SBIホールディングスの決算だけを見ると、株価がもっと高くても不思議ではないと感じます。2026年3月期は収益1兆8966億円、税引前利益5167億円、親会社の所有者に帰属する利益4276億円となり、いずれも過去最高を更新しました。
ROEも28.0%まで上昇しています。それでも2026年7月24日の株価は2823.5円で、1月につけた年初来高値3866円から約27%下落した位置です。好業績なのに株価が弱いという違和感は正しい感覚ですが、市場が決算を見落としているだけでは説明が足りません。
市場は現在の利益額よりも、その利益を翌期以降も再現できるか、増えた資本を株主利益へ変えられるかを疑っています。つまり、SBIの株価が冴えない原因は業績の弱さよりも、利益の質と資本配分に対する評価の低さにあります。
数字だけなら驚くほど割安に見える
2026年7月24日の終値2823.5円に対して、2026年3月期の1株利益は666.82円です。単純計算の実績PERは約4.2倍となります。1株純資産は2776.99円なので、PBRは約1.02倍です。前期実績の年間配当95円を基準にすると、配当利回りは約3.4%となります。
| 指標 | 2026年7月24日時点の概算 | 表面上の見え方 |
|---|---|---|
| 株価 | 2823.5円 | 年初来高値から約27%下落 |
| 実績PER | 約4.2倍 | かなり割安に見える |
| 実績PBR | 約1.02倍 | 解散価値に近い評価 |
| 実績ROE | 28.0% | 金融会社として高水準 |
| 前期配当基準の利回り | 約3.4% | 一定の配当収入が見込める |
この組み合わせだけを見ると、株価が放置されているように映ります。しかしPERの分母となる利益には大きな一時利益が含まれています。PBRも帳簿上の純資産が、同じ収益力を毎年生むと市場が認めて初めて上昇します。SBIを単純な低PER株として見ると、株価が上がらない理由を読み違えます。
見るべきポイント:
低PERは株価が安い場合だけでなく、利益が一時的に膨らんでいる場合にも発生します。SBIでは後者の影響が大きいため、実績PER4倍台をそのまま割安判定に使うと判断が粗くなります。
最大の理由は過去最高益の中に一時利益が入っていること
2026年3月期には、住信SBIネット銀行株式の譲渡に伴う売却益1416億円が計上されました。連結税引前利益5167億円の約27%を占める大きさです。市場はこの1416億円を翌期の利益として繰り返せないと判断するため、実績利益に通常の倍率を掛けません。
ただし、ここでSBIの本業まで弱いと判断するのも誤りです。売却益1416億円を連結税引前利益から単純に差し引くと約3751億円となり、前期の2823億円を約33%上回ります。金融サービス事業も、税引前利益4250億円から同じ売却益を差し引いた約2834億円で、前期の1973億円を約44%上回る計算です。
| 利益の見方 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 連結税引前利益 | 2823億円 | 5167億円 | 約83%増 |
| 売却益を単純控除した連結税引前利益 | 2823億円 | 約3751億円 | 約33%増 |
| 金融サービス事業の税引前利益 | 1973億円 | 4250億円 | 約115%増 |
| 売却益を単純控除した金融サービス利益 | 1973億円 | 約2834億円 | 約44%増 |
つまり、過去最高益には一時利益が混じっていますが、一時利益を除いても本業は伸びています。株価が弱い理由を一時利益だけに求める説明も不十分です。市場は本業の成長を認めつつ、その利益が複雑な事業構造の中で安定して続くかを慎重に見ています。
高品質な成長資産を売却した後の穴がまだ見えにくい
住信SBIネット銀行の売却は多額の利益と現金を生みましたが、同時に成長性の高いネット銀行を連結グループの利益源から手放した取引でもあります。資産を高値で売る行為自体は合理的ですが、株式市場が知りたいのは売却価格の大きさよりも、翌期から失われる利益を何で埋めるかです。
SBIにはSBI新生銀行があります。2026年3月期のSBI新生銀行は、SBIホールディングスへのIFRS取込ベースで税引前利益1061億円となり、前期比29%増えました。SBI証券も営業収益2846億円、営業利益868億円で過去最高を記録しています。不正アクセス関連の補償金や準備金として約195億円の特別損失を計上しながら増益を確保した点は、基礎収益の強さを示します。
それでも、住信SBIネット銀行の売却後に金融サービス全体がどの程度の成長率を維持するかは、まだ決算で十分に確認できていません。NTTとの資本業務提携や金融サービス連携は大きな構想ですが、提携発表と利益計上の間には時間差があります。市場は構想そのものより、顧客数、預かり資産、手数料収入、貸出残高などへ変換された実績を待っています。
業績予想がないため株価の基準点を作りにくい
SBIホールディングスは、株式市場や投資先評価の変動を受けやすいとして、2027年3月期の連結業績予想を公表していません。配当予想も未定です。会社側には合理的な理由がありますが、投資家側から見ると来期PERも予想配当利回りも計算しにくくなります。
株価は過去の決算より、次の一年に得られる利益へ倍率を掛けて形成されます。来期の利益予想が空欄だと、強気の投資家は本業成長を前提に評価し、慎重な投資家は一時利益の反動を警戒します。見方の幅が広がるため、好決算が出ても株価評価が一段上へ定着しにくくなります。
SBI特有の割引要因:
業績予想を出さない会社では、実績PERが低くても翌期利益の基準が定まりません。割安さを数字で共有しにくいため、決算直後に買われても長期資金が追随しにくい傾向があります。
増資と自社株買いが同時に起きて資本政策が読みにくい
2025年7月、SBIはNTTを割当先として2700万株を発行し、約1108億円を調達しました。株式分割前の発行済株式数に対して8.91%に相当するため、既存株主には一株利益と議決権の希薄化が生じました。その後、2025年12月から2026年2月にかけて約500億円の自社株買いを実施し、分割後ベースで1469万株を取得しています。
提携のために新株を発行し、その後に自社株を買う流れには事業上の理由があります。それでも株主から見ると、資金調達と株数削減が短期間に並び、最終的に一株価値がどれだけ増えたのか把握しにくい構図です。発行済株式数は分割調整後で前期末の約6億611万株から約6億6112万株へ約9%増えています。自社株買いを考慮しても、希薄化の影響は完全には解消されていません。
SBIの株主還元方針は、特殊要因を除いた金融サービス事業の税引前利益の30%程度を、配当と自社株買いで還元する内容です。2026年3月期の総還元額は1117億円でした。ただし売却益1416億円の全額が還元されたわけではなく、成長投資にも回されています。市場は投資先から得られる将来利益が、希薄化と資本コストを上回るかを見ています。
SBIは一つの金融株として評価しにくい
SBIの中には、銀行、証券、保険、資産運用、PE投資、暗号資産、バイオ、Web3、再生可能エネルギーなどが同居しています。銀行にはPBRとROE、証券には市況感応度、資産運用には運用残高と手数料率、PE投資には保有資産価値、暗号資産には取引高と価格変動という別々の評価軸が必要です。
| 事業 | 本来の評価軸 | 市場が警戒する変動要因 |
|---|---|---|
| 銀行 | 利ざや、貸出残高、信用コスト、ROE | 金利変動と貸倒れ |
| 証券 | 口座数、預かり資産、手数料外収益 | 株式市場の売買低迷 |
| 資産運用 | 運用資産残高と継続手数料 | 相場下落と資金流出 |
| PE投資 | 保有資産価値と売却実績 | 未上場株の評価変動 |
| 暗号資産 | 取引量、スプレッド、保有資産 | 価格急落と規制変更 |
| 次世代事業 | 事業化の進捗と黒字定着 | 先行投資と撤退損失 |
複数事業を持つことは不況耐性につながる一方、投資家が全体価値を計算しにくくします。各事業の価値を合計する方法では高い評価が出ても、持株会社の経費、少数株主持分、重複資本、追加投資、税金を差し引く必要があります。結果として、単純合計より低い値段を付ける複合企業ディスカウントが生じます。
2026年3月末の親会社所有者帰属持分は1兆7949億円で、2026年7月24日の時価総額は約1兆8668億円です。市場はSBI全体をほぼ純資産額で評価しています。これは事業価値がないという意味ではなく、成長事業の上振れと、投資損失や資本配分の下振れをほぼ同額として相殺している状態です。
ROE28%なのにPBR1倍の矛盾は見かけほど大きくない
一般に、高いROEを安定して続ける会社はPBRが1倍を上回りやすくなります。それでもSBIが約1倍にとどまるのは、市場がROE28%を通常の収益力と見ていないためです。住信SBIネット銀行の売却益を含む年度のROEを、そのまま翌期以降へ延長できないことは明らかです。
市場が知りたいのは、一時利益を除いた状態でROEが何%に落ち着くかです。仮に平常時ROEが10%前後で、利益変動が大きく、配当予想も未定なら、PBR1倍前後は説明可能です。反対に、平常時でも15%程度のROEを維持し、利益の30%前後を継続還元できると確認されれば、PBR1倍には見直し余地が生まれます。
株価上昇に必要なのは、過去最高益の更新よりも、売却益を除いたROEの定着です。この点がSBIを見る際の中心になります。
信用買い残が短期の上値を重くしている
2026年7月17日時点の信用買い残は約930万株、信用倍率は327倍でした。信用売りが極端に少ないため倍率が大きく見える面はありますが、上昇を待つ買い建玉が積み上がっている状態です。
信用買いは期限や金利負担があるため、株価が戻ると利益確定や損失縮小の売りが出やすくなります。ファンダメンタルが改善しても、短期では戻り売りを吸収する買い需要が必要です。年初来高値から約27%下落しているため、3000円台には取得価格へ戻るのを待つ投資家も多いと推測できます。
ただし信用残は企業価値を決める要因ではなく、値動きの速度を鈍らせる要因です。業績の再現性が確認されれば解消へ向かいますが、材料が乏しい期間には株価の重荷になります。
株価が見直されるために必要な四つの確認材料
| 確認材料 | 具体的に見る数字 | 株価への意味 |
|---|---|---|
| 本業利益の継続 | 売却益を除く金融サービス利益 | 実績PERの信頼度が上がる |
| SBI新生銀行の成長 | 利ざや、貸出残高、信用コスト、純利益 | 失ったネット銀行利益を補える |
| 一株価値を意識した資本政策 | 発行株式数、配当、自社株買い、投資回収 | 希薄化への警戒が弱まる |
| 事業価値の見える化 | 主要子会社利益、保有株価値、持株会社費用 | 複合企業ディスカウントが縮小する |
直近では2026年7月31日に第1四半期決算が予定されています。見るべきなのは前年同期比の増減だけではなく、金融サービス事業の基礎利益がどこまで伸びたかです。SBI新生銀行とSBI証券が増益を続け、PE投資と暗号資産の評価益に頼らず利益を積み上げていれば、株価が純資産付近にとどまる理由は弱くなります。
反対に、利益の大半が投資先の評価益や売却益で動き、発行株式数が増え、配当方針が曖昧なままなら、低PERは長く続きます。会社全体の利益が増えても、一株当たりの継続利益が増えなければ株主価値の改善は限定されます。
決算で最初に確認する順番:
連結利益より先に、金融サービス事業の税引前利益、SBI新生銀行の利益、SBI証券の営業利益、発行済株式数を確認します。その後にPE投資と暗号資産の評価損益を分けて見ると、本業の変化を把握しやすくなります。
SBI株は割安株というより信頼待ちの株
SBIホールディングスの株価が冴えない理由は、ファンダメンタルの悪化だけでは説明できません。2026年3月期は売却益を単純に除いても連結税引前利益が約33%増え、SBI新生銀行とSBI証券も成長しました。本業は弱くありません。
一方で、過去最高益の約27%を一時利益が占め、成長資産だった住信SBIネット銀行を売却し、業績予想と配当予想が未定で、増資後の資本効率も検証途中です。銀行から暗号資産まで抱える事業構造も、利益の予測を難しくしています。市場はこの不確実性をPBR約1倍という価格へ反映しています。
SBIの株価が本格的に上向く条件は、次の大型案件ではなく、一時利益を除いた利益と一株価値が数四半期続けて増えることです。7月31日の決算では過去最高という表現より、金融サービスの基礎利益、発行株式数、還元額の三点を確認するのが実用的です。


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