約1500社が進出しています。台湾有事の際に中国当局が反スパイ法の名目で現地の日本人を次々拘束するという事態も場合によってはあり得ると専門家は指摘しています。

半導体供給の停止による世界的影響

台湾は世界の半導体市場の中心であり、TSMCをはじめとする企業に日本企業は大きく依存しています。軍事侵攻のリスクが高まれば工場の操業停止やサプライチェーンの寸断が発生し、影響はグローバル経済全体に及びます。台湾有事による半導体供給の停止で、世界経済が最大で130兆円規模の損失を被るとの見方もあります。

日本企業は自動車、電機、ゲーム機などの生産遅延やコスト高騰に直面するでしょう。日本への集積回路の輸入において台湾のシェアは60パーセントを超えており、これが途絶すれば下流の企業の生産も滞り、その影響はサプライチェーンを通じて波及して増幅されることになります。

中国が台湾侵攻を躊躇する理由

このような莫大な経済的損失を考えると、中国が本当に台湾侵攻に踏み切るかどうかは疑問が残ります。野村総合研究所のリチャード・クー氏は、中国が経済に関してまだ自信満々だった5から6年前のほうが怖かったと指摘しています。

現在の中国経済は停滞しており、バランスシート不況に陥っている可能性が指摘されています。個人は消費を控え、企業は投資をせずに借金の返済を最優先にする状況では、戦争を遂行する余力があるのか疑問です。むしろ経済が好調な時期のほうが対外侵略のリスクが高いという歴史的教訓もあります。

軍事的リスクも無視できない

中国人民解放軍は近代化を遂げ台湾軍に対して大きな数的優位を維持していますが、全面的な水陸両用侵攻は中国にとって戦略的に合理性を欠くという見方があります。多くのウォーゲームのシナリオでは、中国による通常型の水陸両用侵攻が起きた場合、オーストラリア、日本、台湾、米国の合同部隊が勝利すると予測されています。

また同盟国やパートナーは中国の重要なエネルギー供給を南シナ海やマラッカ海峡といった要衝で遮断し、長期的な経済的損害を与えることができます。紛争は製造業を混乱させ、防衛資産としての戦闘機やミサイルシステムを含む半導体に依存する産業を壊滅させるでしょう。つまり侵攻が失敗するか長引けば、その経済的・政治的コストは永続的なものとなりかねないのです。

リスクは高まっているが即座の有事は考えにくい

2027年台湾有事説については、中国が軍事的準備を進めていることは事実ですが、実際に侵攻に踏み切る可能性は現時点では低いと考えられます。習近平国家主席が4期目を目指すために台湾統一という成果が必要だという見方はありますが、リスクがあまりにも大きすぎます。

経済的には約1440兆円規模の損失が予想され、軍事的にも日米台の合同部隊に勝てるかどうか不確実です。さらに中国経済は現在停滞しており、戦争を遂行する余力があるかも疑問です。また強襲揚陸艦などの必要な装備も十分に整っていないという準備不足の問題もあります。

とはいえ台湾海峡の緊張が高まっていることは事実であり、グレーゾーンでの行動や情報工作、サイバー攻撃、海上交通・通信の妨害などの形で現状変更を試みる可能性は十分にあります。日本としても南西諸島の防衛強化や、中国・台湾依存のサプライチェーンの見直しなど、万が一に備えた準備を進めていく必要があるでしょう。

第一列島線と第二列島線という概念は、中国の海洋戦略を理解する上で欠かせないキーワードです。そしてこの列島線上に位置する日本は、台湾情勢と無関係ではいられません。2027年に台湾有事が起きるかどうかは不確実ですが、東アジアの安全保障環境が厳しさを増していることは間違いなく、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち続けることが大切です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました