松屋フーズHDによる六厘舎運営会社の買収は正解か。株主目線で見る良し悪しを冷静に整理する。

松屋

松屋フーズホールディングスは、六厘舎などを展開する株式会社松富士を100%子会社化すると発表しました。

外食大手による有名ラーメンブランドの買収ということで注目を集めていますが、本当に「良い買収」なのかは、感情や知名度ではなく数字と構造で判断する必要があります。

私は松屋を一番利用していて、気になるニュースです。

1. 事実整理

本件は、松屋フーズHDが開示したIR資料に基づいて整理します。

1.1 取引条件

  • 被買収会社:株式会社松富士(六厘舎ほか)
  • 取得比率:100%
  • 取得価額:9,100百万円
  • 諸費用含む総額:9,160百万円
  • 株式譲渡実行予定日:2026-01-05

1.2 松富士の事業規模(2025年6月期)

  • ブランド数:9
  • 店舗数:111店
  • 売上高:10,006百万円
  • 営業利益:403百万円
  • 営業利益率:4.0%
  • 純利益:163百万円
  • 純資産:1,518百万円
  • 総資産:4,181百万円

2. 財務分析、数字で見る松富士

2.1 成長性

松富士は直近3年間で明確な成長を示しています。

2023年6月期の売上高は6,692百万円、営業利益は102百万円でした。それが2024年6月期には売上高8,512百万円、営業利益322百万円、2025年6月期には売上高10,006百万円、営業利益403百万円まで拡大しています。

売上高の2年CAGRは約22.4%、営業利益の2年CAGRは discriminately 約99% です。これは、コロナ後の需要回復に加え、多店舗展開と立地戦略が機能した結果と考えられます。

2.2 収益性評価

一方で、収益性は冷静に見る必要があります。営業利益率は4.0%であり、外食業としては平均的からやや低めの水準です。六厘舎という強いブランドを持ちながら、超高収益モデルとは言えません。

これは、駅ナカや空港といった高賃料立地、人件費の上昇、原材料価格の高止まりといった要因が、利益率を圧迫している可能性が高いことを示唆します。

2.3 買収価格は高いか

買収価額9,100百万円を基に、簡易的な倍率を計算します。

実質PERは、9,100 ÷ 163 ≒ 55.8倍です。EVを簡易的に買収価額とみなした場合、EV/営業利益は約22.6倍となります。

結論として、安い買収ではありませんでした。

3. 松屋フーズHDへの寄与度

3.1 利益寄与の即効性

松富士の営業利益は403百万円です。松屋フーズHD全体の連結営業利益に対する寄与は、短期的には数%レベルにとどまります。

3.2 戦略的寄与

IR資料で示されている買収の狙いは明確です。

  • ラーメン業態への本格参入
  • マルチブランド化の推進
  • セントラルキッチンの活用
  • 海外および未進出エリアへの展開

これは、牛めし中心という単一業態リスクを分散し、事業ポートフォリオを厚くする狙いと読み取れます。

4. 2つの視点

4.1 高成長な内容

売上・利益ともに高成長である点、六厘舎という再現困難な強ブランドを持つ点、111店舗とセントラルキッチン基盤が即戦力になる点は評価できます。松屋が培ってきたオペレーション力との親和性も高いと考えられます。

4.2 割高なことはマイナス

一方で、買収価格は明確に割高です。営業利益率4.0%は決して高くなく、六厘舎ブランドへの依存リスクも無視できません。外食産業は景気後退や人件費上昇に極めて脆弱である点も、構造的なリスクです。

5. 高い買い物になるかどうか

松富士単体としては、良い会社ですが高い買い物という内容でした。
松屋フーズHDにとっては、長期的な安定性と事業分散効果は増しますが、株価に対する即効性は弱いと考えられます。

今回の買収は、事業ポートフォリオの厚みを評価する長期視点であれば、条件付きで理解可能です。

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