エーザイ(証券コード:4523)は、2026年3月期第3四半期において、アルツハイマー病治療薬レケンビの売上は前年同期比109%増の618億円を記録しました。
それでも株価は低迷しており、市場は何かを見落としているのかもしれません。さらに重要なのは、2026年5月24日というFDAの審査終了目標日が迫っているという事実です。
レケンビとは何か、なぜここまで売上が伸びているのか
レケンビ(一般名:レカネマブ)は、エーザイと米国のバイオジェンが共同開発した早期アルツハイマー病治療薬です。2023年に米国FDAの本承認を取得し、その後EU、英国、日本など主要市場で相次いで承認されました。
この薬の特徴は、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドベータを脳内から除去することで、病気の進行を約27%遅らせる効果があることです。認知症の根本的な治療に近づく薬として、世界中の医療関係者と患者家族から注目されています。
売上が急増している背景には、医療現場への普及加速があります。2025年の第2四半期(4月から6月)時点では四半期売上高が1億6,000万ドルと、前年同期の4倍に達しました。診断技術の向上により適切な患者を特定しやすくなったことと、保険適用の範囲が広がったことが主な要因です。
また、アルツハイマー病という疾患の市場規模も考慮する必要があります。日本だけでも600万人以上の認知症患者がいるとされており、世界全体では5,500万人以上が認知症を抱えています。そのうちアルツハイマー病が占める割合は約60から70%です。この規模の市場でファーストクラスの治療薬を持つことの意味は、計り知れません。
5月24日のFDA審査終了目標日が持つ意味
今から最も重要なのは、2026年5月24日というPDUFAデートです。PEDUFAデートとは、FDAが審査の終了を目標とする期日のことで、この日までに承認または否認の判断が出ることが見込まれます。
今回の審査対象は、皮下注射製剤レケンビ IQLIKの初期療法への適応拡大です。現在のレケンビは主に点滴静注による投与か、18か月の初期治療後の維持療法として皮下注射製剤を使う形で普及が進んでいます。今回の申請が承認されれば、皮下注射製剤を治療の最初の段階から使えるようになります。
この違いがなぜ重要かというと、点滴静注は医療機関に通院して受ける必要があるのに対し、皮下注射は自宅でオートインジェクターを使って自己投与が可能だからです。治療のハードルが劇的に下がり、これまで投与を躊躇していた患者層にも広く普及することが期待されています。
実際に皮下注射による維持療法としての製剤は、2025年10月に米国で既に発売済みです。そして2026年1月26日、FDA優先審査として受理されたことが発表されました。優先審査の審査期間は通常審査の半分程度であるため、5月24日という日程が設定されました。エーザイは日本においても2026年9月末までの承認取得、12月末までの発売を目指しています。
レケンビ IQLIKの承認スケジュール:
2025年8月:維持療法としての皮下注射製剤がFDA承認。2025年10月:米国で新発売。2026年1月:初期療法への適応拡大申請がFDAに受理され、優先審査に指定。2026年5月24日:FDA審査終了目標日(PDUFA)。2026年9月末:日本承認目標。2026年12月:日本発売目標。
皮下注射という使いやすさがもたらす売上への影響
医薬品の普及において、使いやすさは売上に直結します。現在のレケンビ点滴静注は、隔週で医療機関を受診して約1時間の点滴を受ける必要があります。これは患者にとっても家族にとっても負担が大きく、治療継続のハードルとなっています。
皮下注射製剤では週1回のオートインジェクター投与となるため、患者が自宅で投与できます。通院の頻度が大幅に減り、働きながら治療を続けることも現実的になります。
投与方法の変更が売上に与える影響はほかの薬でも実証されています。関節リウマチの治療薬や糖尿病治療薬など、点滴から皮下注射または経口剤へと移行した薬の多くで、普及率が大きく向上した事例があります。
アナリストの試算では、皮下注射製剤の初期療法への適応が認められた場合、レケンビの市場浸透率は現在より数倍に拡大する可能性があるとされています。薬価の問題はありますが、使いやすさの改善はこれまで治療を受けられなかった患者層を取り込む大きな力になります。
株価が最安値圏にある理由と、市場の見落とし
売上が倍増しているにもかかわらず、エーザイの株価が低迷している背景には複数の要因があります。
まず、利益面での課題です。レケンビの開発・販売に多額の投資が続いており、研究開発費と販売促進費が利益を圧迫しています。2026年3月期の通期予想では営業利益は545億円と前期比ほぼ横ばいで、売上の伸びが利益に直結していません。
また、配当性向が一時的に100%を超えている点が機関投資家の警戒感を招いています。ただし、エーザイの財務体質は比較的健全であり、増大するレケンビ収益が研究開発費の回収と利益拡大につながる段階が近づいていることを考えると、この状況は一時的なものと見ることもできます。
市場が見落としているかもしれない点は、売上成長のS字カーブです。新薬が市場に普及するプロセスは通常、初期の緩慢な立ち上がりから急速な加速期に移行します。レケンビの売上は今まさにその加速段階に入りつつあります。2025年第2四半期の四半期売上が前年比4倍になったという事実は、その加速を示しています。
加えて、5月24日のFDA承認が実現すれば、市場の認識が大きく変わる可能性があります。承認後は適応が広がり、患者数と医師の処方頻度が増え、これまで点滴を嫌がって治療を先送りにしていた患者が自宅注射で治療を始められるようになります。
投資家が考えるべきリスクと機会のバランス
FDA審査が必ずしも承認で終わるとは限りません。追加データの提出を求められたり、審査が長引いたりする可能性はゼロではありません。また、薬価の問題は常についてまわります。アルツハイマー治療薬は保険適用の議論が続いており、広範な普及のためには薬価の引き下げ圧力がかかることも予想されます。
競合薬の存在も見逃せません。米国のイーライリリーもアルツハイマー治療薬ドナネマブを持っており、同様の市場で競合しています。二つの薬が同じ患者を取り合う形になれば、レケンビの成長率が予想より鈍化するシナリオもあり得ます。
一方で機会を整理すると、5,500万人という巨大な潜在市場、皮下注射化による普及加速、日本を含む各国での新規承認、そして株価が過去10年の最安値圏にあるという事実が重なっています。5月24日のFDA審査結果は、市場にとって大きなカタリストとなる可能性があります。
エーザイの株を検討する際は、この5月24日という日付を念頭に置きつつ、承認の可能性と不承認のシナリオを両方想定した上で判断することをおすすめします。投資判断は最終的にご自身の責任で行っていただく必要がありますが、今の株価水準で世界的な新薬の成長ストーリーを持つ銘柄を見落とすのは惜しいかもしれません。


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