ラクスは好業績なのになぜ冴えないのか?利益が売上の倍速で伸びる成長株の意外な読み方

ラクス 株式

楽楽精算のテレビCMで名前を知った方も多いであろう、ラクス、証券コード3923。決算を見れば利益は売上の倍以上のペースで急増し、財務も株主還元も優秀です。予想PERは13倍台と、成長株としてはむしろ割安に見えるほどです。それなのに株価は1株あたり1,000円に届かない水準で、長く伸び悩んできました。

なぜこれほど好業績なのに株価は冴えないのでしょうか。そして、その割安に見えるPERには、初心者ほど見落としがちなカラクリが隠れています。この記事で、数字の裏側までやさしく解き明かしていきます。

ラクスはどんな会社なのか まずは事業をやさしく整理

ラクスは、中小企業向けのクラウドサービスを得意とする会社です。

主力は、経費精算をデジタル化する楽楽精算です。ほかにも、請求書を電子で発行する楽楽明細、勤怠を管理する楽楽勤怠など、会社の事務作業を楽にする楽楽シリーズを展開しています。

これらは毎月利用料が入り続けるサブスク型のため、いったん導入されると収益が積み上がっていくのが大きな強みです。解約率が低く、楽楽精算は経費精算システムの分野で導入社数シェア1位を誇ります。

もう一つ、創業時から続けてきたIT人材事業もありました。エンジニアを企業へ派遣する事業ですが、ここは後ほど重要な論点として登場します。

豆知識 サブスク型ビジネスの強み:

毎月決まった料金が入るサブスク型は、積み上げた契約がそのまま翌期の売上の土台になります。解約が少なければ、新規契約を取るほど収益が雪だるま式に増えていく構造です。

業績は絶好調 利益が売上の2倍速で伸びている

まず押さえたいのは、ラクスの業績が極めて好調だという事実です。

2026年3月期は、売上高が約600億円で前期比22.7%増となりました。注目すべきは利益の伸びです。本業の儲けを示す営業利益は173億円で前期比70.2%増、経常利益は174億円で前期比70.7%増と、利益が売上をはるかに上回るペースで拡大しました。

収益性も際立っており、自己資本に対してどれだけ稼いだかを示すROEは45%を超える高水準です。配当も14期連続で増やすなど、株主還元の姿勢も一貫しています。

項目 2026年3月期の実績
売上高 約600億円(前期比22.7%増)
営業利益 173億円(前期比70.2%増)
経常利益 174億円(前期比70.7%増)
ROE 45%超

なぜ利益だけ大きく伸びるのか 広告費のアクセル調整

売上が2割増なのに、利益は7割増。この差はどこから生まれるのでしょうか。

カギは広告宣伝費にあります。サブスク型のビジネスは、先にお金をかけて顧客を集め、あとから毎月の利用料で回収していくのが基本です。ラクスもこれまで、大量のテレビCMなどで楽楽精算の認知を一気に広げてきました。

その広告費を、効率の良い媒体へ切り替えて最適化したのが近年の動きです。売上が伸びる一方で広告費の伸びを抑えたため、増収分の多くがそのまま利益に変わりました。これは固定費を売上の拡大で薄めていく営業レバレッジと呼ばれる現象で、サブスク企業が利益を一気に伸ばす典型的なパターンです。

それでも株価が伸びない理由 SaaSの死と呼ばれた評価の逆風

業績がこれほど良いのに、なぜ株価は冴えないのでしょうか。

背景には、市場の期待度を示すPER、つまり利益に対して投資家が払う倍率の低下があります。ラクスはかつて、将来の高成長を一身に期待され、PERが100倍を超える人気成長株でした。

ところが世界的に金利が上がる局面で、高い期待だけで買われていたクラウド系の銘柄はそろって評価を下げました。一部のメディアがSaaSの死と表現したほど、高成長への期待そのものがしぼんでいったのです。

その結果、利益が増え続けても、PERの低下がそれを相殺し、株価は重い値動きが続きました。なお2025年10月に1株を2株にする株式分割を行っており、現在の株価は1株あたり約965円です。分割により1株の単価が下がっている点も覚えておくと混乱しません。

PER13倍台は割安なのか 見逃せない一過性の利益

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

ラクスの予想PERは足元で13.6倍ほどです。100倍を超えていた過去を思えば、驚くほど割安に見えます。実際、2027年3月期の会社予想では、当期純利益が前期比89.6%増の252億円と大きく伸びる計画です。利益が増えるのにPERは低い、これは一見すると絶好の買い場に思えます。

しかし、ここに落とし穴があります。この純利益の急増には、一過性の利益が含まれているのです。

ラクスは2026年4月1日に、創業以来の祖業であるIT人材事業のラクスパートナーズを売却しました。会社を一つ手放すと、その売却によるまとまった利益が一度だけ計上されます。2027年3月期の純利益が大きく膨らむのは、この売却益が乗っているためです。

つまり、純利益をもとに計算した13倍台というPERは、本業の実力以上に割安へ見えているわけです。本業の稼ぐ力を見るなら、売却益の影響を受けにくい営業利益が役立ちます。同じ2027年3月期の営業利益予想は18.2%増で、こちらが本業の地力を映した数字といえます。

項目 2027年3月期の会社予想
売上高 597億円(前期比1.0%減)
営業利益 205億円(前期比18.2%増)
経常利益 205億円(前期比17.5%増)
当期純利益 252億円(前期比89.6%増)

ちなみに売上高が1.0%減となるのも、心配は要りません。これは売却したIT人材事業の売上が連結から除かれるための見かけ上の減少にすぎず、主力のクラウド事業そのものは力強く伸び続けています。アナリストの目標株価は1,000円から1,300円程度に置かれ、評価は中立から強気に分かれています。

祖業を手放してまでクラウドに賭ける理由

創業の原点であるIT人材事業を売却するのは、勇気のいる決断です。なぜラクスはそこまで踏み込んだのでしょうか。

理由は、経営資源を採算性の高いクラウド事業へ集中させるためです。エンジニア派遣は堅調だったものの、クラウド事業との相乗効果は薄れていました。利益率の高いサブスク事業に人もお金も振り向けたほうが、企業価値の向上につながると判断したわけです。

豆知識 ルール・オブ・フォーティ:

サブスク企業の健全さを測る目安に、ルール・オブ・フォーティという考え方があります。売上の成長率と営業利益率を足して40%を超えると優良とされる指標で、ラクスは成長と利益率の両立を強く意識した経営に舵を切っています。

個人投資家がここから学べること

ラクスの事例は、決算の数字を読むうえで大切な視点を教えてくれます。

第一に、利益の伸びには本業の力によるものと、資産売却などの一過性によるものがあるという点です。純利益だけを見て割安だと飛びつくと、一過性の利益にだまされることがあります。

第二に、本業の実力を測るなら営業利益や経常利益が頼りになるという点です。一過性の要素が混じりにくいため、地力を冷静に確認できます。

第三に、かつて高すぎたPERが普通の水準まで落ち着いた成長株は、業績が伸び続ければ報われる場面が訪れやすいという点です。期待がしぼみきったあとこそ、本当の妙味が生まれます。

まとめ 数字の中身まで見て初めて見えてくる

ラクスは、広告費の最適化とサブスクの営業レバレッジで利益を一気に伸ばし、さらに祖業を売却してクラウド事業へ集中する、攻めの転換期にいます。業績は文句なしに好調です。

一方で、割安に見える予想PERには売却益という一過性の利益が含まれており、その点を理解せずに数字を鵜呑みにすると判断を誤りかねません。本業の力は営業利益で確かめる、この一手間が投資の精度を大きく高めてくれます。

気になる銘柄に出会ったら、利益の伸びが本業由来なのか一過性なのかを、ぜひ自分の目で確かめてみてください。その視点こそが、なるほどと膝を打つ発見への近道になります。

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