SNSや雑誌での露出が一気に増えたNOT A HOTEL。世界的建築家が手がけるラグジュアリーなヴィラを年間10泊単位からシェア購入できる独特の仕組みで、富裕層を中心にオーナーを急増させています。
しかし非上場企業のため、売上や利益といった数字は表に出てきません。本記事では公式ミッションページ、決算公告、各種一次情報を積み上げ、NOT A HOTELが本当に順調なのかを徹底的に検証しました。
NOT A HOTELとは5年で1,100超オーナーを集めたシェア別荘ベンチャー
NOT A HOTEL株式会社は、2020年4月にZOZO傘下のEC企業を売却した濵渦伸次氏が立ち上げたスタートアップです。コロナ禍のロックダウン真っ只中で銀行にも相手にされない状況から、約100ページのポエムを書き上げて投資家にぶつけ、初回で10億円を調達したという伝説的なエピソードで知られています。
同社のビジネスモデルは一見複雑ですが、コア構造はシンプルです。世界的建築家やクリエイターが設計したヴィラをCGパースの段階で先行販売してオーナーを集め、資金が建築費に届いたタイミングで建設に着手します。
完成後はオーナーが利用しない日に同社がホテルとして貸し出し、その売上の一部がオーナーに還元される仕組みです。さらにオーナーは全国どこのNOT A HOTELも相互に利用できるため、まさに世界中に自宅が点在する暮らしを実現できます。
豆知識:完成前に投資回収を済ませる革新性
従来のホテル開発はまずホテルを建ててから集客するモデルで、初期投資の回収に長い年月を要します。NOT A HOTELはCGパースの段階で買い手を確保してから建てるため、完成時点で投資回収が完了している点が大きな違いです。濵渦CEO自身、過去のホテルはリスクを取り過ぎていたと指摘しています。
公式数字で見るNOT A HOTELの成長軌跡
まずは公式が発表している事業実績の推移を整理します。公式ミッションページに掲載されている数字は以下の通りで、累計契約高は確実に積み上がっています。
| 時点 | 累計契約高 | オーナー数 | 累計調達額 | 社員数 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年7月 | 227億円 | 597名 | 105億円 | 非公表 |
| 2025年6月 | 454億円 | 833名 | 288億円 | 322名 |
| 2025年11月末 | 624億円 | 1,115名 | 非公表 | 非公表 |
| 2026年2月時点 | 約650億円 | 1,100名超 | 332億円 | 非公表 |
| 2026年4月 | 非公表 | 非公表 | 非公表 | 495名(グループ) |
とりわけ凄まじいのが2024年7月から2025年11月までの16カ月間で、契約高は227億円から624億円へと約2.7倍に伸びています。月平均約25億円ペースで新規契約を積み上げてきた計算で、これは富裕層向け不動産ビジネスとしては異常な速度です。
社員数も2025年6月の322名から2026年4月には495名に増えており、組織サイズも年率5割超のペースで拡大しています。
公式数字と決算公告で読み解く本当の業績
ここからが今回の記事で最も重要な数字です。NOT A HOTELの公式ミッションページには連結ベースの直近3年の契約高と営業利益、および今期計画が明示されています。これに官報の決算公告から確認できる単体ベースの純利益を組み合わせると、業績の全体像が立体的に見えてきます。
| 事業年度 | 年間契約高(連結) | 営業利益(連結) | 純利益(単体) |
|---|---|---|---|
| 2022年3月期(第2期) | 非公表 | 非公表 | ▲1.83億円 |
| 2023年3月期(第3期) | 37億円 | 1.3億円 | ▲4.83億円 |
| 2024年3月期(第4期) | 130億円 | 2.5億円 | +4.75億円 |
| 2025年3月期(第5期) | 230億円 | 11.0億円 | +2.6億円 |
| 2026年3月期(第6期)計画 | 300億円 | 非公表 | 非公表 |
注目すべきは2025年3月期の営業利益が11億円と、前期比約4.4倍に跳ね上がっている点です。契約高は37→130→230億円と2年で約6倍、しかも営業利益率(契約高ベース)は3.5%→1.9%→4.8%と上昇トレンドにあります。一般的なスタートアップが規模拡大とともに赤字を深掘りする中、NOT A HOTELは規模拡大と利益創出を両立させており、極めて優秀なファイナンシャル・パフォーマンスと評価できます。
単体ベースの純利益は2024年3月期に+4.75億円、2025年3月期は+2.6億円と連続黒字を維持しています。営業利益11億円に対して純利益2.6億円と差が大きいのは、調達した約193億円のデットに伴う支払利息や法人税がのしかかってきていると読むのが自然です。子会社を含む連結営業利益と親会社単体純利益の集計範囲が異なる点にも留意が必要です。
豆知識:自己資本比率40.6%が示す財務体力
2025年3月期末の貸借対照表は総資産285.5億円、総負債169.6億円、純資産115.9億円、自己資本比率40.6%という構成です。不動産開発企業は仕入や建設費を借入で賄うため、自己資本比率は20%前後にとどまることが多い業界。NOT A HOTELの40.6%は明らかに高水準で、有力VCや事業会社からの調達が成功していることの裏付けでもあります。多少の景況悪化があっても財務基盤が揺るがない体力がある状態です。
契約高と売上高の違いという重要な落とし穴
ここで多くのメディアが混同しがちな点に触れます。公表されている230億円や300億円はあくまで契約高であり、会計上の売上高とイコールではないのがポイントです。不動産販売の売上は基本的に物件引渡時に計上されます。CGパース段階での契約金は前受金として処理され、完成して鍵が渡された瞬間に売上に振り替わる流れです。
そのため、累計契約高624億円や2026年3月期計画300億円という数字をそのまま売上高と読むのは正確とは言えません。会計上の売上高は引き渡しスケジュールに左右されるため、年度によって契約高との乖離が生じます。さらにビジネスモデルが3層構造になっており、新規ヴィラ販売によるイニシャル売上、販売金額の約3%の管理費売上、オーナー未使用時のホテル売上が積み重なります。拠点が増えるほど後者2つのストック収益が厚くなる構造です。
関連情報:契約高ベンチマーク
富裕層向け会員制リゾートホテル最大手のリゾートトラストは2025年3月期で連結売上高約2,493億円。NOT A HOTELの契約高230億円は単純規模で約10分の1ですが、創業5年でこの水準に到達するスピードは圧倒的です。リゾートトラストが半世紀近くかけて築いた市場へテクノロジーとデザインで真っ向勝負を仕掛けている構図と言えます。
累計調達額332億円と5年で1,000億円投資計画の意味
業績を語るうえで欠かせないのが資金調達の状況です。NOT A HOTELは2026年2月にシリーズCラウンドとデットファイナンスで合計101億円を調達し、累計調達額は332億円(エクイティ139億円、デット193億円)に達しました。リード投資家はMinerva Growth Partners、引受先にはセコイア、Hillhouse Investment Management、三井住友信託銀行のCVCなどが名を連ねています。
公式ミッションページでは、今後5年間で約1,000億円規模の投資を全国展開に投じる方針が示されています。すでに発表済みの拠点に加え、水面下で準備中の拠点も合わせると合計40近いプロジェクトを抱えており、調達した資金はこの拠点開発に集中投下される見込みです。海外売上も2024年期の数億円規模から2025年期には数十億円規模へ拡大しており、グローバル富裕層市場での需要も追い風となっています。
順調と評価できる根拠と慎重に見るべきポイント
ここまでの数字を踏まえると、NOT A HOTELはトップライン・利益ともにかなり順調と評価できます。
順調と判断する根拠は明確です。第一に契約高が2年で37→230億円と6倍以上に伸び、しかも2026年3月期も300億円計画と成長軌道が継続している点。第二に営業利益が11億円まで伸びて利益率も改善している点。第三に宿泊満足度99.2%という品質の高さが維持されている点。第四に自己資本比率40.6%という健全な財務体力。第五にシリーズCで海外機関投資家が参画し、グローバル市場での評価が裏付けられている点です。
一方で慎重に見るべき論点もあります。まずアセットヘビーな事業構造です。物件開発を内製化して垂直統合する戦略は強みである反面、建設コストや金利上昇のリスクを直接受けます。営業外費用としての支払利息が増加していることはすでに数字に表れています。
次に組織拡大スピードへの懸念があり、社員数は2025年6月の322名から2026年4月には495名へと約1.5倍。さらに3年以内に1,500名規模を目指す計画で、これだけの急拡大でカルチャーと品質を維持できるかは未知数です。
さらにヴィラ単価が数億円規模である以上、富裕層市場の景況感が悪化すれば販売速度は鈍化しかねません。HERITAGEやvertexといった一般顧客向けの新ホテルブランド、有楽町のJAPA VALLEYなど多角化への投資が同時並行で走っており、本業の収益性とのバランスも今後の見どころです。
NOT A HOTLは順調なのか、購入しても良いのかの答え
公式数字を積み上げて見えてくる結論は、良いです。
契約高は年間230億円実績から300億円計画へ、営業利益は11億円規模、純利益は連続黒字を維持。これは富裕層向け不動産ビジネスとして極めて順調な数字です。
メディアの一部報道のように契約高をそのまま売上高と読み替えるのは正確ではない点には注意が必要です。あくまで会計上の売上高は非開示であり、契約高との乖離は引渡スケジュールに左右されます。それでも営業利益11億円という数字は事業の収益性を示す確かな指標であり、創業5年でここまで来た事実は素直に評価されるべきです。
第5期の純利益が前期から微減しているのも、デットを使って事業をアクセラレートしている結果と読めば自然です。旅先で見かけるあのスタイリッシュなヴィラの裏では、数字としても着実に存在感を増している企業が走っているという事実を覚えておいて損はないでしょう。


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