2026年11月、アメリカで中間選挙が行われます。インフレへの怒りと、国民の目に割に合わない戦争と映るトランプ政権の外交姿勢を背景に、有権者が共和党に鉄槌を下す。そんなシナリオが現実味を帯び始めています。
もし共和党が上下両院で敗北、あるいは下院を民主党に奪われる大敗を喫したとき、日米の株価、原油、金、銀はどう動くのでしょうか。今回は1つの仮定シナリオとして、選挙結果が相場に与える連鎖的な影響を考察します。
そもそもなぜ共和党は苦しいのか
PwC Japanの2026年2月付けレポートによれば、トランプ大統領の支持率は就任時の52%から2026年1月には42%まで低下しています。特に政策別では雇用・経済・インフレ分野での支持率低下が顕著で、無党派層や共和党支持者の一部からも離反が起きています。
中間選挙の投票先調査では民主党が5ポイントリードしており、2025年11月に実施されたバージニア州・ニュージャージー州知事選では民主党候補が大差で勝利しました。さらに、選挙予測サイトの賭けオッズでは民主党が下院多数派を奪還する確率が7割超という数字も出ています。
有権者が怒っているのは主に2つです。1つは物価の高止まり。食料品・光熱費・保険料の上昇が家計を直撃し続けています。もう1つはトランプ政権が関与する外交・軍事行動に対する疲弊感です。2022年から続くロシア・ウクライナ問題に加え、2026年2月には米国とイスラエルがイランと全面的な軍事衝突に発展するなど、中東情勢も混迷の度合いを深めています。
豆知識:中間選挙と与党の歴史的法則
1945年以来、中間選挙で与党は上院平均4議席・下院平均25議席を失うのが通例です。ねじれ議会を回避できたのは、9.11直後のブッシュ政権(2002年)のみ。この法則が今回も働けば、共和党は苦しい戦いを強いられます。
シナリオ設定:共和党が大敗するとはどういう状況か
今回の仮定は以下の通りです。
2026年11月の中間選挙で、インフレ不満と戦争疲弊を追い風に民主党が下院の過半数を奪還します。上院は共和党が辛うじて過半数を維持するものの、トランプ政権はねじれ議会という状態に陥ります。これは第1次トランプ政権の2018年中間選挙と同じ構図であり、当時と同様に政権の政策遂行力が大きく制約される局面です。
この状況が確定した直後の市場がどう動くか。以下では資産クラスごとに考察していきます。
米国株:ねじれ議会は意外にも株価の追い風になる
共和党が負けたら株が暴落する、。そう思う方も多いかもしれません。しかし、歴史のデータはそれとは異なる事実を示しています。
第一生命経済研究所の分析によれば、ねじれ議会となったケースの選挙後半年の株価騰落率は平均プラス8.6%と、むしろ上昇傾向が確認されています。なぜかというと、ねじれ議会になると過激な政策が通りにくくなるからです。大型増税も大型支出拡大も議会を通らない。市場が最も嫌う不確実性の源、つまり極端な政策転換リスクが低下します。
共和党が大敗すれば、トランプ政権の強引な関税政策にも一定のブレーキがかかるとの期待が市場に広がります。実際、2020年の大統領選直後に増税路線の民主党が議会を独占しない見通しが強まった際、S&P500は翌日から2日連続で約2%上昇しました。同じロジックが今回も働く可能性があります。
ただし、選挙前の動きには注意が必要です。日興アセットマネジメントのデータによれば、中間選挙の年は選挙直前まで先行き不透明感が株価の重しとなりやすい傾向があります。つまり、選挙前の8月から10月頃は軟調になりやすく、選挙後に株価が回復するというパターンが繰り返されてきました。三菱UFJ信託銀行のコラムでは、このアノマリーに基づき2026年の8月から10月頃が仕込みのチャンスという見方も示されています。
| フェーズ | 時期 | 米国株の動き(仮定シナリオ) |
|---|---|---|
| 選挙前・不透明期 | 2026年8月から10月 | 横ばいまたは軟調。不確実性が重し |
| 選挙直後 | 2026年11月 | 関税緩和期待・政策安定感から上昇 |
| 年末から翌年 | 2026年12月以降 | 企業業績次第で上昇継続の可能性 |
日本株:関税緩和と円高が複雑に絡み合う
日本株にとって、共和党大敗シナリオはプラスとマイナスが混在する展開になります。
プラス材料として最も大きいのは関税緩和への期待です。ねじれ議会により、トランプ政権が強行してきた高関税政策に制約がかかるとの見方は、輸出企業や製造業を中心とした日本株にとって追い風です。ピクテ投信のシナリオ分析でも、トランプ政権がねじれ議会に直面するケースでは日本株が恩恵を受けやすいとの見解が示されています。
一方で複雑な要因があります。それは円高リスクです。関税緩和期待はドル安を促しやすく、日米金利差の縮小とも相まって円高圧力が強まります。金価格の見通しレポートでは、2026年後半から年末にかけて米ドル円が140円台まで調整する可能性も指摘されています。円高は輸出企業の収益に直接打撃を与えるため、株価の上昇を相殺するリスクがあります。
また、共和党大敗シナリオでトランプ政権が窮地に追い込まれたと市場が判断した場合、政治混乱を嫌うリスクオフの動きが日本株を一時的に押し下げる可能性もあります。選挙直後の数日は乱高下を覚悟しておく必要があるでしょう。
注目ポイント:日本株と円高の関係
日本は国内で原油を産出できないため、原油価格の急騰と不確実性の増大が製造業のセンチメントを萎縮させやすいという特性があります。中東情勢の緊張が続く中での選挙結果は、円高と原油高が同時に進行するスタグフレーション的な局面を招くリスクも内包しています。
原油:戦争疲弊感による停戦期待が価格を押し下げる可能性
共和党大敗の最も重要な要因の一つがアメリカのためにならない戦争への怒りです。この民意が明確になったとき、市場は何を予測するでしょうか。
まず考えられるのは外交路線の転換期待です。民主党が下院を奪還した場合、イランや中東における軍事的関与の縮小を求める政治的圧力が強まります。停戦や外交交渉への期待が高まれば、ホルムズ海峡の緊張が和らぐとの観測から原油価格には下落圧力が生じます。野村証券のレポートでも、米国・イスラエルとイランの停戦が実現した場合、原油価格に押し下げ圧力が生じると分析されています。
もっとも、ニッセイ基礎研究所の2026年原油相場見通しでは、OPECプラスによる減産縮小の再開やベネズエラの増産観測を踏まえ、WTI先物で1バレル48ドルから70ドル程度、年末は50ドル台後半という見通しが示されています。共和党大敗による停戦期待が加わればこのレンジの下限に向かう動きが強まり、場合によっては40ドル台後半まで下落するシナリオも考えられます。
ただし、原油価格は地政学の影響を受けやすく、たとえ選挙後でも中東情勢が実際に沈静化するかどうかは別問題です。停戦期待が裏切られればすぐに上昇に転じる可能性もあり、価格の振れ幅が大きくなりやすい局面と考えておく必要があります。
| シナリオ | 原油価格(WTI)の方向性 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 停戦期待が高まる場合 | 下落方向(40ドル台後半も視野) | ホルムズ海峡の緊張緩和、供給回復期待 |
| 戦闘が長期化する場合 | 高止まりまたは上昇(70ドル超) | 供給懸念の持続、地政学プレミア |
金:短期的に調整しても中長期の上昇余地は大きい
金価格の動きは、共和党大敗シナリオにおいて最も読みにくい資産の一つです。
短期的には下落圧力がかかる可能性があります。理由は2つあります。1つ目は、関税緩和期待によるドル高の動きです。ドルが強くなると金価格は割高感が生じ、売られやすくなります。実際、トランプ関税に対して裁判所が違憲判断を下した2025年5月の局面でも、リスク選好が高まり金価格が下落するという動きが確認されました。2つ目は、停戦・地政学リスクの緩和が安全資産としての金需要を一時的に後退させる点です。
しかし、中長期的な視点では構造的な上昇要因が依然として強力です。ピクテ投信のレポートでは、主要先進国の債務膨張や世界の分断に伴うインフレ圧力という構造的要因が2026年以降も金価格を下支えすると分析しています。2026年2月時点の国内小売価格は1グラム27,000円を超え、歴史的高値圏にあります。
ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格を5,400ドル、JPモルガンは年末までに6,300ドルという予測を示しており、共和党大敗後の一時調整があったとしても、その後は再び上昇トレンドに回帰するシナリオが有力です。
知っておきたい:金価格と米国政治の関係
金は各国の信用に基づかず、金それ自体に価値がある資産です。政治の混乱や財政悪化が深刻になるほど、投資家は株式や債券から金に資金を移す傾向があります。共和党大敗後にトランプ政権が追い詰められ、政治的混乱が深まるような展開になれば、金への安全資産需要はむしろ高まる可能性があります。
銀:金より大きな動きが期待できるが振れ幅も大きい
銀は金よりも価格水準が低く、安全資産としての側面と産業素材としての側面を両方持つ、いわばハイブリッドな資産です。
共和党大敗シナリオにおいて銀が特に注目される理由は、脱トランプ関税による産業需要回復への期待です。銀は太陽光発電パネル、EV部品、データセンターのインフラなどに幅広く使われており、関税緩和によってグリーンエネルギー関連投資が拡大すれば需要押し上げ効果が生まれます。民主党が下院を制した場合、再生可能エネルギーへの政策支援が回復するとの期待も銀価格を下支えします。
さらに、銀の需給構造自体が長期的な上昇を後押ししています。世界の銀市場では5年連続で需要が供給を上回る状態が続いており、この構造的な不足は2026年時点でも解消されていません。2025年末の銀価格は1オンス69ドルという史上最高値を記録しており、年初来の上昇率は130%に達しました。
ただし、銀の最大のリスクは値動きの大きさです。金よりも流動性が低いため、需給や投機の影響を受けやすく、急騰した後に急落する局面も珍しくありません。共和党大敗による政治的混乱が長引く場合、一時的なリスクオフで銀も売られる局面が生じる可能性に注意が必要です。
シナリオ全体のまとめと投資家へのメッセージ
ここまで考察してきた内容を一つの表に整理します。あくまで仮定に基づくシナリオであることをお断りした上でご覧ください。
| 資産 | 選挙直後(短期) | 6ヶ月後(中期) | 主なポイント |
|---|---|---|---|
| 米国株(S&P500) | 上昇傾向 | 継続上昇 | ねじれ議会による政策安定感、関税緩和期待 |
| 日本株(日経平均) | 乱高下 | 円高次第で上値重い | 関税緩和はプラス、円高進行がリスク |
| 原油(WTI) | 下落方向 | 停戦進捗次第 | 停戦期待で下落も、中東不安定化で反転リスク |
| 金 | 一時調整も | 中長期は上昇継続 | 構造的上昇要因強く、調整は買い場になりやすい |
| 銀 | 金と連動して一時調整 | 産業需要回復でアウトパフォームの可能性 | グリーン政策回復と需給不足が後押し |
大切なのは、政治イベントに過剰反応して資産を動かすことのリスクです。歴史を振り返れば、選挙の年はどのパターンでも年末に向けて株価が上昇基調をたどる傾向が確認されており、最終的には企業業績や経済の実態が市場を決定するという事実があります。


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