米ゲームストップ(GameStop、NYSE: GME)はかつて全米最大のゲーム小売りチェーンでしたが、デジタル化の波に乗り遅れて長らく万年赤字の終わった企業と見られてきました。
ところが今や、5億ドルを超えるビットコインを保有し、さらにはネットオークション大手のeBayに対して560億ドル(約8兆円)もの買収提案を仕掛ける企業へと変身を遂げています。
ゲームストップはどんな会社なのか
ゲームストップは1984年にテキサス州ダラスで創業し、その後ゲームストップブランドに改名して成長した、世界最大のゲームソフト小売りチェーンです。新品・中古のビデオゲームソフト、ゲームハードウェア、アクセサリーなどを販売し、2025年2月時点では米国・カナダ・オーストラリア・欧州に計3,203店舗を構えています。
ゲームソフトがCDやDVDで売られていた時代は飛ぶように売れましたが、2010年代以降はダウンロード販売の普及とともに業績が急速に悪化しました。2018年度には過去最大となる純損失6億7,300万ドルを計上するなど、長年にわたって苦境が続きました。多くの業界関係者やアナリストが、このままいずれ消滅すると見ていたのです。
ゲームストップの規模感:
ゲームストップは EB Games、Micromania、Zing Pop Culture などのブランドも傘下に持ちます。かつてはゲーム情報誌 Game Informer も発行していましたが、2024年8月に廃刊となりました。ティッカーシンボルはGMEで、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場しています。
2021年のミーム株騒動、個人投資家がヘッジファンドを倒した伝説の事件
2021年1月、ゲームストップは突然、世界中のニュースを賑わせる存在になりました。米国のオンライン掲示板 Reddit のフォーラム WallStreetBets(WSB) に集まった個人投資家たちが、大手ヘッジファンドのゲームストップ株への空売りに対抗すべく一斉に買いを入れたのです。
当時、ゲームストップ株の空売り比率は発行済み株式数を超える100%以上という異常な状況でした。ヘッジファンドたちはこの会社はどうせ倒産するはずと踏んで大量の空売りを積み上げていましたが、それを察知したWSBのユーザーたちが一斉に買いを入れました。その結果、株価は年初の約17ドルから2021年1月28日には一時483ドルを超え、わずか数週間で20倍以上に急騰しました。
空売りを仕掛けていたヘッジファンド メルビン・キャピタルは1月だけで53%の損失を記録し、事実上の壊滅状態に追い込まれました。個人投資家がウォール街の巨大ヘッジファンドを打ち負かすという前代未聞の出来事として、映画化もされるほど世界的な話題となりました。
この騒動で広まった言葉がミーム株(Meme Stock)です。企業の業績や本来の価値とは関係なく、SNSや掲示板での注目度だけで株価が動く銘柄のことを指します。ゲームストップはミーム株の代名詞となりましたが、当時の熱狂で得た資金が後の再生に大きく貢献することになります。
ショートスクイーズ(踏み上げ)とは:
空売り(ショート)とは、株を借りて売り、後で安く買い戻して返すことで利益を得る手法です。しかし株価が上昇してしまうと、損失が膨らむ前に急いで買い戻さざるを得なくなります。この買い戻しが連鎖的に更なる株価上昇を引き起こす現象をショートスクイーズ(踏み上げ)と呼びます。ゲームストップ事件ではこのメカニズムが極端な形で発生しました。
ライアン・コーエン登場、改革者が舵を取るまで
ゲームストップの本当の意味での転換点は、ライアン・コーエン氏(Ryan Cohen)の登場です。彼はペット用品のオンライン通販 Chewy(チューイー) を創業し、2017年にペットスマートへ33.5億ドルで売却した実業家です。2020年秋にゲームストップ株を大量取得し、経営陣に対してデジタルシフトの遅さを激しく批判しました。
コーエン氏は2021年1月に取締役会に参加し、2021年6月に会長に就任。その後2023年9月には無給でCEOに就任するという異例の形で経営のトップに立ちました。彼が着手したのは徹底したコスト削減と不採算事業の切り捨てです。
フランス事業やカナダ事業の売却、NFTマーケットプレイスの閉鎖、スタッフの大幅削減、そして400店舗以上の閉店といった痛みを伴う構造改革を次々と断行しました。その結果、2025年2月期(FY2025)の通期営業利益は2億3,210万ドルの黒字に転換し、5期連続赤字だった時代に終止符を打ちました。さらに通期純利益は4億1,840万ドルと、前年の1億3,130万ドルから大幅に改善しました。
| 指標 | FY2024(2025年2月期) | FY2025(2026年1月期) |
|---|---|---|
| 純売上高 | 38.2億ドル | 36.3億ドル |
| 営業損益 | 2,620万ドルの損失 | 2億3,210万ドルの黒字 |
| 純利益 | 1億3,130万ドル | 4億1,840万ドル |
| 販管費 | 11億3,000万ドル | 9億1,020万ドル |
売上高は減少していますが、これは不採算店舗や事業の整理によるもので、むしろ意図的な縮小です。利益率は大幅に改善しており、コーエン流の筋肉質な経営が確実に機能していることがわかります。また株式の追加発行を3回繰り返し、合計34.5億ドルの資金を手元に積み上げることにも成功しました。
突然のビットコイン購入、ゲーム屋がなぜ暗号資産を
2025年3月、ゲームストップの取締役会はビットコインを財務準備資産として認める投資方針の改定を承認しました。そして2025年5月、SECへの提出書類で4,710ビットコインを約5億1,300万ドルで購入したことを開示し、市場に大きな衝撃を与えました。
ラスベガスで開催されたビットコイン会議で、コーエン氏は購入の理由をこう説明しました。ビットコインには発行上限2,100万枚という固定供給量があり、金のように採掘量が増える心配もない。世界的な通貨価値の下落や過剰なマネー印刷に対するヘッジとして最適だ、と。コーエン氏はゲームストップ独自の戦略に従っているのであって、他の誰かの真似をしているわけではないとも語っています。
この購入によりゲームストップは世界で14番目に多くのビットコインを保有する企業となりました。なおゲームストップは2026年1月時点で現金・有価証券など合計90億ドル超の強固な財務基盤を持っており、ビットコインはその一部に過ぎません。
マイクロストラテジーとの違い:
企業のビットコイン購入といえば、米ソフトウェア企業マイクロストラテジー(現・ストラテジー)が有名です。同社は事業収益よりもビットコイン購入を優先するビットコインカンパニー戦略を採用しています。一方ゲームストップはビットコインをあくまでインフレ対策のヘッジと位置づけており、後述のような大型買収に資金を振り向ける可能性も示唆しています。
2026年最新、eBay買収提案という驚天動地の一手
そして2026年5月3日、ゲームストップはさらに世界を驚かせる動きに出ました。電子商取引大手のeBayに対して、約556億ドル(約8兆円)規模の買収提案を正式に公表したのです。提案価格は1株125ドルで、現金と株式を半々で支払う案です。
ゲームストップの時価総額がeBayの数分の1しかないにもかかわらず、自分より大きな企業を飲み込もうとするこの提案は逆さ合併とも呼べる超大胆な試みです。コーエン氏はすでに2025年末からeBay株を密かに買い集めており、現在は約5%の株式を保有しています。TD証券からは200億ドルの融資コミットレターも取り付け済みです。
コーエン氏がこの買収を成功させた場合、どのような絵を描いているのでしょうか。彼はウォールストリートジャーナルの取材に対し、eBayはアマゾンの本当のライバルになれる企業だ、と語っています。Chewyを一から作り上げたEコマースの経験を活かし、eBayの組織を効率化しながら成長させる自信があるということです。成功した場合には1年以内に年間20億ドルのコスト削減を実現すると宣言しており、さらに希薄化後1株利益を4.26ドルから7.79ドルへ高めるシナリオも提示しています。
コーエン氏のCEO報酬パッケージも注目を集めています。ゲームストップの時価総額が1,000億ドルに達するなど一定の条件を満たした場合、彼は最大350億ドル相当の株式報酬を受け取れる契約になっています。eBayの買収成功はその条件達成に向けた最大の加速装置となり得ます。なおeBayはこの提案を受け取ったことを確認しており、取締役会で審査する方針を示しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提案金額 | 約556億ドル(1株125ドル) |
| 支払い方法 | 現金50% + ゲームストップ株50% |
| 調達済み融資 | TD証券から約200億ドルのコミットレター |
| 保有eBay株 | 約5%の経済的持分を事前取得 |
| コスト削減目標 | 統合から1年以内に年間20億ドル |
天才か、無謀か。ゲームストップの未来を読む
今回のeBay買収提案に対して、市場の反応は真っ二つです。eBay株はニュース後に約12%上昇し、ゲームストップ株も約4%上昇しました。一方で懐疑的な声も少なくありません。
ゲームストップ自身の時価総額はeBayの数分の一であり、200億ドルの融資だけでは資金ギャップを完全に埋められないこと、株式での支払いはゲームストップ株主への希薄化リスクを意味すること、規制当局による独占禁止法審査というハードルも残っています。コーエン氏自身も以前のインタビューで、これは天才的な行動か、それとも完全なる愚行かのどちらかになる、と述べていました。
著名な投資家でゲームストップに早くから注目していたマイケル・バーリー氏は、ライアンはレモンからレモネードを作っている。つまらないビジネスをうまく利用しながら、ミーム株現象を活用して資金を集め、本物の成長企業を買収する機会を待っているのだ、とコメントしています。
かつて消えゆく恐竜と呼ばれたゲーム小売りチェーンが、ビットコインを5億ドル購入し、世界的なEコマース企業の買収を仕掛ける企業に変身するとは、誰が予想したでしょうか。この物語がどう幕を閉じるのか、企業ドラマとして注目が集まっています。


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