仕事で大きな失敗をしたわけでも、家族との関係が壊れたわけでもない。ただ、何となく毎日が単調で、以前ほど朝が楽しみではなくなった。そんな40代の男性はとても多いものです。
目標を達成しきってしまった人、逆に目標を見失ってしまった人、どちらも同じ意義の喪失という穴に落ちていきます。そんなときには、幻冬舎代表取締役社長、見城徹氏の著書『たった一人の熱狂』です。
この本は、彼が答えた問いかけの記録であり、生きることへの壮絶な宣言でもあります。今回は、この本の中から特に40代の男性に響く言葉を厳選して紹介しながら、その本質的なメッセージを読み解いていきます。
たった一人の熱狂とはどんな本か
この本が生まれたきっかけは、2012年に堀江貴文氏とサイバーエージェントの藤田晋氏が立ち上げたトークアプリ755(もう完全に見ないですね)でした。見城徹氏はこのアプリの中で、ユーザーからの質問に一つひとつ真剣に向き合い、自分の言葉で答え続けました。その問答は見城徹の千本ノック道場と呼ばれ、200万人以上が熱狂したといいます。そのやり取りをベースに大幅な加筆を加えて2015年に出版されたのが、本書です。
内容は仕事とは何か結果とは何か死とどう向き合うかという、人生の根幹に関わるテーマが詰まっています。51の言葉で構成された本書は、ページをめくるたびに見城氏の熱量が伝わってくる作りになっています。決してやさしい内容ではありません。むしろ、読む者をひどく揺さぶります。しかし、それこそがこの本の価値であり、目標を見失った40代の男性に必要なエネルギーの源になりうる理由なのです。
40代に刺さる5つの言葉
言葉1 自己検証、自己嫌悪、自己否定なき所に成長なし
40代になると、もう自分のことはわかっているという感覚に陥りやすいものです。若いころのような自己嫌悪を感じることも減り、むしろそれを成熟と呼んでしまいます。しかし見城氏は真逆のことを言います。自分の行動や言葉を夜ごと振り返り、あのとき違う言い方があったのではないか、あの判断は本当に正しかったのかと問い続けることが、人間を成長させるのだと言い切ります。
幻冬舎の創業者として21冊ものミリオンセラーを世に送り出してきた見城氏でさえ、毎夜自分の言葉を悔いて眠れないことがあると語っています。自己嫌悪は弱さではありません。それは自分への真剣さの証明なのです。今の自分に満足しきっている人間に、次の一手は生まれません。そう考えると、くよくよすること自体が、成長の燃料になりうるという視点が見えてきます。
言葉2 もうダメだ、からが本当の努力である
40代になって仕事の壁にぶつかると、自分はここまでかと感じる瞬間があります。体力的な衰えを感じたり、若手に追いつかれる焦りがあったり、以前は乗り越えられたはずの壁が高く見えたりすることもあるでしょう。見城氏の言葉はそこに直接切り込んできます。
本当の努力はもうダメだと感じた瞬間から始まります。見城氏が言う圧倒的努力とは、他人が足元にも及ないほどの凄まじいものでなければ、努力とすら呼べないというものです。人が休んでいるときに動く、無理だと言われる仕事をあえて引き受けてねじ伏せる、そういった積み重ねの先にしか本物の結果は生まれないと彼は信じています。まあここまでやれば十分だろうという基準を設けた瞬間に、成長の扉は閉まります。その言葉は40代の男性にとって、耳が痛くもあり、同時に背中を押してくれるものでもあります。
言葉3 スランプに浸かれ
落ち込んでいるとき、多くの人は早く切り替えなければと焦ります。しかし見城氏はそこで意外な言葉を投げかけます。スランプのときは首まで徹底的に浸かり、落ち込んで落ち込んで落ち込み抜き、自分と向き合えというのです。
原因をごまかして表面だけ取り繕っても、同じスランプは形を変えて戻ってきます。本当の意味で立ち上がるためには、一度どん底まで沈み切ることが必要だという考え方です。見城氏自身も、精神的に立ち直れないほどのダメージを受けることがあったと告白しています。それでも人は2週間も沈み込んでいるうちに自然と吹っ切れる、という体験的な言葉には、妙な説得力があります。40代で沈んでいる人は、むしろ今がその時期なのかもしれません。
たった一人の熱狂のサブタイトルにある755の奇跡とは、このトークアプリ上で繰り広げられた問答のことを指しています。見城氏は1問1問に手を抜かず、深夜でも丁寧に返答を続けました。その誠実さと熱量が口コミで広がり、200万人という異例の規模のフォロワーを獲得するに至りました。SNSで言葉が熱狂を生んだ先駆けのような出来事でした。
言葉4 できるかできないかではなく、やるかやらないかだ
40代になると、経験値が上がるぶんこの仕事は難しそうだうまくいく可能性は低いという判断が早くなります。それ自体は悪いことではありませんが、同時に挑戦の機会を自ら削っているケースも多いのです。見城氏の言葉は、そのロジックをひっくり返します。
問題はできるかどうかではなくやるかどうかです。能力の問題より先に、意志の問題があります。見城氏が幻冬舎を創業したのは、貯金がほとんどない状態で、部下5人とともに角川書店を飛び出したときでした。可能性を計算すれば無謀としか言いようのない賭けでした。しかしそこに踏み込んだのは、できるかではなくやるという意志があったからです。40代で目標を見失った人が最初に取り戻すべきものは、実はスキルでも人脈でもなく、このやるという最初の一歩なのかもしれません。
言葉5 野心なんか豚に食われろ
一見すると矛盾するように聞こえる言葉です。見城氏のような野心の塊のような人間がなぜそう言うのでしょうか。その真意は、野心と熱狂はまったく別物だということにあります。
野心は他者と比較することで膨らみますが、熱狂は自分の内側から湧き出るものです。地位や名誉のために動く人間は、結果が出なければすぐに燃え尽きてしまいます。しかし本当に何かに熱狂している人間は、結果にかかわらず動き続けられます。40代で目標がないと感じている人の多くは、実は野心を失っただけで、熱狂の種はまだ内側に残っているのではないでしょうか。この言葉はそんな問いを投げかけてきます。
なぜ見城の言葉はこれほど刺さるのか
見城徹氏は1950年生まれ。静岡県清水市出身で、慶應義塾大学法学部を卒業後、廣済堂出版に入社しました。自ら企画した最初の本が38万部のベストセラーとなり、その後角川書店へ転職。月刊カドカワ編集長時代には部数を30倍に伸ばし、数々のヒット作を生み出しました。そして41歳で角川を飛び出し、1993年に幻冬舎を設立。その後21年間で21冊のミリオンセラーを世に送り出すという驚異の実績を積み上げています。
これほどの結果を残してきた人物の言葉が軽いはずがありません。見城氏の語る熱狂圧倒的努力自己嫌悪はすべて、彼自身の血の通った体験から出てきたものです。巷にあふれる自己啓発本のように、きれいに整理されたメソッドではありません。むしろ荒削りで、ときに反発さえ覚える言葉もあります。しかしそのヒリヒリした感触こそが、読んだ人間の内側にある何かに火をつけるのです。
| 本書のテーマ | 40代の男性に刺さる理由 |
|---|---|
| 自己嫌悪が成長の源 | 成熟という名の停滞に気づかせてくれる |
| スランプに浸かれ | 沈んでいることを許可してくれる言葉 |
| やるかやらないかだ | 経験で固まった言い訳を打ち破る |
| 野心より熱狂 | 比較から解放されて自分軸を取り戻せる |
| 結果が出ない努力に意味はない | 努力の質を問い直すきっかけになる |
死の虚しさと熱狂の関係
この本の中で、見城氏は仕事に熱狂する理由について驚くほど率直に語っています。彼は子どものころ、近所のおばさんが突然亡くなるのを目の当たりにして、自分の命にも限りがあると気づいて一日中泣いたといいます。以来、死の虚しさを紛らわせるために、仕事に没頭してきたと言い切っています。
生の虚しさを紛らわせてくれるものは、仕事、恋愛、友情、家族、金、宗教の六つしかないというのが彼の持論です。40代になると、この六つのうちのいくつかが揺らぐ時期でもあります。子育てがひと段落したり、親が老いていたり、長年付き合ってきた友人と疎遠になったり。そういった喪失感の中で、仕事への熱狂を取り戻すことは、単なるやる気の問題ではなく、生きる意味そのものを再構築することだと見城氏は示唆しています。
幻冬舎のロゴマークには槍を高くかざした人間が描かれています。実はそのモデルは見城徹氏本人で、自らポーズをとって描かせたものだそうです。常に攻めの姿勢で前進し続けるという意志が、会社のシンボルに刻まれているわけです。たった一人の熱狂というタイトルそのものが、そのロゴと同じ精神を表しているとも言えます。
この本はあなたに何を問いかけているか
たった一人の熱狂を読んで、全員が見城氏のような生き方を目指す必要はありません。彼の仕事観は確かに極端で、真似しようとすれば消耗するだけという部分もあります。しかし、この本が問いかけていることの本質はあなたはいま、何かに本気で向き合っているかということだと感じます。
40代で意義を見失った人の多くは、実は選択肢が増えすぎて、逆に何も選べなくなっている状態にあります。見城氏の言葉はそのぼんやりとした状態を許しません。痛くても、不快でも、自分の内側を正直に見ろというメッセージが一貫して流れています。読んだ後によし、やってみようという気持ちになるかどうかは関係ありません。それよりも、読んだ後に何かがざわついて、眠れなくなるようなら、それがこの本の効果だということです。
目標が見えない40代の男性に、読んでほしい一冊として、たった一人の熱狂を自信を持っておすすめします。

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