27%減益予想でも大塚HD株が高値圏、上昇の理由は10年前の教訓

大塚hd 株式

ポカリスエットやカロリーメイトで知られる大塚ホールディングス(4578)ですが、売上の過半を医薬品が稼ぐ製薬大手でもあります。その株価が、2026年1月6日の年初来安値8,671円から、5月21日には10年来高値の11,910円へ駆け上がりました。

7月中旬でも11,000円前後を保ち、高値圏で推移しています。ところが会社自身は、2026年12月期の純利益が前期比27%減の2,650億円に落ち込むと見込んでいます。利益が減る予想なのに、株価はなぜ上を向くのか。市場が今期の数字ではなく、その先に控える新薬を織り込み始めたからです。減益と株高が同居するこの現象を、3つの材料に分けてほどいていきます。

株価はどこまで上がったのか、数字で並べる

最初に、値動きの大きさを数字で押さえておきましょう。1月の安値から5月の高値まで、上昇率はおよそ37%に達しました。そこから小幅に調整し、7月中旬は11,000円前後です。時価総額は約5.9兆円に膨らみ、東証プライムの医薬品セクターでも上位の規模に入りました。

項目 数値
年初来安値(2026/1/6) 8,671円
10年来高値(2026/5/21) 11,910円
直近株価(7月中旬) 約11,000円
安値からの上昇率 約37%
時価総額 約5.9兆円
PBR(実績) 1.85倍
アナリスト平均目標株価(6/29時点) 12,900円

アナリストの評価も強気です。6月29日時点で12人中、強気買いが7人、買いが3人、中立が2人で、売りはゼロでした。平均目標株価は12,900円と、直近株価から2割近い上値を見込む水準になっています。7月13日には、目標株価を引き上げる格好のレーティング更新も出ました。

減益予想の正体は、ジンアークの特許切れ

上昇の話へ入る前に、なぜ会社が減益を見込むのかを片づけておきます。原因はほぼ一つで、腎臓病治療薬ジンアーク(一般名トルバプタン)の特許切れです。ジンアークは利益率の高い主力薬で、2026年から後発医薬品(ジェネリック)が市場を侵食し始めました。値段の安い後発品へ処方が移ると、売上も利益も目減りしていきます。レキサルティなど他の薬が伸びても、この穴をすべては埋めきれません。

2025年12月期(実績) 金額 前期比
売上収益 2兆4,688億円 +6.0%
営業利益 4,793億円 +48.2%
当期利益 3,631億円 +5.8%
2026年12月期の純利益 金額
会社予想 2,650億円(前期比-27.0%)
市場予想平均(QUICKコンセンサス) 2,925億円
会社予想と市場予想の関係 会社予想が市場予想を下回る

この減益予想が出た2月13日の決算発表では、会社予想が市場平均の2,925億円を下回りました。普通なら失望売りが出やすい場面です。それでも株価がその後に高値まで伸びたのは、投資家が減益の中身をあらかじめ知っていたからでした。ジンアークの特許切れは何年も前から見えていた予定表で、株価にはすでに織り込まれていたのです。

特許の崖(パテントクリフ)とは:

新薬には一定期間、特許で守られて独占的に売れる時期があります。その期間が切れると、同じ成分の後発品が一気に安く出回り、売上は崖から落ちるように急減するのです。この現象をパテントクリフと呼びます。利益率の高い薬ほど落差が大きく、特許切れの前に次の稼ぎ頭を育てられるかどうかで、製薬会社の明暗が分かれます。

ADPKDとジンアーク:

ジンアークが治すADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)は、腎臓に多数の嚢胞ができて機能が落ちていく遺伝性の病気です。国の指定難病で、国内の患者数はおよそ3万人規模とされています。米国ではジンアーク、日本ではサムスカという名前で展開されてきました。利益率の高い薬だったため、後発品の影響が利益にそのまま響いてきます。

上がる理由その1、IgA腎症の新薬ボイザクト

ここからが株高の主役です。大塚が2026年7月2日の取引開始前に出した発表が、当日の株価を一時7.6%押し上げました。IgA腎症という別の腎臓病を治す新薬ボイザクト(一般名シベプレンリマブ)の、最終段階の試験結果が良好だったという内容でした。この一報で株価は前日比815円高の11,480円をつけています。

ボイザクトは、腎臓病の分野でジンアークの後を継ぐ候補です。特許切れで抜ける古い腎臓病薬の穴を、新しい腎臓病薬で埋め直す構図になりました。同じ腎臓の領域で世代交代を進められる点が、この銘柄の分かりやすい強みです。

承認の歩みも速いです。米国FDAは2025年11月25日、ボイザクトをIgA腎症の成人向けに迅速承認しました。そして2026年7月2日、24カ月間の追跡でも腎機能の低下を抑えたという第3相試験の全データが揃い、正式承認へ向けた追加申請の節目を通過しています。自宅で4週間に1回、自分で皮下注射できる手軽さも持ち味になりました。

IgA腎症は、これまで根本から進行を止める薬が乏しかった領域です。そこへ世界で初めて狙いを定めた薬が出たため、成長の伸びしろを大きく見る投資家が集まりました。新薬づくりの動きはボイザクトにとどまりません。7月8日には、大塚製薬の英国子会社が乳がん薬の開発をめぐって米国企業と提携し、一時金40億円を受け取ったと伝わりました。腎臓と精神・神経に続く、がん領域の種まきです。

IgA腎症とAPRIL抗体:

IgA腎症は、免疫の異常で腎臓に炎症が起き、放置すると人工透析に至ることもある病気です。国内の患者は数万人規模とされ、若い世代の発症も見られます。ボイザクトは、病気の引き金になるAPRILというタンパク質の働きを選んで止める世界初の薬です。この仕組みは、大塚が買収した米ビステラ社が生み出しました。

理由その2、レキサルティと持続性注射剤の伸び

主力の抗精神病薬レキサルティ(一般名ブレクスピプラゾール)も伸びています。米国と日本で処方が広がり、うつ病や統合失調症に加え、アルツハイマー型認知症に伴う興奮への使用が売上を押し上げました。特許で守られる期間がまだ残っており、当面の稼ぎ頭です。

注射で効き目が長く続くタイプへの切り替えも進んでいます。エビリファイの2カ月に1回打つ製剤が米国と欧州で広がり、飲み薬から注射への移行が数量を支えました。飲み忘れが減る分、患者にも医療現場にも利点があるのです。

実際、足元の数字は会社予想より強く出ました。2026年12月期第1四半期(1月から3月)の純利益は、前年同期比15.7%増の983億円です。上期計画に対する進捗率は76.8%に達し、過去5年平均の52.6%を大きく上回りました。年間で27%減という会社予想が、やや慎重すぎる可能性を示す数字になっています。

薬以外の事業も足を引っ張っていません。ポカリスエットやカロリーメイトを抱えるニュートラシューティカルズ事業は、国内外の販売が伸び、第1四半期の増収増益を医薬品と両輪で支えました。医薬品だけに頼りきらない収益構造が、業績の振れをやわらげているのです。

理由その3、500億円の自社株買いと増配

株主還元の強化も買い材料になりました。会社は2月13日、最大500億円で700万株を上限とする自社株買いを発表しました。これは発行済み株式の約1.33%にあたります。取得期間は6月16日から12月23日までの予定です。

配当も増やしました。1株あたりの年間配当を前期の90円から95円へ引き上げる方針で、配当性向は58.9%になる見込みです。自社株買いと増配が重なると、1株あたりの価値が底上げされ、株価の下支えにもつながります。

減益なのに還元を増やす理由:

利益が減る年に還元を厚くするのは、一見ちぐはぐに見えます。会社側は、足元の業績が堅調で、成長を担う新薬の開発が順調に進んでいることを理由に挙げました。目先の減益が一過性で、その先の回復に自信があるという経営陣のサインとして読み取れます。

大塚が繰り返さないと決めた、10年前の失敗

この銘柄の面白さは、経営陣が過去の痛手を今も強く意識しているところです。大塚には、10年前に主力薬の特許切れで利益を大きく削られた記憶が残っています。かつての大黒柱だった抗精神病薬エビリファイは、2015年に米国で特許の独占期間を終え、後発品の流入で収益が急減しました。次の柱を十分に育てる前に崖が来たため、業績は数年にわたって伸び悩んだのです。

今回のジンアークの特許切れは、その再来になりかねない局面です。ちがうのは、大塚が今度は崖の手前で受け皿を並べておいたことでした。ボイザクト、レキサルティ、長く効く注射剤という次世代の柱を、特許切れが本格化する前に立ち上げました。日本経済新聞も、大塚が10年前の轍を踏まないよう新薬を続々と準備していると報じています。

市場が評価しているのは、まさにこの準備の差です。減益という数字そのものより、崖の先に成長の道筋が見えるかどうかを、投資家は値段へ映しました。だからこそ、27%の減益予想と10年来高値が同じ年に両立したのです。

投資家がここから見るべき数字

最後に、この先を追うときの具体的なチェック点を挙げておきます。株価が高値圏にある今は、材料の進み方を数字で確かめる姿勢が役に立つはずです。

チェック項目 見るポイント
ボイザクトの正式承認 迅速承認から正式承認へ切り替わる時期と、対象患者の広がり
ジンアークの侵食ペース 後発品でどれだけ売上が減るか、四半期ごとの実額
次の上期決算 進捗率76.8%の勢いが続くか、通期予想が上方修正されるか
バリュエーション PBR1.85倍と平均目標12,900円の差が、どこまで妥当か

増益の基調が続き、会社予想の上方修正が出れば、減益という前提そのものが崩れ、株価の上値余地が広がります。逆に、ジンアークの落ち込みが想定より速い、あるいはボイザクトの正式承認が遅れる展開になれば、高値圏の株価は調整しやすくなります。強気のアナリスト予想がすでに株価へ入っている分、次の決算での上振れと下振れが、当面の方向を決める分岐点になりました。

高値圏で新しく買うなら、次の上期決算を確かめてからでも遅くありません。すでに保有しているなら、ジンアークの減少額とボイザクトの承認の進み具合という2つの数字を、四半期ごとに追う価値があります。

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