大和ハウス工業(1925)の株価が急落中。ホルムズ危機と大幅減益予想が招いた二重の打撃

大和ハウス 株式

2026年2月13日に年初来高値5,805円をつけた大和ハウス工業(証券コード:1925)の株価が、その後わずか3カ月で4,462円(2026年5月18日)まで下落しました。下落率は実に約23%です。日経225の採用銘柄であり、日本最大の総合住宅メーカーが、なぜこれほど短期間に売られたのでしょうか。

背景には2つの大きな出来事が重なっています。1つは中東情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡の封鎖と、建設資材の原料となるナフサの供給危機。もう1つは2026年5月13日に発表された2027年3月期の大幅減益予想です。

株価の推移 — 高値から一転、23%超の急落

大和ハウス工業の株価は2026年初から2月にかけて好業績期待を背景に上昇し、2月13日に5,805円の年初来高値をつけました。しかし2月末のホルムズ海峡封鎖報道以降、売りが優勢となり、5月の決算発表後にさらに下落が加速しました。

時期 主なイベント 株価水準
2026年2月13日 年初来高値 5,805円
2026年2月末 米・イスラエルがイランを攻撃、ホルムズ海峡封鎖が現実化 下落開始
2026年3月 建設資材・住宅設備メーカーが値上げ・受注制限を発表 続落
2026年5月13日 2026年3月期決算発表 — 過去最高益も来期は大幅減益予想 急落が加速
2026年5月18日 年初来安値 4,462円

PBR(株価純資産倍率)は0.97倍と1倍を割り込む水準まで低下しており、会社の解散価値を下回る計算です。割安感が出てきた一方で、業績見通しの悪化がそれを打ち消しています。

急落のきっかけ1 — ホルムズ海峡封鎖とナフサショック

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの大規模攻撃を開始したことを受け、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖する状態となりました。日本が輸入する原油の約90%はこの海峡を通過しており、住宅建材の基礎原料であるナフサの供給が急激に細ることになりました。

3月下旬以降、建材メーカーや住宅設備メーカーによる値上げ・受注制限・出荷停止のアナウンスが相次ぎました。TOTOはユニットバスの新規受注を一時停止し、LIXILはユニットバスの注文を受け付けながらも納期を示せない状態に陥りました。断熱材メーカーのカネカは価格を40%引き上げ、積水化学工業も塩化ビニール管などの価格改定を決めました。シンナーはイラン攻撃前と比べ価格が2倍近くに上昇したとの報告もあります。

ナフサとは何か:

ナフサ(粗製ガソリン)は原油を精製する過程で得られる液状の化学原料です。断熱材・塗料・接着剤・塩ビ管・壁紙クロス・ユニットバスの樹脂部品など、現代の住宅を構成するほぼすべての石油化学製品の出発点となります。ガソリンや軽油のような燃料とは異なり、国家備蓄制度の対象外のため民間在庫は約20日分しかなく、今回のホルムズ海峡危機で真っ先に供給難に陥りました。

急落のきっかけ2 — 住宅引き渡し延期という前例のない事態

2026年5月18日の決算説明会で、大友浩嗣社長は7月以降の住宅受注について重大な方針を明らかにしました。住宅設備機器の納期が見通せないため、新規契約の際に引き渡し時期が延びる可能性を顧客に説明していくという内容です。社長は記者会見で、6月くらいまでは納期は見えているが7月以降はメーカーから回答がもらえないとも述べています。

住宅の引き渡し遅延は、単なる顧客満足度の問題に留まりません。完成引き渡しのタイミングで売上計上する会計上の慣行から、工期が遅れると本来その期に計上されるはずだった売上と利益が翌期以降にずれ込みます。これは財務的に直接的な打撃です。

過去最高益の直後に来た大幅減益予想

2026年3月期(2026年5月13日発表)の業績は、まさに絶好調でした。経常利益は前期比10.9%増の5,719億円と過去最高を更新し、4Qの経常利益は前年同期比34.7%増と急伸しました。それにもかかわらず、2027年3月期の予想は全利益段階で大幅な減少が見込まれています。

指標 2026年3月期(実績) 2027年3月期(予想) 増減率
売上高 約5兆5,800億円 5兆8,000億円 +4.0%
営業利益 約6,150億円 4,000億円 -34.9%
経常利益 5,719億円 3,420億円 -40.2%
純利益 約3,500億円 2,270億円 -35.2%

会社側は中東情勢の影響として、営業利益に1,000億円の下押し要因、売上高に3,000億円の下押し要因を織り込んでいます。とくに打撃が大きいのが戸建て住宅事業で、2027年3月期の事業営業利益は前期比68.5%減の490億円という厳しい見通しです。

一方、業績が大幅に悪化する理由は中東情勢だけに限りません。2026年3月期の純利益には退職給付の数理計算上の差異に伴う一時的な利益が含まれており、その剥落(はくらく)分も翌期の減益要因となっています。また、前期に米国でデータセンター用地を売却した特別利益の反動も影響します。

退職給付の数理差異とは:

企業が従業員に支払う退職金の積立額と、実際の運用成果や将来の支払い見通しの差異を会計上、毎期少しずつ利益または損失として処理する仕組みです。大和ハウス工業の場合、2026年3月期はこの差異の償却が利益をかさ上げする効果がありましたが、2027年3月期はその恩恵が消えます。一時的な要因ということを理解したうえで、純利益の変動を読む必要があります。

今後の株価を左右する3つのポイント

ホルムズ海峡情勢の緩和

米国とイランは2026年4月8日に2週間の停戦に合意しましたが、その後も交渉は難航しており、原油供給を巡る緊張は続いています。旭化成の社長はナフサ調達は6月中旬から下旬まで一定の見通しが立ったと述べており、夏以降の見通しは不透明なままです。情勢が緩和に向かうかどうかが、大和ハウスの業績修正と株価回復の最大の鍵を握っています。

9月末の株式分割

2026年5月13日に株式分割の実施が発表されました。9月30日割り当てで実施されます。株式分割は1株あたりの購入単価を引き下げ、投資家層の裾野を広げる効果があります。分割後の値動きについても、個人投資家の注目が高まりやすい局面です。

PBR1倍割れという水準

現在の株価水準(4,544円、2026年5月19日時点)ではPBRが0.97倍と1倍を割っています。これは理論上、株価が会社の純資産価値を下回っていることを意味します。東証が低PBR改善を上場企業に求めている流れの中で、自社株買いや増配といった株主還元策が打ち出されると、下値を支える材料になり得ます。なお年間配当は2027年3月期も131円(株式分割考慮後の実質ベースで増配)が計画されています。

リスクは明確、回復の鍵は地政学次第

大和ハウス工業の株価急落は、中東情勢という企業努力では制御できない外部リスクと、過去最高益の反動という会計上の一時要因が重なったことによるものです。

事業の本質的な競争力(物流・データセンターの事業施設事業は来期も増益維持予想)や財務体力は損なわれていませんが、住宅事業の大幅減益と引き渡し遅延リスクは無視できません。

今後の株価回復には、ホルムズ海峡情勢の緩和と住宅設備の供給正常化が不可欠です。情勢が落ち着いた際に業績下振れ懸念が後退すれば、PBR1倍割れという水準はバリュー投資家にとって注目しやすい局面になると言えます。

 

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