暗号資産市場でビットコインが価格面の注目を集める一方、イーサリアムは2026年に入っても2,000ドル台での低迷が続いてきました。2025年末のビットコイン急騰局面でも追いつけず、市場では割り負けしているとの評価が広まっています。
ETH現物ETFへの資金フローに静かな変化が起き始めており、機関投資家の動向を示す複数の指標が底打ちを示しています。2025年5月のPectraアップグレードから1年が経つ今、イーサリアムが再評価されるための条件が着実に積み重なりつつあります。
Pectraアップグレードで何が変わったのか
2025年5月7日に実施されたPectraアップグレードは、イーサリアムの歴史において最も多くの改善を一度に統合したアップグレードとして記録されています。11のEIP(イーサリアム改善提案)が同時に実装され、バリデーターの柔軟性向上・ネットワークのスケーラビリティ改善・ユーザー体験の向上という3つの領域が大きく進化しました。
機関投資家にとって最も意味が大きかったのが、バリデーターのステーキング上限の変更です。従来のバリデーターは32ETHを一単位として運用する仕組みでしたが、Pectra後は最大2,048ETHまでを一つのバリデーターで管理できるようになりました。上限が64倍に拡張されたことになります。大規模なポジションを持つ機関投資家にとって、以前は多数のバリデーターに資金を分散させる運用コストが必要でしたが、Pectra後はその手間と費用が大幅に下がっています。
コインベースはこの変更について、機関投資家が自前のバリデーターを運営する動機を高める決定的なインフラ整備のステップと評価しています。特にカストディアン(暗号資産の管理業者)を通じて大量のETHを運用している機関にとっては、バリデーター管理の効率化が直接的なコスト削減につながります。
ETF資金フローが底打ちした背景
ETH現物ETFは2024年の米国上場後、しばらく資金流出が続きました。ビットコインETFと比べて資金流入の規模は小さく、市場では機関投資家の関心が薄いとの評価が定着しかけていました。しかし2026年に入り、この流れに変化が生じています。
複数のETFデータプロバイダーの報告によれば、Pectraアップグレード後にETH ETFへの週次資金流入が一時的に急増し、その後も安定した正の流入が続くようになりました。数億ドル規模の週次純流入が複数回観測されており、コンスタントな機関マネーの参入が始まっている兆候が現れています。
資金流入の背景として注目されているのが、ステーキングETF承認の可能性です。現行のETH現物ETFはETHの保有はできますが、ステーキングによる収益は得られない構造になっています。これが解消されると、ETFを通じてETHのステーキング利回り(年率3〜5%程度)が得られるようになり、機関投資家にとっての魅力が飛躍的に高まります。フィデリティ・デジタルアセッツは、ステーキングETF承認が実現した場合、数百億ドル規模の新規資金流入につながると試算しています。
ビットコインETFとの比較で見えること
ビットコインETFが機関投資家に受け入れられた最大の理由はシンプルさにあります。ビットコインは技術的な機能変更がほぼなく、デジタルゴールドとしての価値保存手段というストーリーが理解しやすいからです。ブラックロックやフィデリティがビットコインETFに大量資金を投じた際、投資委員会に対して説明しやすいという実務的な理由も大きかったとされています。
一方でイーサリアムの評価は難しいのが現状です。PoS移行・シャーディング・Pectraと矢継ぎ早にアップグレードが重なり、技術的な変更についていくのが難しいという声もあります。しかし裏を返せば、これはイーサリアムが継続的に改善できる数少ない暗号資産であることを意味します。技術的な成長余地があるという点で、単なる価値保存手段とは異なる評価軸が存在するのです。
2026年のアップグレードロードマップ
Pectraに続く次の大型アップグレードとして、Glamsterdamが2026年前半に予定されています。このアップグレードは主にベースレイヤーの処理効率改善を目的としており、並列処理の拡張とePBS(実行提案者・構築者分離)の統合が主な内容です。
並列処理の拡張は、トランザクションを順番に処理するのではなく複数を同時並行で処理できるようにする改善であり、ネットワークのスループット向上に直結します。ePBSは、ブロックの提案者と構築者の役割を明確に分離することでバリデーターの中立性を高め、MEV(最大抽出可能価値)に関連する問題を軽減する狙いがあります。さらに2026年後半にはHegotaアップグレードも予定されており、イーサリアムは2026年だけで2段階の技術的進化を経ることになります。
イーサリアムの主要アップグレード履歴(2024〜2026年):
2024年3月にDencunアップグレード(L2のガス代を大幅削減)。2025年5月にPectraアップグレード(バリデーター上限64倍拡張、11のEIP実装)。2026年前半にGlamsterdam(並列処理拡張、ePBS統合)。2026年後半にHegota(詳細は審議中)。技術的な進化サイクルが続いています。
投資家はどう向き合うべきか
価格面では、複数の調査機関による2026年末の価格予想は5,000〜6,100ドル台に集中しており、現在の2,000ドル台との差は大きくなっています。ただしこれらはあくまで予測であり、実現を保証するものではありません。暗号資産市場全体のリスクオフの動きや、規制環境の変化次第で大きく下振れる可能性は常に存在します。投資の判断はあくまで自己責任で行うことが前提になります。
一方で構造的な強みとして押さえておきたいのは、イーサリアムがDeFi(分散型金融)とステーブルコインの実質的な標準基盤であるという事実です。現在流通するステーブルコインの大半はイーサリアムのEVMと互換性のあるチェーン上で動いており、この生態系を短期間で別のチェーンに移行させることは現実的ではありません。ネットワーク効果による強みが、価格の短期的な動きとは別の次元で蓄積されています。
ビットコインを価値保存の手段として持つ投資家とは異なり、イーサリアムへの投資は技術的なアップグレードサイクルと機関投資家の動向という二つの軸を継続的に追う必要があります。それを手間と感じる投資家には向きませんが、この二つの軸を理解した上で向き合うと、ビットコインとは全く別の評価ができる暗号資産だということが見えてくるはずです。
Pectra後の1年が示す変化のシグナル
Pectraアップグレードから1年が経とうとする今、イーサリアムの周辺で起きている変化は小さいですが確実です。ETF資金流入の底打ち、バリデーター参加の機関化、ステーキングETF承認への動き、そして2026年内に予定されている次のアップグレードへの期待。どれか一つが劇的な変化をもたらすわけではありませんが、複数の変化が同時に動いているという事実は軽視しにくいものです。
ビットコインに隠れて目立たない時期が続いていますが、その分だけ過小評価されている可能性もあります。機関投資家が本格的な再評価フェーズに入るタイミングを先読みできるかどうかが、今後数ヶ月のイーサリアムとの向き合い方を左右するでしょう。


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