2025年6月5日に発売される任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」。その発売を目前に控えた5月27日、任天堂は異例とも言える発表を行いました。メルカリ、ヤフオク、ラクマの3つのフリマサービスと連携し、不正出品や転売行為への対策を本格化するというのです。

マーケティングやブランド戦略の観点から見れば、きわめて象徴的かつ重要な動きです。
本記事では、なぜいま企業が“フリマ市場”に本気で踏み込む必要があるのか、そしてその先にある「マーケティングの次の戦場」について考えています。
フリマ市場が“無視できない戦場”になった理由
フリマアプリはすでに消費者行動の一部として定着しています。たとえばメルカリは月間2,000万人以上が利用する巨大マーケットであり、商品の一次流通(公式販売)よりも、二次流通(個人売買)のほうが先にチェックされるケースも珍しくありません。
この中で起きているのが、「価格の乗っ取り」です。人気商品は発売直後にフリマ上で倍以上の価格で出品され、それでも売れてしまいます。ユーザーが公式サイトを見に行く前に、フリマで“妥当な相場”として価格が定着し、それが新しい価格基準となってしまうのです。
その結果、ブランドが定めた価格や価値は意味を失い、転売市場がブランド価値そのものをコントロールするようになります。
転売ヤーだけが悪者なのか?
この構図は、単純に「転売ヤー=悪」として片付けられるものではありません。実際には、Switch 2のような高需要商品の場合、初期ロットを正規価格で手に入れた一般ユーザーが、フリマで高値で売れているのを見て「自分も」と出品することも多く見られます。
つまり、フリマ市場の価格が高騰する仕組みは“構造的”なものであり、そこに明確な線引きは存在しません。誰もが“なんとなく高く売れてしまう環境”の中で、企業が設定した価格が無力化されていくのです。
この事態を放置すれば、正規の販売経路で商品を待ち望むユーザーは、いつまでも買えないままとなります。結果として、最も重要な「エンドユーザー体験」が毀損されてしまいます。
任天堂の行動は“価格の主導権”を取り戻すため
だからこそ、今回の任天堂の決定は非常に象徴的です。企業として「流通後」の市場、すなわちフリマアプリ上の非公式な価格形成領域にまで踏み込むことで、価格の主導権を再び自らの手に戻そうとしているのです。
フリマサービスとの連携により、以下のような取り組みが実行されます。
- 発売前の商品の出品監視と削除
- 不正出品に対する迅速な対応
- 情報共有によるモニタリング体制の構築
これは単なる“転売対策”ではなく、ブランド保護、体験設計、マーケティング戦略の一環として見るべきでしょう。
マーケティングの次の戦場は「リセール・エクスペリエンス」
従来のマーケティングは「売るまで」がゴールでした。しかし、今や「売った後」の世界、ユーザーがどこで、どう買うかまでを含めた「体験全体の設計」が求められる時代になっています。
Switch 2のような大ヒットが見込まれる製品では、最初の購入者ではなく、次に“フリマで買う人”が「最も多くの商品体験をする層」になる可能性すらあります。
企業はその事実から目を背けてはいけません。転売市場は敵ではなく、「戦略的に設計すべきチャネルの一部」として位置づけ、信用、安心、そして“定価という文化”を守る必要があります。
これはその他のすべての商品に当てはまる考え方です。
「売って終わり」が環境破壊を起こしてきた側面もあり、リチウム電池の捨て方といったことも問題になっています。
Switch 2は「新しい購買体験」を宣言している
任天堂の今回の動きは、単なる製品対策ではありません。これは「誰に、どう買ってもらうか」「どういう流通経路を正当とみなすか」といった、ブランドと市場の関係性そのものを問い直す取り組みです。
今後、このような動きは他業界にも波及すると考えます。限られた販売チャンスを、価格の論理ではなく“体験の質”でコントロールしようとする企業が増えていくはずです。
Switch 2は、マーケティングが“購入後の世界”にまで責任を持つべき時代の幕開けを告げています。
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