ペルー南部に広がるナスカの地上絵は、長年「なぜ描かれたのか?」という謎に包まれてきました。古代人が巨大小動物や幾何学模様を地面に刻んだ理由をめぐり、宗教儀式説・天体観測説・雨乞い説など、さまざまな仮説が唱えられてきました。
2025年、最新のAI調査により新たに300以上の図像が発見され、従来の倍近い数に増えたことで、ようやく「どういう意図で描かれたのか」が輪郭を帯びてきました。
AIがもたらした大発見
これまで知られていた図像的ジオグリフ(動物や人間をかたどったもの)は約430種類でした。
AIを用いた画像解析と現地調査の組み合わせにより、わずか半年で新たに303種が確認され、合計で700以上に。これだけの増加は、地上絵の「全体像」を把握する大きな前進となりました。
2種類のジオグリフとその意図
Relief-type(小型・レリーフ状)
- 人間、家畜、切断された頭部など「人と関わるモチーフ」が中心。
- 古代の歩行道から平均43メートル以内に位置。
- 通行者が間近で目にできる配置で、個人や小集団向けの儀礼・象徴的サインだった可能性が高い。
Line-type(大型・線描型)
- サル、鳥、ジャガーなど野生動物モチーフが多い。
- 巨大な線や台形の幾何学ネットワークとつながり、主要道とも近接。
- 遠方からでも視認でき、共同体全体が参加する宗教儀式や社会的活動に関連していた可能性が高い。
豆知識: ナスカの地上絵は「空からしか見えない」とよく言われますが、小型のRelief型は実際には地上を歩く人々の視点で確認できる位置に配置されていたのです。
地上絵の「二重構造」が示すもの
今回の研究成果が示したのは、ナスカの人々が意図的に「近距離用の小型地上絵」と「広域儀礼用の大型地上絵」を描き分けていたという点です。
小型は日常の道行く人々にメッセージや象徴を伝え、大型は村や共同体の結束・宗教儀式に用いられた。つまり、地上絵には個人レベルと共同体レベルの二重の役割が存在していた可能性が濃厚になりました。
残された謎と今後の展望
依然として「神への供物だったのか」「雨乞いの儀式だったのか」「星座や天体を模したものか」といった最終的な答えは出ていません。
しかしAIによる大規模調査によって、地上絵の機能が「一枚岩」ではなく多層的であったことが見えてきたのは大きな一歩です。今後は考古学・人類学・天文学の知見を融合させ、ナスカ文明の精神世界にさらに迫る研究が進むでしょう。
ナスカの地上絵の意味
ナスカの地上絵は、もはや単なる「謎の落書き」ではありません。
小さな絵は身近な祈り、大きな絵は共同体の祭祀。そうした二重の意図で描かれた可能性が浮かび上がってきました。
AIによる科学の目が、数千年前の人々の「想い」を少しずつ浮かび上がらせているのです。未解明の部分は多いですが、だからこそナスカの地上絵は、これからも私たちの想像力を刺激し続けるに違いありません。
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