マリオ、ゼルダ、ポケモン。子どもから大人まで、世界中で愛されるゲームを生み出してきた任天堂(証券コード:7974)が、いま株式市場で厳しい局面に立たされています。
この下落は、業績が悪いからではありません。2026年3月期第3四半期の累計売上高は前年同期比99.3%増の1兆9,058億円という、ほぼ倍増の数字です。Nintendo Switch 2(以下、Switch2)は歴代最速ペースで売れており、累計販売台数は1,737万台に達しました。
それでも株価は上がらない。今回はその理由を、因果関係を丁寧に確認しながら整理していきます。
まず現状の数字を整理
2026年2月3日に発表されたQ3累計決算の主要数字は以下の通りです。前期比較の基準となる2025年3月期の通期実績もあわせて示します。
| 指標 | 2025年3月期(通期実績) | 2026年3月期Q3累計(実績) | 2026年3月期(通期予想) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆1,649億円 | 1兆9,058億円(前年同期比99.3%増) | 2兆2,500億円(前期比93.1%増) |
| 営業利益 | 2,825億円 | 3,003億円(同21.3%増) | 3,700億円(同30.9%増) |
| 最終利益 | 2,788億円 | 3,588億円(同51.3%増) | 3,500億円(同25.5%増) |
| EPS(1株利益) | 確認できず | 確認できず | 300.62円 |
数字だけ見れば絶好調です。売上高はほぼ倍増し、利益も大幅に伸びています。Switch2の累計販売台数1,737万台は、任天堂が当初計画していた1,500万台を大幅に上回り、通期予想を1,900万台に引き上げるほどの勢いでした。それでも株価は下がっています。なぜか。理由は大きく3つあります。
株価が下がり続ける理由1:売れば売るほど採算が悪化する構造問題
Switch2は日本国内では49,980円で販売されています。一方、米国では449.99ドル(約6万4,000円)と、国内より約1万4,000円高い設定です。問題はこの国内価格が、部品の製造原価を下回っている可能性が複数のメディアで指摘されている点です。つまり日本市場では、売れれば売れるほど採算が悪化するという逆ザヤ構造に陥っている疑いがあります。
この構造が問題になっているのは、国内でのSwitch2が好調だからです。Q3の販売地域内訳を見ると、累計1,737万台のうち日本は478万台で、人口規模を考えると米国(598万台)と遜色ないペースで売れています。ハードが国内で売れるほど、利益率が下がる。Q3単体の営業利益が1,552億円と市場コンセンサスの1,807億円を大きく下回った背景の一つがこれです。
豆知識:ゲーム機ビジネスの収益構造
ゲーム機メーカーの収益モデルはハードを普及させてソフトで稼ぐが基本です。ハード本体は薄利またはわずかな赤字で販売し、その後のソフト販売やオンラインサービスで利益を回収します。任天堂の場合、Nintendo Switch Online(NSO)の加入者収益はゲーム事業全体の数パーセントにとどまるとされており、ソニーのPS Plusが2割以上を占めるのとは対照的です。そのため任天堂は、ハードとソフトの販売台数に収益が大きく依存する構造になっています。
株価が下がり続ける理由2:AIブームが引き起こしたメモリ価格の高騰
Switch2にはRAMやストレージなどの半導体メモリが搭載されています。このメモリの調達コストが、世界的なAIブームによる需要急増で大幅に上昇しています。日経新聞は2025年12月の段階でメモリ価格が約4割上昇していると報じており、これがSwitch2の利益率を直撃します。
採算割れが疑われる国内価格にさらにコスト上昇が重なると、ハードの採算はさらに悪化します。ソニーがPS5に使うメモリについてすでに確保済みで今期の影響はないと明言したのに対し、任天堂の古川社長は中長期的に部材調達を進めながら対応していきたいという表現にとどめました。この不明確さが、来期以降のコスト悪化リスクとして市場に意識されています。
株価が下がり続ける理由3:米国年末商戦の失速とSwitch2減産報道
2026年3月24日、Bloombergが任天堂はSwitch2の2026年1〜3月期の生産を当初計画の約600万台から約400万台に引き下げたと匿名の関係者の話として報じました。減産幅は最大200万台、率にして約33%です。当日の任天堂株は後場に一時6.3%安の8,835円まで急落しました。
減産の直接の背景として報道が指摘したのは、2025年の年末商戦、特に米国でのSwitch2販売が社内目標に届かなかったことです。12月に発売したメトロイドプライム4 ビヨンドの販売が米国で100万本未満と振るわなかったことも一因とされています。
なお、この報道について任天堂は公式コメントを出していません。また、累計1,737万台という販売実績自体は初代Switchの同期間を77%上回るペースであり、Switch2が売れていないという話ではありません。あくまで非ホリデー期の1〜3月という需要が落ちる時期の生産調整であり、年間販売計画(1,900万台)は据え置かれています。ただし、この減産が4月以降も続く可能性が報じられており、先行きの不透明感が株価の重荷になっています。
豆知識:Bloombergの減産報道の信頼性について
報じたのはBloomberg東京駐在の望月崇記者で、任天堂・ゲーム業界の取材で知られるジャーナリストです。ただし同記者の過去の報道については、任天堂が公式に否定したケースも複数あります。今回の減産報道に対しても任天堂は沈黙しており、内容を全面的に肯定も否定もしていない状況です。5月の本決算発表で実際の数字が明らかになります。
株価下落の経緯をまとめると
3つの理由はそれぞれ独立した問題ではなく、連鎖しています。整理すると次のような流れです。
まず2025年8月にSwitch2発売の期待を先取りして株価が上場来高値14,795円まで上昇しました。その後、AIブームによるメモリ価格高騰の懸念が浮上し、11月以降に下落が始まります。2026年2月3日のQ3決算は大幅増収増益でしたが、Q3単体の営業利益が市場コンセンサスを下回り、通期業績予想も据え置かれたことで失望売りが出て翌日に約11%急落しました。さらに3月24日のBloomberg減産報道が追い打ちとなり、株価は8,500円台前後の水準で推移しています。
最大の注目点は5月の本決算
現時点で最も重要な情報は、2026年5月8日(予定)に発表される2026年3月期の通期決算です。会社予想通りの売上高2兆2,500億円、営業利益3,700億円が達成できたかどうか、そして2027年3月期の初期見通しとSwitch2の年間販売計画がどのような水準で示されるかが、株価の方向性を決める最大の材料になります。
Bloombergが報じた減産の影響が通期業績に織り込まれているかどうか、またメモリコストの先行きについて会社がどう説明するかも注目点です。決算内容を確認してから判断するという選択が、現時点では最も合理的と言えるでしょう。
| チェックポイント | 現状(2026年4月) | 次の確認タイミング |
|---|---|---|
| Switch2累計販売台数 | 1,737万台(Q3末時点)。通期予想1,900万台 | 2026年5月の本決算 |
| 国内ハード採算 | 逆ザヤの可能性。売れるほど利益率が悪化 | 本決算でのセグメント別利益率 |
| メモリコスト | AIブームで約4割上昇。任天堂は来期以降の影響を明言せず | 来期見通しでの会社コメント |
| Switch2減産報道 | Q4生産を約600万台→約400万台へ削減(Bloomberg報道)。任天堂はコメントなし | 本決算での実績販売台数 |
| 米国関税 | 生産拠点のベトナムに相互関税。任天堂は米国際通商裁判所に提訴 | 関税政策の動向と来期見通しへの影響 |
| 株価・バリュエーション | 8,531円。PER約29倍(通期予想EPS300.62円ベース) | 5月本決算後の市場評価 |

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