ジョブズの魂を持つエンジニア、ジョン・ターナスがAppleを救えるか? 今後10年の株価予測

株式

2026年4月20日、ティム・クック氏がCEOを退任し、後任にジョン・ターナス氏が就任すると発表されました。

クック時代の14年間でAppleの時価総額は約20倍以上に膨れ上がり、4兆ドルという前人未到の水準に到達しました。それほどの巨大企業のトップが交代するとなれば、投資家として気になるのは当然、「これからApple株はどうなるのか?」という一点に尽きるでしょう。

ターナス新CEOの実力を徹底分析し、クック時代に積み上がった課題と照らし合わせながら、今後10年のApple株価を論理的に予測していきます。

ジョン・ターナスとは何者か? その異色の経歴と強み

ジョン・ターナス氏は1975年生まれの50歳です。ペンシルバニア大学で機械工学の学士号を取得し、在学中は水泳部の選手としても活躍しました。卒業後は仮想現実(VR)ヘッドセットの機械エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、2001年にAppleへ入社。以来、四半世紀にわたってAppleの製品開発の最前線を歩み続けてきた、生粋のAppleエンジニアです。

Appleのハードウェアエンジニアリング担当上級副社長として、iPhone、iPad、Mac、AirPods、そしてApple Vision Proに至るまで、あらゆるハードウェアの開発を統括してきました。彼の強みは本物の技術者であることに尽きます。ブルームバーグのマーク・ガーマン記者が長年のApple取材をもとに伝えたところによれば、ターナス氏はミーティングで細部の技術仕様にまで踏み込む徹底した技術志向を持つ人物です。

「クック氏は製品開発に参加しないが、ターナス氏は本物のエンジニアだ」と語った社内幹部の言葉が印象的です。また、ターナス氏は自らの口でこう語っています。「Appleの文化は、与えられた限界を超えようとするエンジニアを採用することで成り立っている」。この言葉は、スティーブ・ジョブズ氏が製品のアイコンひとつまでこだわり抜いた姿勢と、どこか重なって見えます。ジョブズ氏、クック氏、そしてターナス氏、この3人のAppleリーダーを並べると、それぞれの専門性が明確に異なることがわかります。

リーダー 在任期間 核心的な強み Apple株価変化
スティーブ・ジョブズ 1997年〜2011年 製品ビジョン、デザイン哲学、イノベーション 約100倍超
ティム・クック 2011年〜2026年 サプライチェーン、オペレーション効率、株主還元 約20倍超
ジョン・ターナス 2026年9月〜(予定) ハードウェアエンジニアリング、製品開発、技術志向 未知数

ティム・クックの真の遺産、柔軟に見えてきた限界

1998年にジョブズ氏がクック氏を招聘したのは、崩壊寸前だったAppleのサプライチェーンを立て直すためでした。クック氏は戦略的サプライヤーの数を100社から24社に絞り込み、倉庫の数もほぼ半減させました。

「在庫は根本的に悪だ」というクック氏の言葉が示すように、彼はジャストインタイム在庫管理を徹底し、在庫の回転率を数ヶ月単位から数日単位にまで圧縮しました。この卓越した物流の才能こそが、Appleを世界最高のサプライチェーンを持つ企業へと押し上げた原動力でした。

CEO就任後も、クック氏の経営手腕は財務面で輝かしい成果を上げ続けました。Appleのサービス部門の年間売上高は2015年の約200億ドルから2025年には1,090億ドルへと急成長し、過去10年間のAppleの売上増加分のほぼ50%をサービス部門一つで稼ぎ出しました。

App Store、iCloud、Apple Music、Apple Pay、Apple TV+…これら高収益のサブスクリプションサービスが積み重なり、不況や製品サイクルの波を超えた安定収益基盤が生まれたのです。しかし、クック時代に見過ごされた問題も確かに存在します。その最大のものがデザイン哲学の空洞化とAI戦略の致命的な遅れです。

ジョニー・アイブ退任後のデザイン迷走

2019年、Appleの魂とも呼ばれた伝説のデザイナー、ジョニー・アイブ氏が退任しました。iMac、iPod、iPhone、MacBook、Apple Watchなど、Appleを世界一のブランドへと押し上げたプロダクトデザインをほぼすべて手がけた人物です。

アイブ氏が去った後、彼のチームも次々とAppleを離れ、アイブ氏の後任となったエバンス・ハンキー氏でさえも2023年に退社しました。その影響は数字にも表れ始めています。

Apple Vision ProはAppleが長年かけて開発した次世代プロダクトでしたが、初代モデルは市場でフロップ(失敗作)と評価されました。Apple Carも開発中止となり、「ジョブズ以来の革命的な新製品カテゴリは15年以上生まれていない」という批判がくすぶり続けています。もちろん、アイブ氏の退任がすべての原因とは言い切れませんが、あれほど強烈な美意識とブランド人格を体現していた人物を失った代償は小さくありません。

AI競争での深刻な出遅れ

もう一つの致命傷がAIです。Appleの自社AI研究部門によれば、同社のAI技術は市場リーダーと比較して少なくとも2年半以上の遅れを取っています。ブルームバーグの報道によると、SiriはChatGPTと比べて精度で25%、応答速度で30%劣っています。

2024年のWWDCでApple Intelligenceを大々的に発表したものの、目玉機能のSiri強化は2026年まで繰り返し延期され、社内ではAI担当幹部が「醜くて恥ずかしい」と状況を認める発言まで飛び出しました。

アナリストのローラ・マーティン氏はCNBCでこう警告しました。「AndroidエコシステムにGeminiなどの最新AIがどんどん組み込まれていくと、iPhoneを買い替えるタイミングでAndroidに乗り換える人が増え始めるでしょう。そうなればAppleはインストールベースを失い始めます」。2025年のApple株はMagnificent 7の中でTeslaに次ぐ最悪のパフォーマンスを記録し、年間で約16%下落した事実は、この懸念が現実のものであることを示しています。

豆知識: Appleが遅れてきた勝者になった歴史
ティム・クック氏は2025年の全社集会でこう語りました。「Macの前にもPCはあった。iPhoneの前にもスマートフォンはあった。iPadの前にもタブレットはあった。iPodの前にもMP3プレーヤーはあった。Appleはいつも最初ではなかったが、最高のものを作ってきた」。AIでも同じ戦略が通用するかどうか、それがターナス新体制の最大の試練となります。

ターナス新体制が持つ3つの武器

1. ハードウェアの品質回帰とエンジニアリング文化の復活

ターナス氏の最大の強みは、クック氏が距離を置いていた製品の中身に深く関与できる点です。Mシリーズチップの開発も、AirPodsの設計も、MacBook Neoも、すべてターナス氏のチームが手がけてきました。

「顧客に届くものすべてに気を配るという姿勢はジョブズ氏に近い」とされており、エンジニアリング文化をCEOレベルから発信できることは、Appleにとって久しぶりの変化です。また、2026年後半から2027年初頭にかけて投入予定とされているAppleのスマートグラスは、ターナス体制最初の試金石となります。$M5$〜$M7$チップのロードマップと組み合わせることで、AIを現実空間に溶け込ませるウェアラブルの新カテゴリが誕生する可能性があります。

2. サービス収益という揺るぎない財務基盤

ターナス氏が引き継ぐAppleは、ある意味で最も安全なAppleです。iPhoneの顧客維持率は2025年に92%を記録し、世界で20億台を超えるアクティブデバイスから毎年1,000億ドル超のサービス収益が積み上がっていきます。

このエコシステムの壁は簡単には崩れません。App Storeのユーザーは週に8億5,000万人にのぼり、Apple Payは2025年に1,000億ドル超の取引を処理しました。顧客が一度Appleのエコシステムに入ると、スイッチコストが高くなりすぎて離脱しにくい構造が出来上がっています。

3. AIへの本気の取り組みと外部パートナーシップ

2025年末にAppleはAIリーダーシップを刷新し、GoogleのGemini技術を活用した新しいSiriの展開を発表しました。外部AIとの連携というプライドを捨てた決断は、遅ればせながら本気でAI競争に参戦する姿勢の表れです。

ターナス氏はハードウェアとソフトウェアの深い統合を得意とするため、AIをデバイスレベルで最適化するオンデバイスAI戦略においては、むしろGoogleやMicrosoftよりも強みを発揮できる可能性があります。

注目データ: Appleのエコシステム規模(2025年実績)
世界のアクティブデバイス台数 20億台以上 / iPhoneの顧客維持率 92% / サービス部門の年間売上 1,090億ドル / App Store週間ユーザー 8億5,000万人 / iPhoneの世界シェア 約20%。この規模が、他のどのテクノロジー企業も簡単には追いつけないAppleの堀を形成しています。

今後10年のApple株価

以上のリサーチと分析をもとに、2026年から2035年にかけてのApple株を3つのシナリオで考えてみましょう。

現在の株価は270ドル前後で推移しています(2026年4月時点)。ウォール街の77人のアナリストのコンセンサスでは、12ヶ月後の目標株価の中央値は300ドルで、買い推奨が29件と最多を占めます。

シナリオ 2027年末 2030年末 2035年末 実現条件
強気シナリオ $380〜$420 $520〜$600 $900〜$1,000 AIとスマートグラスが新成長柱に / Siri刷新が成功 / サービス収益が年率15%成長を維持
中立シナリオ $310〜$360 $400〜$500 $600〜$700 AI競争に乗り遅れるも撤退はなし / iPhone買い替えサイクルが安定 / サービス収益が着実に成長
弱気シナリオ $230〜$270 $270〜$330 $320〜$400 中国市場でのシェア喪失が加速 / AI機能の遅れが顧客離脱を招く / 次世代プロダクトカテゴリの失敗が続く

最も可能性が高いシナリオはどれか

それは、中立から強気の間です。その根拠は4点あります。第一に、Appleのエコシステムの堅牢さはそう簡単には揺らぎません。92%という異常なほど高い顧客維持率と、20億台超のアクティブデバイスから生まれる毎年1,000億ドルのサービス収益は、たとえAI競争で出遅れても会社の基盤を支え続けます。モーニングスターが「狭い堀」ではなく「広い堀」と評価するほどの競争優位性は、10年スケールで見ても容易に崩れるものではありません。

第二に、ターナス氏という人材が持つ技術的な深度は、Appleが久しく欠けていたハードウェアとソフトウェアの緊密な統合を再び実現する可能性を秘めています。オンデバイスAIの分野では、プライバシー重視という既存の強みと組み合わせることで、GoogleやMicrosoftとは異なるAI体験を提供できるかもしれません。

第三に、スマートグラスを筆頭とする次世代ウェアラブルが、15年ぶりの新カテゴリとなる現実的な期待があります。iPhone一強から脱却し、複数の成長エンジンを持つポートフォリオ型企業への転換ができれば、株価の評価も大きく変わるでしょう。

第四に、一方でリスクも無視できません。中国市場でのシェアは2025年に17%まで落ち込み(前年比10ポイント減)、Huaweiなど国内ブランドとの競争は激化の一途をたどっています。関税問題や規制リスク、そして38億ドルの罰金リスクも頭上にぶら下がっています。AIの遅れが2〜3年続けば、若い世代のユーザーがAndroidに傾く可能性は否定できません。

ターナスに問われるApple再起動の覚悟

ジョン・ターナス氏という新CEOは、過去のAppleリーダーとは一線を画す存在です。ジョブズ氏のような世界を変えるビジョナリーでもなく、クック氏のようなオペレーション界の天才でもありません。彼は「製品を本当に理解しているエンジニア上がりのCEO」という、Appleにとって初めてのリーダー像なのです。

15年以上にわたるiPhoneの成功に安住してきたAppleが、AIという新時代の荒波に対してどう舵を切るか。ターナス氏自身が手がけてきたAppleシリコンの技術力、そして2026年に登場するとされるスマートグラスが、その問いへの最初の答えを示すことになるでしょう。

強固なエコシステムと1,090億ドルのサービス収益という盤石な土台は変わりません。問題は、その上に次の10年の夢を描けるかどうかです。ターナス氏が本当にジョブズ氏の魂を受け継ぐエンジニアであれば、今から5年後のAppleは驚くほど違う顔をしているかもしれません。Apple株を保有・検討している方は、AIとスマートグラスの進捗を継続的にウォッチしていくことが、今後最も重要な判断材料になるはずです。

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