2026年4月9日に3,040円の年初来高値をつけたグリムス(3150)は、その後およそ2カ月にわたり下げ続け、6月1日には2,320円の年初来安値まで沈みました。下落率は約24%に達します。
一方で、5月15日に発表した2026年3月期決算は営業利益71.52億円と過去最高を更新し、年間配当も前期比6円増の85円へ引き上げました。日経平均が6万円台の史上最高値圏で推移するなかで、過去最高益の会社が年初来安値圏にあるという食い違いが起きています。この下落の主因は業績の悪化よりも、売上高の見かけ上の伸び悩みと、2021年から5年間続くPERの切り下がりにあります。順番に数字で確認します。
2026年に入ってからの株価の動き
まず時系列を整理します。4月上旬までは3,000円台を試す展開でしたが、そこから決算発表を挟んで下げが続き、発表後の6月1日に年初来安値をつけました。
| 日付 | 出来事 | 株価 |
|---|---|---|
| 2026年4月9日 | 年初来高値 | 3,040円 |
| 2026年5月15日 | 2026年3月期本決算を発表 | 発表を挟んで下落継続 |
| 2026年6月1日 | 年初来安値 | 2,320円 |
| 2026年6月8日 | 直近の株価水準 | 2,358円 |
6月上旬時点の時価総額は約562億円です。参考までに、日経平均は2026年6月に6万3,000円台へ乗せて史上最高値を更新しています。AIや半導体関連の大型株に資金が集中する局面では、内需の中小型株が指数と逆方向に動く例は珍しくなく、グリムスの下げにはこの地合いの影響も重なっています。ただ、地合いだけで24%の下落は説明しきれません。決算の中身を見ます。
2026年3月期決算の数字を分解する
2026年3月期の実績と会社予想の比較が下の表です。
| 項目 | 実績 | 前期比 | 会社予想 | 予想との差 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 339.36億円 | +1.8% | 358.16億円 | 約19億円の未達 |
| 営業利益 | 71.52億円 | +10.0% | 71.50億円 | ほぼ計画どおり |
| 年間配当 | 85円 | +6円 | 据え置きから増配 | – |
営業利益は計画を守って過去最高を更新しました。ただし、アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスは営業利益74.5億円だったため、市場の期待には約3億円届いていません。もう一つ目立つのが売上高です。前期の増収率が11.5%だったのに対し、今期は1.8%へ急減速したように見えます。会社予想に対しても5%強の未達でした。株価が決算をまたいで下げ続けた背景には、この売上の減速と、コンセンサス比の未達という2つの要因があります。
売上未達の正体は小売電気の転嫁減
ここで売上減速の中身を確認します。グリムスの小売電気事業では、電力市場価格の低下と容量市場拠出金の負担軽減により、顧客へ転嫁する金額が減りました。転嫁額が減れば売上高は減りますが、仕入れにあたる売上原価はそれ以上に減ったため、利益はむしろ増えています。つまり、売上を押し下げた要因が、そのまま増益の要因でもあるという構造です。
実際、セグメント別に見るとエネルギーソリューション事業は売上高146.93億円で前期比5.4%増、セグメント利益は50.32億円で同11.0%増と伸びています。差し引きで小売電気事業の売上高は約192億円となり、前期から微減です。物販の主力事業は成長を続けており、売上全体の減速は電力市場価格に連動する会計上の動きが大きいと整理できます。
この現象は今回が初めてでもなく、2024年3月期にも売上高が4.7%減となる一方で営業利益は過去最高を更新しました。売上高の増減だけでこの会社の成長を判断すると、構造を見誤ります。見るべきは物販の受注と各セグメントの利益です。
容量市場拠出金とは:
将来の電力供給力を確保するために2024年度から本格運用が始まった制度上の費用で、小売電気事業者が発電事業者側へ支払います。小売事業者はこの費用を電気料金に上乗せして顧客へ転嫁するため、拠出金の負担が軽くなると売上高と原価が同時に縮みます。利益への影響と売上への影響が逆方向に出ることがある点が、決算を読むうえでのポイントです。
5年で利益はおよそ4倍、株価は5年前の高値より下
次に、より長い時間軸で見ます。グリムスの株価の10年来高値は2021年9月17日の3,205円で、現在の株価はそこを2割以上下回っています。一方、時価総額は2021年3月末の433億円、2022年3月末の512億円に対し、現在は約562億円とほぼ横ばい圏です。その間に予想PERは大きく低下しました。
| 時点 | 予想PER |
|---|---|
| 2021年3月末 | 38.46倍 |
| 2022年3月末 | 23.75倍 |
| 2023年3月末 | 22.11倍 |
| 2024年3月末 | 14.55倍 |
| 2025年3月末 | 11.9倍 |
| 2026年6月時点 | 10.14倍 |
時価総額がほぼ横ばいのままPERが4分の1近くまで下がったということは、1株利益がおよそ4倍に増えた計算になります。株価は1株利益とPERの掛け算で決まるため、利益の増加をPERの低下が打ち消し続けた5年間だったわけです。中身が良いのに株価が上がらないという感覚の正体は、この評価の切り下がりにあります。
では、なぜPERが下がり続けたのか。理由は複数あり、単一の原因に絞れません。第一に、事業の主軸が電子ブレーカーやLED照明などの省エネ機器販売から、2023年3月期以降は事業用太陽光発電システムと蓄電池の物販へ移ったことです。物販はフロー収益で、翌期も同じ売上をゼロから積み直す必要があるため、市場は成長の持続性を割り引いて評価しやすくなります。第二に、2021年初や2022年の電力市場価格の急騰で新電力の撤退や事業縮小が相次いだ経緯があり、電力小売を抱える事業モデルへの評価が全体として慎重になったことです。第三に、日銀の利上げが進んだこの数年は、PERの高い成長株ほど評価の切り下げを受けやすい金利環境でした。
電子ブレーカーとは:
グリムスの祖業にあたる商品で、工場や店舗の低圧電力契約の基本料金を下げるための機器です。電流をデジタル制御で監視し、短時間の過電流ではすぐに遮断しない特性を活かして契約容量そのものを小さくします。中小企業への訪問提案でこの商品を売り広げた営業網が、その後の太陽光や蓄電池の販売基盤になっています。
フローとストック、2セグメント体制で何を目指すのか
会社は2026年3月期からセグメントを再編し、物販中心のエネルギーソリューション事業と、電力小売を行う小売電気事業の2区分にしました。物販のフロー収益と、電力小売や系統用蓄電池のストック収益を分けて見せる整理です。2027年3月期の会社予想は次のとおりです。
| 項目 | 2027年3月期予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 371.74億円 | +9.5% |
| 営業利益 | 79.00億円 | +10.5% |
| 経常利益 | 79.28億円 | +8.8% |
| 純利益 | 53.76億円 | +9.8% |
| 年間配当 | 93円 | +8円 |
会社は事業用太陽光発電システムの販売拡大、系統用蓄電池の稼働基数の積み上げ、小売電気の契約数増加の3点を成長の柱に置いています。売上も2桁近い伸びに戻る計画で、前期の1.8%増が一時的な会計要因だったという会社側の説明と整合します。PERの切り下がりを止める材料があるとすれば、系統用蓄電池を中心とするストック収益が四半期ごとに目に見えて積み上がるかどうかです。
系統用蓄電池とは:
特定の建物に付属せず、送電網に直接つなぐ大型の蓄電池です。電力市場価格が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電して差益を得るほか、電力の需給バランスを調整する市場からも収入を得ます。太陽光の普及で昼間の電気が余りやすくなった日本では、この価格差を収益化する事業者が増えています。
指標で見る現在地と評価のねじれ
現在の投資指標を並べます。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 株価(6月8日) | 2,358円 |
| 予想PER | 10倍台前半 |
| PBR | 2.8倍 |
| 予想ROE | 27.6% |
| 予想配当利回り | 3.94% |
| 自己資本比率 | 68.0% |
| 予想配当性向 | 計算上約41% |
東証全体の平均ROEが9%前後とされるなかで、ROE27%台の会社がPER10倍台前半で取引されている状態です。2024年3月期に配当性向の目標を30%へ引き上げて以降、増配が続き、2027年3月期予想ベースの利回りは4%近くまで来ました。かつて予想PER38倍で買われた成長株が、数年で配当利回り4%の還元株の顔つきに変わったことになります。
ただし、割安に見える指標にも留保が要ります。PBRは2.8倍あるため、資産面の割安さによる株価の下支えは薄く、利益成長が止まればPER10倍でも安い保証はありません。加えて、有価証券報告書ベースで創業者の田中政臣氏が発行済株式の4割超を保有するオーナー企業のため浮動株が少なく、機関投資家の売りが続くと下げの速度が出やすい需給構造です。今回の2カ月で24%という下落幅にも、この需給の薄さが影響した可能性があります。
次の判断材料は8月の第1四半期決算
前期の第1四半期決算は8月6日に発表されており、今期も8月上旬が目安になります。確認したいのは3点です。1点目はエネルギーソリューション事業の売上と利益の伸びで、太陽光と蓄電池の物販が通期9.5%増収の計画を支えるペースかどうかを見ます。2点目は系統用蓄電池の稼働状況で、ストック収益の柱が実際に積み上がり始めているかを開示資料で確かめます。3点目は営業利益の通期進捗率で、前期は第3四半期時点の進捗80.1%が過去6年平均の87.7%を下回っており、今期も進捗の遅れが出るなら計画の実現性を割り引く必要があります。
決算短信はグリムスのIRページで誰でも無料で読めます。SBI証券や楽天証券、マネックス証券の銘柄ページでもコンセンサス予想との比較が確認でき、決算発表前にチェックしておくと当日の株価反応を落ち着いて受け止められます。
結論として、グリムスの下落は業績の崩れによるものというより、売上の会計的な減速が成長鈍化と受け取られたことと、5年間続く評価切り下げの延長線上にあるものです。営業利益は計画どおり過去最高を更新しており、事業の中身と株価の評価は現時点で食い違っています。この食い違いが解消するかどうかは、ストック収益の積み上がりを示す四半期決算次第です。保有や新規購入を検討する場合は、株価の上下ではなく8月の第1四半期の数字を判断の起点に置いてください。


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