AIに使い潰される人はすでにいる。都市部の仕事が狙われている本当の理由

【AI】

AIがあなたの仕事を奪うという言葉を、最近よく耳にするようになりました。ニュースを開けばAI関連の記事が溢れ、職場でもこれ、AIでできるんじゃない?という会話が増えてきた方も多いのではないでしょうか。

今回は、SF作家でテクノロジー批評家のコリイ・ドクトロウが書いた論考をもとに、AIブームの裏側にある本当の構造を、できるだけわかりやすくお伝えします。

AIの道具として使い潰される人間という問題

突然ですが、Amazonの配送ドライバーを思い浮かべてみてください。彼らは車の中で、AIに囲まれながら仕事をしています。視線の方向が監視され、よそ見をすれば減点。口元のカメラで鼻歌を歌っていないかも確認されます。配送ノルマをこなせなければ、システムが自動的に管理者へ報告します。

これはAIに助けられているドライバーではありません。AIのためにひたすら走り続ける、使い捨ての部品になっているのです。

ドクトロウはこのような状態を逆ケンタウロスと呼びました。ケンタウロスとは、ギリシャ神話に出てくる上半身が人間、下半身が馬の生き物です。自動化の世界では、機械に乗った人間の頭脳つまりテクノロジーを使いこなす人間のことをケンタウロスに例えます。車を運転したり、AIツールを使って仕事を効率化したりするのがその例です。

では逆ケンタウロスとは何か。これは人間の体を持った機械の頭脳、つまり機械のために奉仕する使い捨ての肉体のことです。AIカメラに監視されながら荷物を届けるドライバーは、まさにこの状態です。AIにできないこと(歩いて玄関まで荷物を届けること)だけをやらされ、それ以外はすべてAIに管理されています。

このAIの道具として使い潰される人間という問題が、今まさに世界中で起きているのです。

AIバブルの正体、テック企業は何のためにAIを売っているのか

Googleは検索市場で約90%のシェアを持っています。FacebookやInstagramを持つMetaは広告市場を支配しています。こうした企業はすでに市場を制覇した状態です。

ところが、株式市場では制覇した企業は評価されにくいのです。投資家が好きなのはこれからどんどん成長する企業です。成長が止まった企業の株価は大きく下がります。実際、2022年にFacebookの月間ユーザー数が予想をわずかに下回っただけで、たった1日で約36兆円分の企業価値が失われました

だからテック企業のトップたちは、常に次の成長ストーリーを市場に見せ続けなければなりません。これまでもVR(メタバース)、仮想通貨(暗号資産)、NFT(デジタルアート)などが登場しては消えていきました。そして今、そのバトンを受け取ったのがAIなのです。

豆知識: テック企業の次の手の歴史

Metaはメタバースに約15兆円以上を投資しましたが、ユーザーが集まらず失速。暗号資産もNFTも同様に、一時の熱狂の後に急速に冷え込みました。AIはその次のバトンを受け取った成長ストーリーとも見ることができます。

AIであなたの仕事を奪うは、こうして売られている

AI企業が大口投資家に約束する成長ストーリーは、非常にシンプルです。AIがあなたの社員の仕事をできるようになります。社員を解雇してAIに置き換えれば、人件費の半分が浮きます。その半分をAI企業に払ってください。それでも会社は得をしますというものです。

モルガン・スタンレーはAIによる成長市場規模を1000兆円以上と試算しています。この巨大な数字が生み出されるロジックはまさに人件費の置き換えです。

しかしここに大きな問題があります。AIには、実際にはあなたの仕事を完全にはこなせません

ドクトロウが挙げる例が、放射線科医の話です。AIはX線写真の中の腫瘍を見つけるのを助けることができます。これは素晴らしいことです。しかしAI企業のセールスマンが病院のCEOに売り込む提案はこうです。

放射線科医を10人から1人に減らしましょう。残った1人にAIの診断を監視させます。AIはたいてい正しいですが、時に大きく間違えます。でも間違えた場合の責任は、サインした人間の医師が取ることになります

これが典型的なAIの道具として使い潰される人間の構造です。AIのミスをチェックするために、あえて注意力が続かないような環境で働かされる。そしてミスが起きれば責任は人間が負う。AIは仕事をできるのではなく、あなたのボスをだませるのです

なぜ優秀な人から先に解雇されるのか

AIに置き換えられやすいのは、単純作業をする人ではありません。皮肉なことに、高給で経験豊富なプロフェッショナルこそが真っ先にターゲットにされます

なぜか。理由は単純で、そのほうが会社が節約できる金額が大きいからです。IT業界では過去3年で50万人を超えるエンジニアが解雇されたとも言われています。アマゾンは2025年に1万4000人の社員を解雇し、AIによる置き換えではないと説明しました。ショッピファイやデュオリンゴは新しく人を雇う前に、その仕事がAIにはできないことを証明しろと社員に命じました。

また、AIが生成するコードには特有のリスクがあります。AIは次に来る確率が高い単語を予測するプログラムなので、そのエラーは正常なコードと見分けがつきません。しかも悪意あるハッカーは、AIがよく幻覚(存在しないものを存在すると誤認すること)で作り出すライブラリ名を先に押さえておき、そこにウイルスを仕込んでいます。こういった巧妙なエラーを見抜けるのは、まさに長年の経験を持つベテランエンジニアなのです。

知っておきたい: 自動化盲目という現象

めったに起きないことに対して、人間は注意を保ち続けられません。空港のセキュリティ検査員が水筒を見つけるのは得意でも、こっそり持ち込まれた銃を見逃してしまうのはこのためです。AIの出力をただ監視するだけという役割を人間に与えると、本来防げたはずのエラーも見逃してしまいます。これがヒューマン・イン・ザ・ループ(最終確認を人間に任せる仕組み)の最大の弱点です。

AIバブルが崩壊した後に、何が残るのか

AIバブルはいつか崩壊します。これはドクトロウだけでなく、OpenAIのサム・アルトマン自身も市場は過熱状態にあると認めています。第一生命経済研究所の分析では、2025年後半から2026年前半にかけてAI投資がピークを迎え、その後調整局面に入るリスクが指摘されています。

ただ、バブルが崩壊しても技術そのものは残ります。インターネットバブルが弾けた後も、光ファイバーケーブルは地面に残り続け、今も私たちの通信インフラを支えています。

AIバブルが崩壊した後に残るものとして、ドクトロウは以下を挙げています。

残るもの 具体的な活用例
安価なGPU(画像処理チップ) 映像制作、気候科学の計算など
軽量なオープンソースAIモデル スマホで動く音声認識、文書要約など
機械学習の専門エンジニア 様々な分野への応用技術開発

つまり、バブルが崩壊した後のAIは便利な道具として私たちの生活に溶け込んでいく可能性が高いのです。巨大企業が何百兆円もの投資で作る世界を変える超知能ではなく、文章の誤字を直したり、会議の内容を要約したりする、地味だが役立つツールとして。

都市部のホワイトワーカーはどうすればいいのか

ドクトロウの主張を整理すると、AIに対する向き合い方は次のように変わってきます。

よくある誤解 実際のところ
AIは人間の仕事を完全に代替できる 完全に代替できるとボスに思わせることができるだけ
AI安全性(AIが暴走する問題)が最大のリスク バブルが生む人件費の削減と責任転嫁のほうが現実的なリスク
著作権を強化すればクリエイターを守れる 新しい権利はレコード会社などの大企業が吸い上げるだけになりやすい
AIアートはクリエイターの仕事を奪う 経済的影響は限定的。主な目的はAIのすごさを広告することにある

ドクトロウはAIの道具として使い潰されることに、宿命論的な諦めで受け入れてはいけないと言います。選択肢は必ずあります。

まず、AIを道具として使いこなす立場を意識的に守ることです。AIに監視され、AIのエラーの責任だけを押し付けられる役割になっていないか、自分の仕事環境を見直すことが大切です。AIはあくまで作業を助けるツールです。最終的な判断と知識を持つのは人間であるべきです。

次に、AIバブルの構造を理解することです。テック企業がAIを推進する本当の理由が労働者の仕事を奪うことで投資家への収益を生み出すことだとわかれば、目の前のAIツールを冷静に評価できるようになります。すべてのAIが悪いわけではありません。実際に自分の仕事を楽にしてくれるものは積極的に使えばいい。ただAIに監視される側にはならないよう意識することが大切です。

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