金が5000ドル近辺でも崩れない理由。ドル指数などで適正値が説明できない話。別概念で上限6,400ドルとわかった話。

金5000ドル 株式

2026年1月の金価格は1オンスあたり約4,999ドル近辺にあります。1971年の金固定相場制の象徴である1オンス35ドルという水準から見ると、名目で約143倍です。しかも高値が一時的なスパイクではなく、数か月単位で高止まりしています。

金価格はバブルなのか、これからなのか。

この状況を前にすると、まず適正価格を見つけたくなります。ところが金は株のように配当や利益がなく、キャッシュフローを割り引いて理論価値を出すことができません。だから適正を語るには、金以外の中心尺度を置き、それと比較するしかありません。

まず中心尺度で適正価格を作ろうとして破綻した理由を、具体的な数値と時代で示します。その上で、適正という考え方をいったん捨て、別概念で上限推定すると5000ドルがいまの適正であると整理できることをまとめます。

10年前に比べて、なんとなく圧倒的な世界情勢の不安という雰囲気が起こしている各種の商品状況が基礎理解に必要です。

前提 1971年以降の金は商品であると同時に通貨不信の受け皿になった

1971年8月15日の金兌換停止を境に、金は管理された固定価格の時代から、市場で価格が動く時代に移りました。したがって1971年を起点にすると、ドルの価値がどれだけ変質したか、その変質を金がどれだけ吸収したか、という発想が取りやすくなります。今回の議論は、まさにここから始まりました。

時代 代表的な出来事 金の位置づけ 価格形成の特徴
1971年以前 金固定相場制の運用 固定価格の基準資産 需給というより制度が価格を決める
1971年以降 金兌換停止から変動へ 準通貨と安全資産 金利、通貨不信、危機、フローが混ざる

問題は後者です。1971年以降の金は、インフレだけでなく、地政学、政策不確実性、準備資産の再配分など、複数要因が同時に価格へ入ります。

ドル価値などの尺度ではせいぜい1500から2000ドル近辺までしか届かない

ドル価値や金利、為替、労働価値のような尺度を使って金の適正を組み立てても、2026年1月の約4,999ドルは説明できません。こちらの推定が不十分というより、中心尺度が想定する価格形成の範囲を超えているためです。数値で示します。

ドルの外部価値で吸収分を見ても上がらない

ドルの価値を国内物価ではなく外部価値で見る場合、代表は貿易加重ドル指数です。1971年8月の直前週を起点にすると、2026年1月時点の外部価値は大きく崩壊しているとは言いにくく、変化は一桁パーセントからせいぜい十数パーセント程度に収まります。この尺度だけで金を説明するなら、35ドルが数十ドルにしかなりません。金が5000ドルには絶対にならないのです。

尺度 起点 直近 倍率の意味 35ドルに当てた場合
ドルの外部価値 1971年8月の直前週 2026年1月の近辺 ドルが対外的に数パーセント弱い程度 おおむね40ドル未満程度

この結果、ドルの外部価値劣化を金が吸収したという説明は、方向はそれらしくても水準が合いません。

労働価値で見ても名目で8倍程度であり 143倍には届かない

ドルの価値を労働で測る発想です。たとえば米国の平均時給で見ると、1971年8月は約3.66ドル、2025年12月は約31.76ドルで、倍率は約8.68倍です。これを金固定価格の35ドルに掛けても約304ドルです。ここでも5000ドルには届きません。

1971年は10時間くらい働けば、それで金1オンスを変えたんですね。いまの31ドルだと160時間働いて、ようやく金1オンスが変えます。まったく8.68倍どころではなく、16倍働かないといけません。

尺度 1971年8月 2025年12月 倍率 35ドルに当てた場合
平均時給による労働価値 約3.66ドル 約31.76ドル 約8.68倍 約304ドル

労働価値の尺度は、金が生活実感に対して高いかどうかの確認には役立ちます。しかし金の名目価格を5000ドルを正当化する中心にはなりませんでした。

金利やドル指数を絡めた適正化でも せいぜい1500から2000に留まる

次に実質金利やドル指数と金の関係です。

長期の傾向として、ドル高や実質金利高は金の逆風になりやすく、逆にドル安や実質金利低下は追い風になりやすい。ここに回帰モデルや平均回帰の発想を入れると、金の説明値はせいぜい1500から2000ドル近辺に収まります。なぜなら、実質金利がプラスで推移する局面では、無利息資産の金に大きな上乗せを置きにくいからです。

外部価値、労働価値、金利やドル指数を束ねて適正を作っても、説明できる金の価格は1500から2000ドルあたりで頭打ちになる。
だから2026年1月の4,999ドルは、これらの尺度では説明不能になります。乖離が数か月続いているという現実も合わせると、適正値の算定手法が間違っているのではなく、市場が見ている軸が別にある可能性が高い、という結論になりました。

適正づくりの方向 使う中心尺度 説明できた水準感 4999に対して残る部分
ドル価値吸収 外部価値や労働価値 数十ドルから数百ドル ほぼ全てが説明不能として残る
マクロ回帰 金利とドル高安 せいぜい1500から2000ドル 3000ドル規模の上乗せが説明不能

適正値を尺度の平均回帰で作る方法は、2026年の金の水準を説明できませんでした。

準通貨化モデルで5000と上限レンジを整理する

ここから発想を切り替えました。

仮説は、ドルを基軸から外す動きがあること、BRICSを含む側が金を買っていること、マネーサプライが巨大化していることです。この三つを採用すると、金は単なる商品ではなく、準通貨として名目資産の割当を受ける対象になります。

この場合、価格は価値の平均回帰ではなく、名目マネーの割当と有効供給の割り算で近似できます。

金に何兆ドルが割り当てられるかが分子で、価格形成に効く金の量が分母です。分母は地上在庫の全量ではなく、市場で動きやすい量として計算しています。ここで供給量が絞られて、プレミアムが付くと考えています。

2026年1月の5000ドルは何を意味するか

地上在庫を約216,000トン規模とし、1トンを約32,150オンスで換算すると、地上在庫はおおむね69億オンス規模です。金が4,999ドルなら、地上在庫の時価総額は約35兆ドルという桁になります。

一方で価格形成に効きやすいのは、バーやコイン、ETF等の投資に回りやすい塊です。これを約48,600トン規模と置くと、約15.6億オンスです。4,999ドルなら、この塊の時価総額は約7.8兆ドルです。これが5000ドル近辺を成立させるために必要な名目割当の目安になります。

区分 量の目安 オンス換算の目安 金が4999ドルのときの時価総額 意味
地上在庫の総量 約216,000トン 約69億オンス 約35兆ドル 世界の金の総ストックの桁
投資に回りやすい塊 約48,600トン 約15.6億オンス 約7.8兆ドル 価格形成に効きやすい供給の桁

上限レンジは名目割当比率の上限で決まる

次に金価格の上限を探っていきます。

世界のマネー供給や金融資産の桁は、100兆ドル級と言われることがあります。ここから何パーセントが金の塊に割り当てられるかで上限が動きます。

たとえば100兆ドルのうち10パーセントが投資に回りやすい金へ向かうなら、割当は10兆ドルです。これを15.6億オンスで割ると約6,400ドルになります。15パーセントなら約9,600ドル、20パーセントなら約12,800ドルです。

これは適正価格ではなく、上限方向の到達可能な額です。

名目マネーの割当仮定 割当額の目安 有効供給 15.6億オンスで割った価格 上限としての解釈
10パーセント 10兆ドル 約6,400ドル 現実的な上限レンジの中心になり得る
15パーセント 15兆ドル 約9,600ドル 準通貨化がかなり進んだ世界の上限
20パーセント 20兆ドル 約12,800ドル 分断や制裁が常態化した極端ケースの上限

尺度での適正値は説明できなかったが、準通貨化モデルなら5000ドルは説明でき、さらに上限レンジも計算できたということになります。

方向感の見えない価格に、枠組みが見えたというところですが、さらに条件を加えてより精緻な上限を考えることができます。さらに6,400ドルまでを上限にしたとして、いつここに到達しようとしているのかを考えていきます。

注意点 この上限モデルの弱点は二つあります。第一に価格が上がるほど眠っていた金が市場に出やすくなり、有効供給が増えて上限を押し下げる点です。第二に政策不安や地政学の緊張が薄れると、保険としての割当が逆回転し得る点です。上限は固定の天井ではなく、割当比率の継続性と供給の動きやすさに依存します。

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