2025年に医学誌eバイオメディシンに掲載された研究によると、家庭で広く使われるプラスチック可塑剤フタル酸エステル類が、2018年の世界における55歳から64歳の心疾患死の10%超に影響していた可能性があるとされています。
日本のどの製品に入っているの?という疑問に答えた記事がありませんでした。
そこでこの記事では、日本のスーパーで実際に購入できる具体的な商品カテゴリを深掘りし、今日からできる対策までをわかりやすくお伝えします。
フタル酸エステルとは何か?まず基本から知ろう
フタル酸エステル類(英語ではPhthalates=フタレートとも呼ばれます)は、プラスチックを柔らかく、しなやかにするために添加される可塑剤(かそざい)の一種です。硬くて脆いポリ塩化ビニル(PVC)にこの物質を加えると、フィルムのように薄く引き伸ばすことも、パイプのように成形することもできるようになります。
種類が多く、代表的なものだけでも DEHP(フタル酸ビス2-エチルヘキシル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、BBP(フタル酸ベンジルブチル)などがあります。このうちDEHPはフタル酸系可塑剤の生産量の約60%を占める最主力物質で、今回の心疾患研究でも特に注目されています。
厄介なのは、フタル酸エステルがプラスチックと化学的に結合していないという点です。時間が経つにつれて少しずつ滲み出し、食品や空気中に移行することが知られています。特に油脂を多く含む食品は、フタル酸エステルを溶け込みやすくする性質があるため、脂肪分の高い食品との接触には注意が必要です。
豆知識:フタル酸エステルは体内に蓄積しない?
フタル酸エステルは体内での代謝が比較的速く、ダイオキシンや水銀のように長期蓄積するタイプの物質ではありません。しかし、日常生活でほぼ毎日触れ続けることで恒常的な暴露(ばくろ)が生じるため、研究者たちは長期的な健康影響を懸念しています。実際に尿・血清・羊水・母乳からも検出されており、知らず知らずのうちに体内を通過し続けている物質なのです。
日本ではどう規制されているのか
日本では食品衛生法によって、油脂や脂肪性食品を含む食品に接触するポリ塩化ビニル製の器具・容器包装には、DEHPを原材料として使用してはならないと2002年に定められました。また2010年には、6歳未満の子どもが使う指定おもちゃについて、DEHP・DBP・BBPなど6種類のフタル酸エステルの使用を禁止する基準が追加されています。
さらに2020年からは食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度が段階的に施行され、2025年6月に完全施行となりました。この制度では、使用が認められた物質のリストを国が管理し、リストに載っていない物質は原則として使用できない仕組みになっています。
ただし注意が必要な点があります。化粧品やシャンプーなどのパーソナルケア製品については、フタル酸エステルに関する成分表示の義務がありません。欧州では化粧品への使用を禁止している物質も、日本では現時点で規制の対象外となっているケースがあるのが実情です。
スーパーで買えるどの製品に含まれているのか
では実際に、私たちが日常的に購入する商品の中で、どのカテゴリにフタル酸エステルが関係しているのでしょうか。カテゴリ別に整理してみます。
食品包装・容器類
スーパーの精肉コーナーや惣菜コーナーで目にするラップ。市販の家庭用食品ラップにはポリ塩化ビニリデン(PVDC)製ポリエチレン(PE)製ポリ塩化ビニル(PVC)製などがあります。過去の調査では食品用ラップフィルムにフタル酸エステル類は検出されず、代わりにアジピン酸エステル類が使用されていることが確認されています。現在スーパーの店頭に並ぶサランラップやNEWクレラップはポリ塩化ビニリデン製、ポリラップはポリエチレン製で、これらの製品ではフタル酸エステルは可塑剤として使用されていません。
一方で業務用の塩化ビニル製ラップや手袋については以前から問題が指摘されており、コンビニや飲食店のお弁当に含まれるDEHP濃度が、家で作った定食の数十倍になるという調査データが過去に報告されています(コンビニ弁当:803〜8930ng/g、定食:12〜304ng/g)。こうした業務用包材の問題が規制強化のきっかけの一つとなりました。
食品トレーについては、スーパーで一般的に使われる発泡スチロール(発泡ポリスチレン)製のトレーにはフタル酸エステルは含まれていません。この素材は可塑剤を必要としない材料です。問題になりやすいのは、透明な軟質プラスチックやPVC製の容器です。
また、ペットボトルや瓶のキャップに使われるパッキン(シール材)にPVC素材が使われているケースがあり、フタル酸エステルが溶出する可能性が指摘されています。
シャンプー・リンス・ボディソープなどのパーソナルケア製品
スーパーのドラッグコーナーや日用品売り場で購入できるシャンプーやリンス、ボディソープ、ヘアスプレー、化粧品類。これらの中でも特に注意が必要なのは香料と表示された合成香料入りの製品です。人工的な合成香料には、フタル酸エステルが溶媒や香りの持続剤として使われていることが多いと指摘されています。成分表示に香料とだけ記載されている製品は、その香料の詳細な成分を開示する義務がないため、消費者が確認するのが難しい状況です。
資生堂はフタル酸エステルについて内分泌かく乱物質の懸念があり、欧州では化粧品への使用を禁止していると自社サイトで説明しており、自社製品での不使用を方針として掲げています。一方で、全てのメーカーが同様の対応をしているわけではありません。
| 製品カテゴリ | フタル酸エステルとの関係 | 注意ポイント |
|---|---|---|
| 家庭用食品ラップ(PE・PVDC製) | 現行品は不使用 | 電子レンジで油分の多い食品と直接接触させない |
| 業務用塩化ビニルラップ・手袋 | 過去に問題あり、規制対象 | コンビニ弁当など加工食品への混入リスク |
| PVC製食品容器・パッキン類 | 使用可能な範囲で管理中 | 脂っこい食品との長時間接触は避けるのが無難 |
| 合成香料入りシャンプー・化粧品 | 香料成分として含まれる可能性あり | 成分表示に香料とある製品は注意 |
| ネイルポリッシュ・ヘアスプレー | DBPなどが含まれる製品あり | フタル酸エステルフリー表示を確認 |
| 芳香剤・洗濯洗剤(香り付き) | 合成香料を通じた暴露の可能性 | 無香料タイプへの切り替えを検討 |
芳香剤・衣類用柔軟剤・洗剤類
スーパーの洗剤・日用品売り場に並ぶ、香り付きの柔軟剤や芳香剤、消臭スプレー。これらにも合成香料を通じてフタル酸エステルが含まれている可能性があります。香りを長持ちさせる目的でフタル酸エステルが使われているケースがあるためです。室内で使用する芳香剤については、吸入による暴露も考慮する必要があります。
子ども向けビニール玩具・文房具
スーパーのおもちゃ売り場に並ぶ軟質ビニール製のおもちゃや、消しゴム・下敷きなどのPVC製文房具。日本では2010年から6歳未満を対象とした指定おもちゃについてフタル酸エステル6種類の含有が厳しく規制されていますが、規制以前に製造された古いおもちゃには含まれている可能性があります。また文房具類については規制の対象外となっているものもあるため注意が必要です。
フタル酸エステルが引き起こすとされる健康への影響
ニューヨーク大学の研究によると、フタル酸エステルは冠動脈の炎症を促進する可能性があり、既存の心疾患を悪化させて急性の心血管イベントにつながる場合があるとされています。また、テストステロンをかく乱することも知られており、男性では低テストステロンが心血管疾患の予測因子になるとも指摘されています。
過去の研究では、男性の精子数やテストステロンレベルの低下、男児の性器形成への影響、ぜん息や小児肥満との関連なども報告されています。一方で、日常的な暴露レベルがどの程度のリスクをもたらすかについては研究者の間でも評価に差があり、現時点では可能性があるという段階の科学的知見が多いことも事実です。
知っておきたい:脂肪性食品とフタル酸エステルの相性
フタル酸エステルは水にはほとんど溶けませんが、油やアルコールには溶けやすい性質があります。そのため、マヨネーズ、チーズ、肉類、揚げ物、ドレッシングなど油脂含量が20%を超える脂肪性食品は、プラスチック容器からフタル酸エステルが溶け出しやすい状況を作り出します。食品衛生法でも、こうした脂肪性食品への接触を特に規制対象としているのはこのためです。
暴露を減らす7つの習慣
完全にゼロにすることは難しいとしても、日常のちょっとした工夫でフタル酸エステルへの暴露を大きく減らすことができます。
まず食の場面では、プラスチック容器に入った食品を電子レンジで温める際、油分の多い食品と容器が直接触れないようにすることが大切です。電子レンジ加熱で容器が高温になると、フタル酸エステルが溶け出しやすくなります。耐熱ガラスや陶磁器に移し替えてから温めるのが理想的です。
食品の保存には、プラスチック製の保存容器の代わりにガラス瓶やステンレス製の容器を活用するとよいでしょう。特に脂肪分の多い食品やオイル類は、ガラス容器での保存がおすすめです。
パーソナルケア製品については、成分表示に香料とだけ記載されている製品を避け、無香料タイプや天然精油を使用した製品を選ぶことが暴露低減につながります。また、フタル酸エステルフリーと表示された製品を積極的に選ぶのも有効です。
室内環境の観点では、こまめな換気と掃除機がけが効果的です。神奈川県衛生研究所の調査によると、室内空気中のフタル酸エステルはPVC製床材や壁材などから徐々に揮発して、ほこりに吸着する形で蓄積しています。水拭きや湿らせたモップを使った掃除でほこりを取り除き、手洗いを習慣づけることも暴露低減に役立ちます。
また、香り付きの芳香剤や消臭スプレーの使用を控えることも室内空気の改善につながります。換気を優先することで、室内濃度を効果的に下げることができます。
子どもに対しては、古いビニール製おもちゃの使用を見直すとよいでしょう。規制以前に製造されたものには含まれている可能性があります。床を這う乳幼児は、床のほこりを通じた暴露も起こりやすいため、ポリ塩化ビニル製のフローリングや床材の使用についても長期的に検討する価値があります。
加工食品よりも新鮮な素材を使った手作り料理を増やすことも、食品包装を通じた暴露を減らす効果的な方法です。加工度が高い食品ほど製造工程でPVC製のチューブやコンベアベルトと接触する機会が多く、フタル酸エステルの含有量が高い傾向にあることが海外の研究で示されています。
日本の小学生の尿から高濃度のDEHP代謝物が検出!
北海道大学の研究グループが日本の小学生の尿中フタル酸エステル代謝物濃度を調べたところ、DEHPの代謝物が欧米や中国・台湾などの諸外国と比べて高い濃度で検出されました。これは室内環境からの暴露レベルが国際的に見ても高い可能性を示しており、日本の住環境に特有の課題として研究が続けられています。
知ることが最初の一歩
フタル酸エステル類は、私たちの生活のあらゆる場面に溶け込んでいる化学物質です。現在の科学的知見では、日常的な暴露レベルが直ちに深刻な健康被害をもたらすかどうかについては慎重な評価が続いています。しかし、心疾患死との統計的な関連を示す大規模な研究が相次いで発表されている事実は、軽視できるものではありません。
日本の規制は着実に強化されてきており、特に食品容器や子ども向け製品については対策が進んでいます。一方で、化粧品や芳香剤などへの規制は欧州と比べると緩い状況です。だからこそ消費者の側が製品を選ぶ知識を持つことが、自分自身と家族を守る力になります。
今日からできることは、電子レンジ加熱の容器を変える、無香料の洗剤を選ぶ、食品の保存容器をガラスに替えるといったシンプルな行動です。完璧を目指さなくても、できることから少しずつ取り組むだけで、日々の暴露量を確実に下げることができます。ぜひ身近なところから試してみてください。


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