世界三大投資家の最新作を読んでみた、ジム・ロジャーズ「世界大激変」レビュー

世界大激変 混乱する世界をどう読むか 【本】

「次の暴落は、私が知る限り史上最悪になる。」こんなフレーズを冒頭に置かれたら、否が応でも続きを読みたくなってしまいます。

世界三大投資家のひとりとして知られるジム・ロジャーズが、2025年8月に最新刊「世界大激変 混乱する世界をどう読むか」(東洋経済新報社)を刊行しました。トランプ関税、米中対立、円安・インフレと、まさに今の世界情勢にど真ん中から切り込んだ一冊です。

読み終えた正直な感想は、「膝を打つほど納得できる部分」と「それはちょっと違うのでは?」という部分が混在していました。今回はそのリアルな読後感をお伝えします。

ジム・ロジャーズとはどんな人物か

まず著者について簡単に触れておきましょう。ジム・ロジャーズは1942年、米国アラバマ州生まれの投資家です。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修め、その後ウォール街へ。かのジョージ・ソロスとともにクォンタム・ファンドを設立し、10年間でなんと4200パーセントという驚異的なリターンを叩き出しました。37歳という若さで引退し、現在はシンガポールを拠点に活動しています。

ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並んで「世界三大投資家」と称されるこの人物は、日本でも「捨てられる日本」「危機の時代」「世界大異変」など数多くの著作を出しており、日本の読者にも馴染みが深い存在です。本書は2020年、2022年に続く3度目のロングインタビューを書籍化したもので、今回はなんと10時間を超えるインタビューを基にしているといいます。

ジム・ロジャーズ略歴:

1942年生まれ。イェール大学・オックスフォード大学卒業後、ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立。10年間で約4200パーセントのリターンを達成。37歳で引退後はコロンビア大学で金融論を指導。2007年よりシンガポールに移住。世界三大投資家のひとりとして知られる。

本書の構成と主なテーマ

本書は全4章で構成されており、世界の政治・経済情勢から投資戦略、日本人向けの資産防衛術まで幅広くカバーしています。

章 テーマ 主な内容
第1章 株式市場の終焉 史上最長の上昇相場が終わり、コモディティの時代が始まる
第2章 次なる投資先 国際秩序の変動で注目される新興国(ウズベキスタン・サウジアラビア)
第3章 日本人への警告 円安・インフレ時代に日本人はどう行動すべきか
第4章 投資哲学 自分の頭で考え、自分のスタイルを確立せよ

読んでよかった点は、歴史を軸にした大局観が光る

この本の最大の魅力は、経済を「歴史のパターン」として読み解く視点の鋭さです。ロジャーズは現在のトランプ関税政策を、1930年代の保護主義台頭と重ね合わせて解説します。当時、主要国が関税を強化した結果、世界の貿易量は最大で7割近くも縮小し、それが第二次世界大戦の遠因のひとつになったという歴史的事実を根拠に、現在の保護主義の危険性を指摘しています。

単に「関税は悪い」と主張するのではなく、歴史的な文脈でその意味を説明してくれるので、読んでいて非常に説得力があります。ここがロジャーズの他の評論家とは一線を画す部分で、哲学と歴史学のバックグラウンドが如実に現れていると感じました。

また、「コモディティ(商品)の時代が来る」という主張も昔から変わらないです。20代のころはピンと来ませんでしたが、2026年になりようやくそうだったかと思っています。もっと早く値動きがあると良いのですが、そうはいかないですね。
株式と商品は逆相関の関係にあり、長く続いた株式上昇の時代が終わると、次は原油・金・銀・穀物などのコモディティが主役になるというロジックです。実際にロジャーズ自身が原油、天然ガス、金、銀、銅、リチウム、穀物などに長期投資を続けてきたというのも、単なる評論家ではなく実際に資産を張っている人間の発言として重みがあります。

日本についての分析も鋭くて、読んでいてドキリとさせられます。アベノミクスから10年以上が経過した現在、円安と物価高が進み、日本人の実質的な生活水準が下がっているという指摘は、データに基づいた冷静な観察です。「日本が大好きだ」と言いつつも厳しい現実を突きつけてくるあたりが、ロジャーズらしい誠実さだと思います。

豆知識:コモディティ・スーパーサイクルとは?

コモディティ(原油・金属・穀物など)の価格が長期にわたって上昇するサイクルのことです。過去には1970年代と2000年代初頭に起こったとされており、今回ロジャーズはトランプ関税によるサプライチェーン混乱やインフレ基調を根拠に、第三の到来を予測しています。

正直に言うと納得しきれなかった点

一方で、全面的に賛同できるかというと、そうでもありません。正直な感想をいくつか書いておきます。

「暴落は史上最悪になる」という繰り返しに慣れてきた

ロジャーズが「次の危機は史上最悪になる」という趣旨の発言をするのは、実は今回が初めてではありません。2020年の著作でも同様の警告を発しており、その後も繰り返しこのフレーズが登場します。もちろん「いつか必ず来る」という意味では正しいのですが、毎回同じ調子で「史上最悪」を繰り返されると、読者としては少し免疫ができてしまいます。危機感を煽ることが目的ではないと思いますが、「またか」と感じた読者は少なくないでしょう。

中国・ロシアへの楽観的な見方

本書では、中国がロシアと組んで強固なエネルギー安全保障を実現するという見立てが示されています。この主張はロジャーズが長年一貫して持ち続けている中国・アジアへの強気な姿勢の延長線上にありますが、現実の中国経済の減速、不動産不況、若年失業率の高止まりといった問題を考えると、少し楽観的すぎないかと感じます。もちろん長期的な視点で見れば中国・ロシア連携の地政学的影響力は無視できませんが、短中期的なリスクをもう少し丁寧に掘り下げてほしかったというのが本音です。

ウズベキスタンとサウジアラビアへの投資推奨

次の投資先としてウズベキスタンとサウジアラビアが挙げられていますが、これを実際に実行できる日本の個人投資家がどれほどいるのでしょうか。ウズベキスタン市場に直接アクセスできる金融商品は日本ではほぼ皆無に等しいのが現状です。
「そういう目線で世界を見ろ」というメッセージとして受け取れば意味はあるのですが、具体的な実践方法への言及が薄いため、日本の一般読者にとっては「知識として面白い話」で終わってしまう恐れがあります。

インタビュー形式ゆえの深みの不足

本書はロングインタビューを書籍化したものなので、ひとつのテーマを深く掘り下げるというよりは、多くのテーマを広く浅くカバーする構成になっています。全138ページというコンパクトな分量もあって、個々のテーマについては「もっと詳しく読みたい」と感じる部分がいくつかありました。

参考情報:ロジャーズの過去の主な予測:

2008年のリーマンショック前から米国住宅バブル崩壊を警告、2019年には「2020年にも未曾有の危機が来る」と予言(コロナショックとして的中)するなど、大局観での予測には実績があります。一方で「中国の世紀が来る」という長年の主張は、現在も評価が分かれています。

それでも読む価値があると思える理由

批判的な視点も書きましたが、総じてこの本は読んで損はないと感じています。その理由のひとつは、当たり外れを認識して「自分の頭で考えることの重要性」という本書の核心メッセージです。ロジャーズ自身が、他人のアドバイスに従って投資した場合にほぼ損をしてきたと率直に認めています。つまり彼が勧めるのは、「私の言う通りにしろ」ということではなく、「歴史を学び、自分の目で世界を見て、自分で判断しろ」ということなのです。

この姿勢は一貫していて、投資初心者から経験者まで、改めて考えさせられます。毎日ニュースを自分なりに解釈する習慣、歴史的なパターンと現在を照らし合わせる思考法、そして「大多数が信じているときこそ疑え」というコントラリアン(逆張り)の哲学は、読んだ後で確実に世界の見方が少し変わります。

「私はみんなが嫌いなものが好き」という言葉が、私も好きかもしれません。

また1650円という価格で、世界三大投資家が10時間語った内容のエッセンスを手に入れられると考えれば、コストパフォーマンスはかなり高いと思います。全部に賛同する必要はありません。気になる主張に対して「本当にそうか?」と自分なりに検証してみることも、本書の楽しみ方のひとつです。

こんな人に特におすすめ

経済ニュースを毎日見ているけれど、どう解釈すればいいかわからないと感じている人にはとてもおすすめです。トランプ関税や円安のニュースが「点」として頭に入っている状態から、歴史という「線」でつながった理解に変わる体験ができます。また投資に興味を持ち始めた人が「そもそも世界経済はどう動いているのか」を学ぶ入り口としても適しています。

一方で、ロジャーズの著作を何冊も読んできたヘビーファンには、目新しい内容は少ないかもしれません。同じ主張が繰り返されている部分も多く、「新しいロジャーズの視点」を期待して手に取ると物足りなさを感じる可能性があります。

賛成も批判も込みで、今の時代を考えるきっかけになる一冊

「世界大激変」は、全てを鵜呑みにするのではなく、批判的に読むことでより深く楽しめる本です。ロジャーズの歴史観に基づく大局的な視点は確かに価値があり、特にトランプ政権以降の世界秩序の変容について整理されたフレームワークを提供してくれます。一方で、一部の予測については楽観的すぎる面や、具体性が不足している面も否定できません。

大切なのは、権威ある投資家が言ったからといってそのまま信じるのではなく、書かれていることを出発点に自分で調べ、考える姿勢を持つことではないでしょうか。それこそが実はロジャーズ自身が本書を通じて伝えたいメッセージでもあると、読み終えて感じました。混乱する世界をどう読むかは、最終的には自分自身の問いに帰ってきます。

評価項目 評価 コメント
歴史的・大局的な視点 ★★★★★ 他の経済本にはない深みがある
読みやすさ ★★★★☆ インタビュー形式で入りやすい
具体的な投資情報 ★★☆☆☆ 日本の個人投資家には実践しにくい部分も
コストパフォーマンス ★★★★☆ 1650円でこの情報密度は高い
総合評価 ★★★★☆ 批判的に読むと一層価値が上がる一冊

コメント

タイトルとURLをコピーしました