霞が関の調整術が素晴らしいなら、なぜ国民は法案に苦しむのか。全員を納得させない技術の光と影

霞が関官僚交渉術 暇つぶし

霞が関の官僚が語る調整のやり方を読むと、仕事の現場で使える知恵が山ほど出てきます。

ですが同時に、なぜ日本の制度はときどき生活者目線だと意味不明な複雑さになり、しかも負担だけが増えるのかという疑問にも直結します。

霞が関から学ぶ、仕事のコミュニケーション────官僚は複雑なステークホルダーをどう調整しているのか?
今回のAgendのテーマは、ステークホルダーの調整。 関わる人たちの納得が得られず資料を書き換え、また根回しの相手を増やす────そんな調整ごとに悩んでいませんか? そこで、政治家や陳情団体との複雑な調整をこなし続ける霞

霞が関に学ぶ調整術の本体

霞が関の調整は、優しさで全員を笑顔にする話ではありません。むしろ逆で、全員の納得を目指した瞬間に止まるので、誰かが極端に得も損もしない落とし所に寄せて、最後は説明可能性で押し切る技術でした。

仕事のフォーマットは現状。課題。解決策の三点セット

官僚は異動が多いので、専門性そのものより、どの部署でも通用する共通の型を持っています。現状は統計や調査で固め、課題は制度変更が必要か運用で済むかを切り分け、解決策は副作用まで見て詰めるという流れです。つまり思いつきより先に、整理が来ます。

  • 現状は個人の感想ではなく調査や統計で固める。
  • 課題は本当に解くべきか。制度か運用かを分ける。
  • 解決策は別の誰かに新しい問題を作らないか検証する。

豆知識:官僚の資料がやたら分厚いのは、熱意ではなく説明可能性の在庫を積んでいるからです。突っ込まれたときに答えが無いのが一番怖いので、答えを先に作ってから会議に出します。

平場は結論を作る場所ではなく確認する場所にする

いきなり全体会議に投げると、声の大きい人の思いつきで燃えます。なので個別に話を聞いて、反対理由を資料に織り込み、落とし所を先に作ります。全体会議は議論ではなく承認の儀式に寄せます。ビジネスでも大きい案件ほど、この順番のほうが早いのは事実です。

否定せずに言葉でかわす

無理難題を真正面から否定すると敵が増えます。だから一度受け取り、共通のゴールは同じだと握り、軸を少しずらして現実ラインに着地させます。相手の顔を潰さずに、現実の制約を飲ませる技術です。

なぜ優秀な調整の結果がゴミ法案になりやすいのか

調整の技術が高度であるほど、成果物が現状維持の妥協の塊になることがあります。これは官僚個人の善悪というより、合意形成の設計がそうなりやすいからです。

ゴミ化メカニズムは以下の四つで説明できます。

  • 角を丸め続けると効果が骨抜きになる。
  • ステークホルダーに生活者が入っていない。
  • 手段が目的にすり替わり法案を通すことがゴールになる。
  • 前例と説明責任が強すぎて大胆な設計が避けられる。

角を丸めると誰も反対しないが誰も救わない

社会課題を解くと必ず誰かの既得権を削ります。ですが均等に叩かれる落とし所を目指すと、抜け道が生まれ、例外が増え、補助金で帳尻を合わせ、制度は肥大化します。その結果、誰も反対しないが何も良くならない仕組みが完成します。

交渉の場に庶民がいないので負担だけが降ってくる

調整相手は政治家、業界団体、省庁内の他部署など、組織化されたプレイヤーが中心です。

組織化されていない庶民は交渉コストが高く、票や献金の形で見えにくいので、議題の中心に置かれにくいです。結果としてコストは社会保険料や事務負担や不便さとして、庶民へ転嫁されます。

法案を通すことが成功になると中身は薄くても進む

官僚の評価は、制度を成立させて運用に乗せることです。もちろん社会を良くしたい気持ちはあるはずですが、業務としての成功指標がそこに寄る以上、通せる形に整える力が過剰に強くなります。

説明責任が強すぎると前例の鎖が外れない

やっていることもやっていないことも理由を説明できるようにするのは強みです。

ですが副作用として、説明しやすい小手先の微修正が選ばれやすくなります。現状が悪いとき、微修正は悪化の速度を遅くするだけで止められません。それでも大胆な変更が選ばれにくいのは、説明できる材料が前例に偏るからです。

現場あるある:会議で一番強いのは正しさではなく、後で叩かれない説明の形です。ビジネスでも監査や炎上が怖い組織ほど同じ病気にかかります。

2010年以降のだめな法案例

ここからは、先ほどのゴミ化メカニズムが見えやすい例を挙げます。

1. 【複雑怪奇】軽減税率の導入(2019年〜)

消費税を10%に上げる際、公明党(ステークホルダー)の顔を立て、痛税感を和らげるという「調整」の結果生まれた制度です。

  • ゴミと言われる理由:

    • 「イートインは10%、持ち帰りは8%」という謎ルールにより、現場の小売店・飲食店に膨大なレジ改修コストとオペレーションの手間を押し付けた。

    • 「オマケ付きのお菓子はどっち?」など、定義が官僚的で細かく、庶民生活に無駄な混乱を招いた。

  • 調整の失敗: 「増税したい財務省」と「反対ポーズを取りたい与党」の妥協案として、仕組みだけが異常に複雑化しました。

2. 【弱い者いじめ】インボイス制度(2023年〜)

消費税の正確な把握という名目ですが、実態は免税事業者(フリーランスや小規模事業者)からの徴収強化です。

  • ゴミと言われる理由:

    • 年収数百万以下の**「声の小さい」フリーランスや個人商店**に対し、実質的な増税と膨大な事務作業を強制した。

    • 一方で、大企業や強い業界団体には経過措置などの配慮(調整)がなされたため、立場の弱い層だけが直撃を受けた。

  • 調整の失敗: 財務省の「税収確保」の論理が優先され、政治力のない個人事業主の負担が無視されました。

3. 【やってる感】レジ袋有料化(2020年〜)

プラスチックごみ削減が目的とされましたが、環境への効果は極めて限定的(プラごみ全体の数%以下)というデータもありました。

  • ゴミと言われる理由:

    • 庶民に「エコバッグを持つ」という地味な不便を強いるだけで、企業が出す産業廃棄物や過剰包装にはメスが入っていない。

    • レジ袋の売上が店の利益になるだけで、環境対策に使われているか不透明。

  • 調整の失敗: 産業界(大量のプラを使う企業)への規制は反発が強くて調整困難なため、「国民の意識改革」というきれいごとで、一番文句を言わない消費者に負担を転嫁しました。

4. 【骨抜き】LGBT理解増進法(2023年)

多様性を認めるという目的でしたが、自民党内の保守派とリベラル派の対立を「調整」した結果、玉虫色の法案になりました。

  • ゴミと言われる理由:

    • 「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」という条文が入り、逆に当事者が「差別を助長する」と反発。保守派も「社会が混乱する」と反発。

    • まさに**「均等に叩かれる」だけで、誰の権利も守らず、誰も救われない法案**になった。

  • 調整の失敗: 「法案を通すこと」自体が目的化し、中身の理念が政治的妥協でズタズタにされました。

5. 【現場無視】マイナ保険証への一本化(2023年決定、移行中)

デジタル化推進は必要ですが、「現在の健康保険証を廃止する」という強硬手段に出たことで大混乱を招きました。

  • ゴミと言われる理由:

    • システムトラブルが続出しているのに、「廃止ありき」で突き進み、医療現場と患者に不安を与えた。

    • 普及させるために「マイナポイント」として数兆円規模の税金をバラ撒いた(政策の妥当性ではなく、金で釣る調整を行った)。

  • 調整の失敗: 「デジタル化の実績を作りたい」という官邸・官僚の事情が先行し、現場(高齢者や地方の医療機関)の現実を無視した「机上の空論」を押し付けました。

共通するダメ法案の法則

これらに共通するのは、「強い組織(省庁・業界団体・与党)」の間だけで手打ちが行われ、そのしわ寄せ(手間・コスト・増税)がすべて「組織化されていない個人」に回ってきているという点です。

庶民が一方的に叩かれることに関しては、完了の調整項目の外にある時代がまだまだ続いています。

観察ポイント:制度が良いか悪いかの前に、誰が交渉の席にいて誰が席にいないかを見ると、負担の着地点がだいたい読めます。

霞が関式をそのまま真似すると危ないポイント

霞が関式の整理と根回しは、企業でも武器になります。ですがそのまま回すと、社内でもゴミが生まれます。

経営会議で誰も反対しない企画が、現場では誰も使わないシステムになるやつですね。

生活者枠を強制的にステークホルダーに入れる

社内なら生活者はユーザーです。現場です。カスタマーサポートです。彼らを後回しにすると、負担は最後に爆発します。会議参加者の納得より、運用者が毎日払うコストを先に計測するほうが、長期では速いです。

均等に叩かれるではなく。均等に良くなるを目標にする

国はゼロサムになりやすいですが、企業は設計次第でプラスサムにできます。誰も得しない落とし所に寄せると、結局コストだけが残ります。落とし所を作る前に、成果指標を一枚に固定し、その指標が動かない案は捨てると、ゴミ化しにくいです。

霞が関の調整は賢いが、最善ではない

霞が関の調整術は、複雑な利害を前に進めるための現実的な技術です。が、官僚に近接した既得権を守るだけで、正しさはないと判断できます。

民間側にある意思決定システムのほうが有用であることも念頭に置きたいです。

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